2008年08月08日

【民主化リーダーたちが語る中国の人権】

(問答有用より転載)
8月2日、アムネスティ・インターナショナル主催の「北京五輪直前シンポジウム 民主化リーダーたちが語る中国の人権」という集会に参加しました。中国民主党海外本部主席の徐文立さんと、雑誌「北京之春」の編集長の胡平さんの講演、そしてパネルディスカッションを行うイベントです。会場は早稲田奉仕園のスコットホールでした。
5月8日の胡錦濤・中国国家主席来日に伴う抗議行動に続いて、早稲田の地を訪れるのは二度目です。早稲田大学では今年4月、学生が不当に逮捕される事件があり、門の内側には「セクト組織や宗教団体の勧誘に注意、署名などしないように!」という大きな看板が立っていました。

2001年に北京オリンピック開催が決定した際、中国政府は人権状況を改善すると国際社会に公約しましたが、これは見事に破られました。アムネスティはこの公約の反故を厳しく抗議するとともに、不当に拘束されている多くの人権活動家の釈放を求めて活動しています。
会場では、北京オリンピックに伴う建設工事のため自宅を強制収用され、抗議のデモを計画したところ逮捕され服役し、刑期満了後も官憲によって連行され監禁されている葉国柱さんヤフーメールをアメリカに送っただけで逮捕された師濤さんらの釈放を求める中国政府宛の葉書が配布されました。
(師濤さんは2004年11月、政府のマスコミに対する指令書に関する内容を、ヤフーを使ってアメリカに送りましたが、ヤフーが中国政府の要求に応じて師濤さんの個人情報を提供したため、国家の機密を漏らしたという理由で逮捕され、2005年に懲役10年の判決を受け服役中です。中国政府はもちろんのこと、独裁国家の脅迫に屈してユーザーのデータを提供してしまったヤフーも断じて許せません。ヤフーのユーザーなら誰しも同じ危険性を感じるでしょう。それこそ政府を批判するメールを出しただけで公安に身元が筒抜け、という事態も想像できます。このユーザーに対する背信行為を厳しく糾弾しなければなりません)
この日のゲストの一人の徐文立さんも獄中生活の経験があります。
■ 徐文立さんは1980年、「庚申1980年度変革建議書」を発表して逮捕され、1993年に恩赦で出獄しましたが、1998年に「中国民主党」を結成して再び逮捕され、2002年に釈放され渡米し、現在はブラウン大学で名誉博士として上級研究員を勤める一方、中国民主党海外本部主席を任じています。
獄中ではずっと独房でしたが、お陰で人目を気にせずに執筆に専念し、「秘密の手段」でアメリカに送り(どんな手段だったのか今でも明かせないそうです)、「北京之春」に掲載されました。(これは後に「人類社会の正常な秩序の概論」というタイトルで出版されたそうです)
これが明らかになると徐さんは懲罰としてわずか3平方メートルの「反省房」に移され、家族の面会も禁止となり、暑さと蚊だらけの劣悪な環境で5年間耐え忍びました。ソニー製の監視カメラがずっと自分を写していたそうです。
徐さんの妻や娘も、「中国では人権問題に関心があるのは3〜5%、残りは無関心」という日本と同じような状況の中で、無理解と差別に苦しみました。娘が学校で教師に「お父さんはどうしているの?」と質問され、思わず「時々帰ってくる」と答えてしまったとき、教頭が「このウソつき!お前のお父さんは帰ってこない!」と罵ったそうです。

