■ 1997年7月、アメリカのある大手病院チェーンがFBIの捜査を受け、健康保険の不正請求が明らかになった。そして2003年6月、この詐欺事件の捜査によって総計17億円を回収したと発表された。この17億円のうち、二名の内部告発者に対しなんと計1億ドルが報奨金として手渡されたのである。山分けして5000万ドルだったとして、今だったら円で52億ぐらいか?
企業の不正を社員が内部告発すれば、肩身の狭い思いをさせられ、昇進などとても望めないのは洋の東西を問わないようだが、アメリカでは「不正請求防止法」などの、内部告発者を保護する制度がある。企業の政府に対する不正請求が発覚し、その被害を回収できれば、その回収額のうち最大30%を、告発者に報奨金として与える制度である。
また、企業の不正請求を知った告発者が、政府に返還させるために勤務先を訴え、勝訴すれば政府は不正請求額の3倍を企業から回収できる。そして告発者は最大でその30%、一億円の不正請求だったら最大9000万円を手にするのである。
このようにして巨額の報奨金を受けた人々も多く、それを当て込んで内部告発者を支援するビジネスまで誕生したという。こりゃちょっと行き過ぎだと思うけどねえ。報償金目当てに企業秘密をバラシまくる輩も出てくるだろうし。
■ ちなみに日本の企業である東洋紡も、アメリカで内部告発制度による訴訟を起こされた。東洋紡の生産した素材「ザイロン」を使って、アメリカの企業「セカンドチャンス」が防弾チョッキを生産したが、「光にあたると品質が劣化する」として、04年2月、防弾チョッキ製造元の幹部が東洋紡を訴えた。この防弾チョッキを撃ち抜かれて警官が死亡する事件も発生し、司法省もこの訴訟に参加した。
この訴訟自体は05年に和解し、「セカンドチャンス」は倒産したらしいが、07年6月、司法省は東洋紡を「セカンドチャンス」以外のメーカーへの販売分について、追加提訴した。
東洋紡はこの訴訟について「当社は防弾チョッキではなくザイロンを生産したに過ぎない。ザイロンの品質特性を何ら隠していない」と反論している。
詳しい事情なんか知らんが、アメリカで商売するのは大変なんだね。東芝もフロッピーディスクドライブで訴えられて1000億円くらい損してるもんな。東芝の肩持つつもりなんか毛頭ないけどねw
■ で、これは9月28日のニュースだけど、日本のケースはアメリカとはあまりに対照的というか両極端だねえ。
三菱重工の社員が、不正行為を社内の「コンプライアンス委員会」に告発したところ、窓際にされ、業を煮やして国土交通省にも通報したら退職を迫られ、出向させられたという。ほんと日本ってムラ社会だなあ。。。
◇ 「内部告発で報復」三菱重工社員が出向取り消し求める(1/2ページ) (魚拓)
◇ 「内部告発で報復」三菱重工社員が出向取り消し求める(2/2ページ) (魚拓)
最近「コンプライアンス」という横文字が流行っているよな。「法令遵守」って意味じゃなかったっけ。
「コンプライアンス委員会」ってのは社内で「法令遵守」を徹底させる部署じゃないのかな。
直属の上司に意見できないような場合、告発を受け付ける部署じゃないのかな。三菱の場合は違うみたいね。
どうやら三菱にとって「コンプライアンス」の意味は、法令無視を社員に強制し、逆らう者には懲罰を与えることらしい。
■ 告発者が不当な仕打ちを受けるのはこの事例だけではない。
以前に貼ったニュースだが外食チェーンのワタミは残業代未払いを告発した店員を解雇した。
キャノンは偽装請負を告発した非正規労働者を期間従業員として雇用したが、今年8月、最大2年11ヶ月の契約期間を1年も経たないのに打ち切った。この労働者は東京地裁に地位保全を求める申し立てを行ったという。
05年1月、愛媛県警の不正経理を告発した巡査部長はその直後に不当な配置転換を受けたが、慰謝料を求める訴訟を松山地裁で起こして勝訴し、先日高松高裁でも勝訴した。
■ このように日本の社会で企業・団体の内部告発を行えば、職を失う可能性がある。
ところで日本にも公益通報者保護法という、告発者を守る法律がある。しかしこの法律の施行は06年4月であり、愛知県警での事件や、三菱重工の事件(告発者が国土交通省に通報したのは05年)は適用されない。
といっても、告発者であろうとなかろうと、労働者への不当な仕打ちが許されるものではない。不正を隠蔽する企業・団体を許してはならない。
■ 再び「内部告発inアメリカ」より引用。
麗澤大学の高巌教授は、日本でもアメリカのような告発者に報奨金を与える制度が必要だと主張する。
防衛費の不正請求が発覚して返還された金額は、この10年余りで1千億円を超えるという。また農薬に汚染されたりカビの生えた米が食用として転売された事例なども「たまたま明らかになっただけで、氷山の一角」だという。
「『通報者を守ります』だけでは表に出るのは一部。通報する人にメリットを与え、通報を促す制度を議論してもいいのではないか。通報者は自分を犠牲にするわけだから」しかし、内部告発は金目当てで行うのではなく、不正を許さないために行うべきではないだろうか。アメリカのような巨額の報奨金が与えられる制度は、ますます労働者の倫理を失わせることにならないだろうか?あら探し、不正アクセスのような行為が蔓延しないだろうか?
