2009年12月13日世田谷区民会館大ホールにて、「南京・史実を守る映画祭」というイベントが開催された。南京大虐殺をテーマにした映画を中心とした上映会である。いくつかのブログがレポートしているが、当日の模様をありのままに書いた記事が見あたらないので遅まきながら書いてみる。
この映画祭の「実行委員会」というのは、俺もかつて事務局員として活動に参加していた市民団体「南京への道・史実を守る会」のメンバーと助っ人である。
前にも書いたが俺は一昨年の「とほほ」さん粛清事件でこの活動にすっかり嫌気が差し、夏淑琴裁判高裁勝訴以降は活動から遠のいていた。つか裁判勝っちまったからやること無いだろ?と思っていたら、実質的リーダーである熊谷伸一郎氏(岩波の編集者)が「南京事件を題材にした映画が何本か製作されたが日本では全然公開されないじゃんか。俺たちの力で上映会をやろうぜ!」と、すっごいことを言い出したのである。でもぼかぁ全然やる気起きないなあ。つか、字幕はどうするのさ。それに製作会社に上映料を払うことになんだろ、そんな金あんの?
で、俺がシカトしてるあいだに準備は進んでいき、去年の夏ごろ「たまには会議に出てくれ。警備とか具体的な話を詰めたいので」と召集をかけられた。これは、「やる気ないんなら辞めてくれ」という最後通牒だと勝手に判断し、事務局員を辞めさせていただいたのである。
その後全く動きが見えず(事務局員専用のMLから抜けたんで当たり前だが)、どうやらあきらめたんだろうなあ・・・と思っていたら、やっと11月になって「待てど暮らせど上映されないので、自分たちで映画祭をやる」ことが発表された。(*注1)。
南京大虐殺をテーマにした4作品を上映するというが、残念ながら話題の「南京!南京!」や、 John Rabe はリストに入っていない。ま、普通の市民団体には資金的に全然無理だろう。それでも4作品上映にこぎ着けたのは立派だ、それとシンポジウムに一水会最高顧問の鈴木邦男さんが出るそうじゃないか、面白いかもしれないぞ、行ってみようぜ!・・・と、気が進まない自分を叱りつつ4作品分の前売り券を申し込んだ(1本だとなぜか999円、4本まとめてだと3000円)。すると、振込用紙と一緒にチケットが送られてきた!こりゃたまげたな後払いか!もちろんちゃんと振り込みましたよ。朝10時半から20時半までの長丁場だ。
■ 会場は世田谷線世田谷駅から徒歩5分ということだが、そんな電車乗ったことねえぞ。ヤフー路線図で調べると、渋谷から東急で行くのと、新宿から京王線で行く2経路が見つかった。
登録派遣労働者である同居人は当日久しぶりに仕事が入ったが、俺は朝出かけて夜遅くまで帰ってこないから車で駅まで送迎するのは無理、と断っておいた。・・・しかし朝8時ごろ起きるつもりが目がさめたら9時を過ぎていた(笑)さて、今から出かけても10時半から上映の「Nanking」は途中からだぞ、どうしようか・・・とグズグズしていたら、結局同居人を駅まで送るハメになってしまった。彼女は「どうせ寝坊すると思ったw」とほくそえんでいた。帰りはバスで帰ってこいよ。
そういうわけで13時からの「アイリス・チャン」に間に合うように出かけることにしたが、グズグズしてたら遅れそうになった。新宿から京王線で行ったのは遠回りだったようだね。世田谷線って初めて乗ったけどなんですかあれは、チンチン電車ですか?
