2009年05月18日

それでも裁判員制度反対!とは言わない鳥越俊太郎

 そういうわけで5月17日は二日酔いのため一日中部屋に閉じこもっていたのだが、おかげで興味深い番組を見ることができた。テレ朝の「ザ・スクープ」で二つの冤罪事件(袴田事件・日野町事件)を取り上げていたのである。

 袴田さんは1966年6月静岡県旧清水市で起きた一家4人殺害事件の犯人として逮捕され死刑判決を受けてしまった。袴田さんが疑われたのは、元ボクサーであり妻と別居中だったので「素行不良な人物だ」という偏見だった。袴田さんに怪しい素振りがあったわけではない。言うなれば誰でもよかったのである。警察はメンツのために誰かに罪を被せたかったのである。
 殺害を行った証拠として、検察は袴田さんの左手の中指に出来た傷を「刃物を使ったときの傷だ」と指摘した。しかし人差し指には傷がなかった。返り血で刃物を持った手が滑ればまず人差し指に傷が出来るはずだ。
 しかも同じ刃物で何度も何度も刺したというが、凶器にはわずかな刃こぼれしか見られない。刃こぼれでボロボロになるはずだが?
 また、逮捕後9ヶ月も経ってから警察は証拠品として「返り血を浴びた犯人のズボン」を提出した。しかしこのズボンは袴田さんにはサイズが小さすぎて履けない!警察はこのズボンは味噌倉から発見したので、味噌に浸かっていて縮んでしまったんだ、と説明したが、服飾専門家によると衣類が縮むのは着用して繊維が傷むためだという。だいたい履けなくなるほど縮むものか!
 しかも9ヵ月間味噌倉に浸かっていたというそのズボンには返り血が赤い色のまま残り、味噌が染み込んだ様子もなかった。弁護団が同じ条件で実験を行ったところ、ズボン全体が味噌の色に染まり、血も茶色く変色したという。血液が鮮やかな色を保てるのはそんな長い時間ではないことは子供でも知っている。
 一審で死刑判決文を書いた裁判官によると、自分は無罪だと信じていたが他の二人の裁判官が死刑を主張したため、多数決でこの判決が決まってしまったという。彼はその後裁判官を辞め弁護士となったが、罪悪感から酒浸りとなり、妻子は彼の元を去った。袴田さんへの面会は拘置所が許可しないという。

 1984年12月、滋賀県日野町で酒屋から手提げ金庫が盗まれ、経営者の女性が山中で絞殺死体となって発見された。常連客だった阪原さんが疑われ、無期懲役の判決を受けてしまった。自白調書によると動機は「酒を買う金がなかった」ということだが、会社経営の阪原さんには当時2千万円以上の貯蓄があった。阪原さんは拷問と言えるほどの違法な取調べを受け、「娘の嫁ぎ先をガタガタにしたろうか」と脅され、「被害者の首を手で絞めて殺し、死体を遺棄した」という、自分がやっていないことを「自白」させられたのである。
 自白調書の不自然な点は多々あった。「金庫をバールでこじ開けようとしたため金庫に凹みができた」というが、テレ朝が同じ実験を行っても軽い傷が付く程度で凹みなどつかない。
軽トラックで自宅前の路地にバックして入り、死体を載せたというが、隣家の住人は「うるさい軽トラックがそんなところに入ってくれば絶対に気付いたはずだ」と証言する。
 それに荷台の死体に何も被せていない状態のまま市内を遺棄現場まで走ったというが、この時間帯(午後8時)にこの街を走ってみれば、信号待ちが何箇所もあり警察署の前も通るという、とても考えられないような状況だった。
 また、容疑者は金庫を捨てた場所に刑事を案内した・・・というのが一審有罪の根拠だったが、なぜ行ったこともない場所に案内できたのか?という疑問については、富山の冤罪事件の被害者が答えた。
 「とにかく私がやったわけではないから犯行場所なんて知っているわけないんで、適当に『そっち右、こっち真っ直ぐ』などと言っていたら、刑事が『違うだろ、ここは左だろ』『ここは右だ』などと勝手に誘導し、犯行現場に連れて行った」

 このように自白調書は警察のお粗末な創作に過ぎなかった。これで有罪にできるんだったら誰でも凶悪事件の犯人にされるだろう。しかし「7年かかった一審判決直前、奇妙なことが起きる」。検察側が「起訴事実変更」を申請し裁判官が認めたのだ。 起訴事実によると被害金額は金庫の中の5万円だったが、これが「手提げ金庫(2千円相当)」に、殺害場所は店内だとしていたが「日野町内及び周辺」に、犯行時刻は午後8時40分としていたが「8時過ぎから翌朝まで」に変更された。どこで殺したのかも分からない。いつ殺したのかも分からない。こんなあやふやな起訴事実のまま、有罪判決が下されたのだ。 
 後日談だが、裁判官から「起訴事実を変更するように」という申し入れがあったという。裁判所が冤罪事件を作り出すためにここまで警察に協力するとは恐れ入った。つーかこの未開野蛮な国に於いては、警察と裁判所は別の組織だよな、と思うこと自体が間違っているのかもしれん。