■ 対して、公益通報支援センターの阪口徳雄弁護士は、報奨金制度を提案しつつも「それが日本の風土に合わないというのなら、『国民代表訴訟』の制度」を設けるべきだと述べる。
「国の役人が不正をしても、企業が国に損害を与えても、放置されている」「国の損害を回収するには、是正の武器を国民一人一人に与えるべきだ。『国民代表訴訟』の制度を新設し、同時に、内部告発者に一定の権利を与えれば、税金の無駄遣いはなくなるだろう」■ しかしこの制度が実現しても、組織の不正とその隠蔽が消えるとは思わない。告発を行うような勇気ある従業員はほんの一握りで、ほとんどは沈黙を守るのである。
たとえば俺は、来年二度目のチャレンジをするつもりの国家資格の勉強の中で、普段何気なく接しているビル内の設備も多くの法令によって規制されていることを知った。もし俺のようなビル管理をやっている人間が、法令に適合しない設備・状態を発見し上司や顧客に報告しても、「黙ってろ」「見て見ぬフリをしろ」と言われれば、大抵は大人しく従うだろう。職場での立場を守りたいのはもちろんのこと、余計な波風を起こしたくないのである。「なあなあ」で済ませたいのである。みんな黙っているから俺も黙っていよう、という「メダカ社会」なのである。
企業・団体が「法令遵守」を徹底するのはもちろんのこと、従業員一人一人の意識も変革しなければ、組織の不正は後を絶たず、告発者が肩身の狭い思いをするのも変わらないだろう。
【関連サイト】
◇ キヤノン偽装請負:「解雇は不当」 元期間社員が仮処分申立、「告発への制裁」訴え (魚拓)
◇ 愛媛県警配置転換訴訟、慰謝料認めた一審支持 高松高裁 (魚拓)
◇ 東洋紡ザイロン事件のまとめ?
◇ 東芝がフロッピーディスクドライブの不具合に関する米国の集団訴訟で和解
◇ 公益通報者保護法と制度の概要について 公益通報者保護制度ウェブサイト
◇ コンプライアンス − @IT情報マネジメント用語事典
企業が経営・活動を行う上で、法令や各種規則などのルール、さらには社会的規範などを守ること。一般市民が法律を遵守することと区別するために、企業活動をいう場合は、「ビジネスコンプライアンス」ともいう。
もともとは1960年代に米国で独禁法違反、株式のインサイダー取り引き事件などが発生した際に用いられた法務関連の用語であるため、「法令遵守」と訳されることが多いが、英語のcomplianceは「(命令や要求に)応じること」「願いを受けいれること」を意味し、近年では守るべき規範は法律に限らず、社会通念、倫理や道徳を含むと解釈される。
第二次大戦の戦後処理が不十分なゆえに大日本帝国の体質を21世紀までひきずっていたことがわかるひとつの象徴的出来事であると思います。
正直、どこの企業も似たようなもんじゃねえかと思います。
> 結局、日本の企業の言う「法令」というのは、世間の言う「法令」ではなく、あくまで、その「企業の法令」ということなんでしょうね。
全く同感です。
*この記事は大幅に書き足し+書き直し予定です。
「コンプライアンス」はあくまで「企業の中のコンプライアンス」
それが日本の企業の本音なんでしょうな。
例えば何でもかんでも経費として落とすのは日本特有でアメリカを始めとして海外では普通ありえないんですよね。欧州では処分ものですよ。
有能な人と無能な人との差がつかないのも日本的でしょう。
日本の会社特有の恩恵にはどっぷりとつかってる(経費での飲み食いをやめよう!なんてキャンペーンやってるサラリーマンを私は知りませんww)のに悪いところは『これだから日本はダメなんだ!』なんて叩くことの説得力の無さ、醜さを自覚しないとどうにもこうにも話になりません。
ええっ!そうなんですか?
ちっとも知りませんでした。
ajajajajaさん、どこからその情報を仕入れたのか、くわしい資料(本や論文のタイトルと著者名、ネット上であればURL)を教えてくださればとてもうれしいです。
俺は経費で飲み食いしたことなんかないぞ。
お前、バカ?