■ 胡平さんは70年代末に北京で流行していた「民主の壁」運動に参加していました。これは北京市内の一角に市民が「壁新聞」を貼り付けて主張する運動でしたが、これも1979年に禁止されてしまいました。その頃に徐さんと知り合ったそうです。
その後は編集者や研究員として活躍していましたが、1987年にハーバード大学留学のため渡米し、民主化運動のリーダーとなりました。
中国では天安門事件以降、市民からの政治についての発言も以前よりは多く出るようになったそうですが、暴力的な取締りが待ち受けていたのは変わりません。旧来はマルクス主義に対する批判が弾圧されていたのに、現在は政府に対してどんなことでも批判すれば弾圧される危険性があるといいます。
「扇動罪」など政治的な罪状での逮捕が難しい場合、逮捕するための法的根拠が存在しない場合は、軽微な行動をあげつらって刑事事件として別件逮捕するそうです。ビラを投函すれば住居侵入、学生活動家が警備員と揉みあえば暴行罪として逮捕する日本政府と全く同じです。
あるいはヤクザを使って暴行させるケースもあり、ある弁護士がアメリカから北京に戻ってきたときに何者かに殴打されたことがあるそうです。中国の行政と闇社会の結びつきは強いようです。

また胡さんは、共産党政権が「改革開放路線」を進めていること、つまり資本主義に染まっているのは、社会主義が間違っていたと自ら認めたのだと指摘します。つまり、社会主義の名のもとに国民の私有財産を奪うよりも、経済発展の名のもとに国民の財産を奪う手段を選んだというのです。
一部の富裕層以外の大多数の国民が相変わらず貧しい生活を送る一方、官僚が私腹を肥やすケースが耐えない現状を見ていると、胡さんの主張には実に説得力を感じます。所詮は社会主義も資本主義も権力者や資産家の立場を守るためのシステムではないかと思いますが、中国共産党政権はその手段があまりにも拙劣で露骨です。
そして胡さんは「共産党が政権を取ったこと自体が間違っていた」結論しました。政権成立後60年の歴史と現状を正しく評価すれば、この主張には反論できないでしょう。

■ パネルディスカッションではアムネスティ事務局長の寺中誠さんと中国スタッフの北井大輔さんも加わり、活発な議論が交わされました。
寺中さんによると中国政府にとって「一番の悪玉」は、人権問題を訴え続けるアムネスティだといいます。中国ではアムネスティのサイトは最近までアクセスブロックされていましたが、抗議を重ねると北京市内だけでは解除されたそうです。 
オリンピックに備えて北京では物々しい警備が布かれ、地対空ミサイルまで配備されていますが、徐さんは「テロ対策などではなく、人民を脅すためのものだ」と指摘しました。しかし「このように人民を武力で威圧する専制政治は時代が許さない」と将来を展望し、「中国の未来は政府ではなく、人民が決める」と述べました。中国国民が自らの手で共産党政権を打倒し、よりよい社会を創ることを願います。

また、「徐さんが逮捕されたとき、逮捕の経験はない胡さんはどういう気持ちだったのか」という質問があり、「逮捕されなかった私は、逮捕されてしまった徐さんをひと時も忘れることはなかった。逮捕されていない人は、逮捕された人のことを忘れてはならない」と答えました。
たしかに逮捕されていない私たちも、中国で拘束されている多くの人権活動家や、チベット族やウイグル族の人々や、アフガニスタンやイラクでテロの容疑者として拘束された人々や、ミャンマーの僧侶や、ビラを投函して有罪判決を受けた人々や、この会場の近くの早稲田大学や法政大学の弾圧被害者のことを忘れてはならないでしょう。

■ 最後に、徐さん救援活動を粘り強く続けていたアムネスティ金沢グループの前田さんから徐さんに記念品の贈呈があり、お二人は強く手を握り締めました。徐さんは1998年11月の二度目の逮捕で懲役13年の判決を受けましたが、2002年12月に釈放(国外追放)されています。全世界からの徐さんの釈放を嘆願する多くの葉書が中国政府を揺るがしたのでしょうか。
現在も拘束されている人々の救援に、私も微力ながら協力したいと思います。


・・・まもなく北京オリンピックが開幕します。再びイスラム過激派のテロ予告があり、北京では「FREE TIBET」の旗を掲げたイギリス人らが国外追放され、世界各国の中国大使館前では抗議行動が行われています。北京オリンピックを阻止したい志は共感しますが、暴力的な手段は避けてもらいたいものです。
posted by 鷹嘴 at 20:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 中国の人権問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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