 再審請求で弁護団は新たな証拠を提出した。自白調書では阪原さんが被害者の首を手で絞めて殺したことになっているが、死体には紐で絞めた跡があったのである!
 このように決定的な冤罪の証拠が提示されたのだが、地裁は驚くべき見解を示して棄却した。
「もし自白調書が警察の創作であったなら、こんな矛盾は生じないだろう。
 自白があやふやなのは、本人のあやふやな記憶に頼って作られたからである。
すなわち自白調書があやふやなのは、本人からの言葉であることを示している」


・・・たしかにこれも一理あるだろう。たとえば犯罪被害者の証言にはあやふやな部分があったとしても、その証言が虚偽であると断言できるものではない。あやふやな部分があってこそ自然なものである。逆に言えばその証言だけで容疑者を有罪と決めつけられるわけではない。
 この事件は物証など全く無く、ただ被告が自白していた、金庫を捨てた場所に刑事を案内した・・・ことだけで有罪が確定したのである。こんなことが通用すれば誰でも犯人に仕立て上げられるだろう。警察が矛盾だらけの自白調書を捏造すれば、誰でも「キツネ目の男」や「赤報隊」にされてしまうだろう。警察や裁判所は(というか国家権力は)、何があっても自分たちの過ちを認めないつもりなのだろうか?
 この二つの冤罪事件はそれぞれの支援者が、再審決定を求めて闘っている。

 あと3日後に「裁判員制度」がスタートするが、このような冤罪事件が多発するのは確実だろう。人権感覚など全く無いネトウヨや橋下の口車に乗った人間が集まられ、裁判所から事件の概要を検察の都合のいいところだけ抜き取って短くまとめたプリントを渡され、惨い死体写真を見せつけられ、「被告は今になって否認しているが最初は自白してました」と言われりゃ、2人や3人は無罪を主張しようとも多数決で有罪となるだろう。「不当判決だ!」と抗議しても「国民から選ばれた裁判員が下した判決ですけど、何か?」と来るに決まっている。言うなれば国家権力が国民に物を言わせないための制度である。
 この番組のメインキャスターである鳥越俊太郎は「裁判員制度の改善」と称して、「取調べの完全可視化」と「事後の調査を可能とすること」を提案した。
 完全可視化については賛成だ。容疑者が自白してしまったところだけを見せるのなら、「ウソつくな!お前が犯人だろ!」と刑事が脅していた部分も見せなければ意味がない。
 事後の調査ももちろん可能とするべきだろう。裁判員は審議の内容を一生口外してはならず、破ったら50万円の罰金刑となるそうだが、袴田事件の一審裁判官の告白も、日野町事件で裁判官からの起訴事実変更指示が後に明らかになった件も、裁判員制度運用後は法に触れることになる。警察・検察・裁判所のミス・不法行為が永久に闇に葬られてしまうかもしれない。
 しかし「事後」では意味が無いだろうが!不当な一審判決を防ぐのが第一ではないか!それに裁判員制度の問題はこの二点だけではない。3日や5日で何ができるのか?アメリカの陪審員制度は全員一致でなければ有罪にならない、と自分で言ってたじゃねえか!
 アナログ波停止についての世間知らずな発言のときにも感じたけど、こういう特権階級の人間の感覚にはついていけない。この番組自体は悪くないけどメインキャスターは交代させるべきだな。

 そんなことよりも裁判員制度絶対反対だ!



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posted by 鷹嘴 at 13:18| Comment(3) | TrackBack(1) | 冤罪事件 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
裁判員制度の凍結ないし廃止に現実感を持たせるためには次の総選挙で
1 裁判員制度の廃止または凍結を公約にしている政党に投票する
2 最高裁判事の国民審査で、裁判員制度定着のために選ばれたらしい最高裁長官を不信任にする
の2点を実行することが肝要なのではないかと思います。
とくに、2については裁判員制度の凍結・廃止を訴えている政党に対して諸事情で投票したくないと思っている国民にも実行できる方策です。不信任成立までいかなくても、従前の不信任よりも明らかに不信任票が多ければ最高裁もひびります。裁判員制度に反対の方は、最高裁判事信任投票で「竹ア 博允」に×印をつけましょう。
Posted by 黒天使 at 2009年05月19日 20:53
 いっそ鳥越俊太郎が冤罪でも何でも被告人になって、その裁判に裁判員になりたいですよ、そして出来る限りシャバから隔離したいですよ。
 そうすれば鳥越氏も自分の愚かさに気がつくはずです。
Posted by アッツィー at 2009年05月25日 18:27
> いっそ鳥越俊太郎が冤罪でも何でも被告人になって、その裁判に裁判員になりたいですよ

でも自分がそういう立場になるとは夢にも思わないのがこの手の人種なんですよ。
Posted by メタル忍者 at 2009年06月25日 18:43
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