秋葉原で起こった例の事件だが、低賃金で重労働を強いられていたからといって、犯人の加藤智大に同情するつもりなどない。派遣だからって通り魔なんぞされちゃたまらん。
通り魔など目新しい犯罪ではなく、古くは川俣軍司など、この日本でも度々発生している。アメリカなんざ銃を持った者による無差別発砲事件など珍しくもない。
加藤や川俣がなぜこの犯行に及んだかを、彼らの収入や職歴だけで語れるものではない。二人とも収入が不安定だったようだが、人間がどんな理由で人間社会を恨むに至るのかは、本人でないと理解できない。収入も生活も安定している者なら彼らのような感情は生じないと、断言できるだろうか?
たとえば俺と加藤を比較すれば、おそらく彼よりは収入が多くて雇用状態も安定しているだろうが、俺に言わせりゃ加藤の25歳という若さが妬ましい。つーか加藤には、俺みたいに給料未払いのまま社長がトンズラ、という経験はないだろう。下には下がいるんだぞ。甘えるなw
若くて五体満足のクセに自分は負け組、弱者、もうだめぼ・・・なんて決め付けは全くの甘えである、と言わせてもらおう。お前より弱い奴だって世の中にはいっぱいいるぞ!
それに加藤や川俣の、同じ仕事を続けられない癖は致命的である。真剣に取り組む気があればある程度の職を見つけられたかもしれないし、彼女だってできたかもしれない。努力を放棄した末に、通り魔をしたくなるような感情を抱いたのは「自己責任」ではないか?
あの事件は「テロ」ではなく「心中」だと、なんとかいう作家が述べていたが全く同感である。あれは他人を巻き込んだ自殺である。
人類が、自分で自分の人生を終わらせることを思いついたのは何十万年前だろうか。そして現代人は自殺の際に赤の他人を巻き添えにするという、人間社会へ報復する手段があることを知ってしまった。これからも同種の犯罪は忘れたころに起きるだろう。対策などない。通り魔の心情は通り魔でないと理解できない。
もっとも、派遣という不当な雇用手段がある限り、あのような犯罪もより起きやすくなるだろう。遅くなったが以下は6月20日朝日新聞特集記事「派遣はいまA」及び「派遣社員4人の本音座談会」より引用。
ある派遣会社から「派遣スタッフ」として日本郵便逓送(日逓)に派遣され、コンビニから「ゆうパック」を回収する仕事をしていた松川隆夫さんは、働き始めてから2年11ヶ月と20日経った時、4ヶ月間だけ日逓の直接雇用のパートになることを求められた。そのときは「待遇は何も変わらず、4ヶ月経てば元の派遣に戻る」という説明に疑問を感じなかった。
そして4ヶ月間働いたのだが、派遣に戻る前日に派遣会社の社員から「もう来なくていいです」と、契約解除を受けた。
松川さんは「3年同じ仕事をさせていたら、直接雇用の義務があるんじゃないですか」と質問したが、派遣会社の社員は「淡々と」、「10日足りませんね」と言ったという。
つまりこういうことだ。
● 派遣先企業には、3年を超えて派遣労働者を受け入れていると直接雇用する義務が生じる。
● 派遣労働者を一度直接雇用すると、派遣労働の期間はリセットされる。
● しかし派遣期間は3年満たなくとも、パートとして直接雇用した日数が3ヶ月以内なら、派遣労働が継続していたとみなされる。この3ヶ月が厚生労働省の指針の「クーリング期間」である。
● たとえば、派遣労働者を2年11ヶ月働かせ、その後に2ヶ月間だけパートとして直接雇用したとしても、3年を超えて派遣労働をさせていたとみなされ、直接雇用する義務が生じる。
● しかし松川さんの場合、派遣労働者だった期間は2年11ヶ月+20日で、パートとして直接雇用されたのは4ヶ月である。どちらの条件にも当てはまらないので、日逓が松川さんを直接雇用する義務は無いのである。人を馬鹿にした脱法行為である。
派遣ユニオンに加入した松川さんはこの不当な仕打ちに対し、日逓へ直接雇用を求めて東京都労働委員会に斡旋を申し立てている。
座談会の記事では匿名の派遣労働者が、このようにいつ職を失うとも限らない不安を告白している。
加藤智大が自分のつなぎが無くなったと思い込んで暴れた件については、「正社員には何でもないことでしょうけど。労働基準法では解雇の1ヶ月前には予告が必要なのに、派遣社員は1週間前とか当日とか、直前に仕事打ち切りを通告されるのが現実」と述べる。彼は秋葉原の事件については「とうとう起きたか」と思ったという。
また勤務シフトも派遣にしわ寄せが来る。別の労働者(女性)が自動車部品工場に派遣されていたとき、正規の女性行員が夜勤を断ったところ、派遣社員が夜勤を行う羽目になった。
午後6時から午前3時までの夜勤だけで週5日働き、これを5年間続けていたら生理が止まったという。
このように立場の弱い派遣や請負労働者に、正社員が嫌がるような仕事が回される現実がある。正規社員が夜間勤務を拒否したのは労働者として当然の権利であるが、派遣労働者にも同じ権利が与えられなくてはならない。
また派遣や請負労働者は、同じ労働者であるはずの正規社員から差別的な扱いを受けることも少なくない(これは俺も多少は経験したなあ)。
この女性は派遣先で、男性行員と話しをしただけで正社員や派遣社員からにらまれたり、上司から「床を、モップを使わず素手でふけ」と命じられたりなど、多くのいじめにあったという。
彼女は「せめて、名前で呼んで。『おい、そこの派遣』と言われるのはもうたくさん」と訴える。
企業にとって派遣労働者は使い捨て出来る便利な道具に過ぎない。それが正規社員の態度にも表れるのだろうか。人間が人間として扱われない派遣労働に依存している日本国に明日はない。
そもそも労働力を求めているのに正規雇用しないことは言語道断であるが、いつでも人員の増員・削減が容易であれば経営上有利な業界も多いだろう。昼夜交代で増産していたのにバッタリと売れなくなったときなど大幅な人員整理が必要だろうが、こういう面でも非正規雇用労働者が求められるのである。
企業にとっては、消費者には車でも家電でも携帯でも、なるべく短いサイクルで買い換えて欲しい。売れ行きが芳しくない製品はさっさと引っ込めたい。保守対応期間もなるべく短くしたい。次から次へと新製品を出したり引っ込めたり馬鹿じゃねえかと思うが。悪いが貧乏な俺はあんまり付き合えないね。
しかし、こうして増産・減産を繰り返し、人間も製品も使い捨てにしてきた先に何が残るのだろうか。これを戦後60年続けてきた日本に残されたのは巨額な借金と破壊し汚染された国土、リサイクルも出来ないゴミの山、農地の荒廃である。
非正規雇用を厳しく規制すると共に、こうした産業構造自体を改めなくてはならないだろう。
2008年07月05日
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