昼飯は駅前で牛丼でも食おうと思ったが、なんかイメージと全然違ってただの住宅地で何も無い。つーかそんなのんびりしてる時間は無いからコンビニでおにぎりやら買って、上映開始にギリギリ間に合った。この日はあまり寒くはなかったがどんよりと曇った一日だった。
つか受付してるのも警備してるのもだいたい知った顔だ。腕章つけてお巡りさんと何やら相談してるのは夏淑琴裁判の弁護団の一人だ。俺がこの活動から(実質的に)脱落して1年半くらいだが、新しいメンツはあんまりオルグできなかったようだの。後ろめたい気分になりましたよ。「最近はどうしてるの?」って言われたけど、ミクシィ見りゃ何してんのか分かるだろ、わざわざ聞いてくんなよ。あんたらが毛嫌いする関連ばっかしだ。つか右翼もまだ来てないし、なんか寂しい雰囲気だな。
■ で、「アイリス・チャン」の上映が始まったのだが、場内はガラガラだった。せいぜい200人ってとこか?つか、この世田谷区民会館大ホールは定員1200名だから余計寂しく感じたのかもしれない。丸一日の使用料金は18万円だって。元は取れるのかしら?(*注2)
もしかして「南京!南京!」か「John Rabe」を上映する予定で、こんな広い会場を予約したのかな?てかスクリーンが小さいなあ。しかも映画のワイドサイズじゃなくブラウン管テレビみたいなサイズだ。ここは映画館じゃないから仕方なかったのかもね。スクリーンも映写機もどっかから借りてきたんだろう。つーか飲食禁止だけど空腹には勝てませんでしたよ、ごめんねw
この映画の方だけど、まあ面白かったよ。知ってる人たち(夏淑琴さん、本多勝一先生、小野賢二さん)が出てくるから、ってだけじゃなくてね。アイリス・チャン役の女優さん美人だね。てゆうか本物も美人だったね。なんで自殺しちゃったんだろう?映画でもあんまり突っ込めてなかった。
■ この上映会、チケットは4作品どれでも共通。一本終わると総入れ替え制、面倒くさいけど一旦受付の外に出なくてはならない。このやり方だと最大で4800枚売れるよな、うん賢いw
次はシンポジウム、映画の半券で入場できた。実行委員会から熊谷伸一郎氏と荒川美智代氏、「南京・引き裂かれた記憶」の武田倫和監督、そして一水会最高顧問の鈴木邦男さんが登壇した。正直面白くなかったな。熊谷氏や荒川氏に期待するものは最初から無かったが(彼らに失望して活動から離れたんだし)、鈴木邦男さんの話もなんか当たり障りの無いことばかりだった。つーかやたらサヨクのイベントに顔を出す鈴木邦男さんてどんな主張の人なのか全然知らないです。
会場の人数はさっきよりは増えたかんじ。最前列と二列目には「関係者席」と書いた紙が貼ってあったが誰も座ってない。大した人数ではない「関係者」は裏方の仕事で手一杯だったんだろうな。右翼対策のつもりだったんだろうけど、結局右翼は最後まで一匹も来なかった。街宣右翼は南京とか関心なさそうだし、来る可能性があるとすれば西ちゃんぐらいだけど、西ちゃんたちにとっても南京はもう旬なテーマじゃないんだろうね。
■ お次は「南京・引き裂かれた記憶」。じっさい、話題性があるといえばこの映画くらいだな。これ上映できなきゃ映画祭やる意味なかったね。もっとも主催者側は当初、この映画の上映について躊躇していたようだが(*注3)。渋谷のアップリンクでも上映されていたらしい。「雪の下の炎」もあそこで観たよな。
南京戦に参加した元日本兵や被害者から取材した松岡環さん編著の「南京戦 閉ざされた記憶を尋ねて―元兵士102人の証言」と「南京戦・切りさかれた受難者の魂 被害者120人の証言」の、取材シーンを映像作品にしたものである。実に重い記録だ。感情を抑えきれない生存者の証言と元兵士の生々しい告白に衝撃を受ける。
また(シンポジウムで武田倫和監督が言及していたが)元兵士は被害者である中国人に対して「シナ人」「ニイコ」などという表現を、取材を受けているときでも普通に使っていた。軍隊というのは人間が持つ他集団への敵対心を利用し、敵兵・敵国人を憎むように仕向けるものだが、彼らはそのすり込みからまだ抜け出していないのだ。あるいは、明治維新以降支配者が国民に植えつけた、アジア諸国に対する蔑視感からまだ脱却していないと言うべきか。
しかし俺が、元日本兵に対する理解が足りなかったのはこの点だけではなかった。たとえば、強姦を行うのは若い兵士より予備役・後備役が多かったという。「女を知らない二十歳前後の若者」より、結婚していたり女遊びの経験がある30歳過ぎの男たちの方が、誘惑に勝てなかったというのだ。家族を養わなければならない立場なのに突然召集され、いつ命を落とすか知れぬ最前線に送られた彼らの絶望は計り知れない。そういう彼らにとって強姦は当たり前のことだったのではないか?たとえば俺がその立場だったら?もちろん同じことをしただろう。当時の日本兵は特別な人間ではなく、俺たちと同じ普通の人間たちだったのだ。
最後の方で元兵士らが「天皇陛下のためにと、騙されて・・・」と語るシーンもあったが、去年のNHKの番組で台湾人の元日本兵が怒りをぶちまける姿と重なるものを感じた。彼らは侵略戦争の加害者であるが、同時に被害者でもあるのだ。俺みたいなネトサヨはこういう視点が全く欠けていたと思う。
シンポジウムの方で熊谷氏が、夏淑琴裁判のときに西村氏らのグループが裁判所前で夏さんを侮辱する文言を吐いていたことに言及し、鈴木氏に「なんで彼らは、あんなひどいことができるのでしょうか。どう思われますが?」と振ったが(鈴木氏は「あんな奴らは愛国者とは言えない」などと、お茶を濁すような返答しかできなかった)、この提議は不要だったと思うよ。次に上映される映画にその答えが出てくるじゃんか。
あの連中が中国人韓国人は嘘つき、日本から出て行けなどと叫んでいるのは、アジア・太平洋戦争で日本兵がアジアの民衆を蔑み憎悪したのと同じ理由である。支配者にそのように仕向けられていたのだ。中国人は日本人より劣っている、悪い奴らだから懲らしめなければならない、と支配者に思い込まされていたのである。つーか今の日本人もこの洗脳から抜け出せていないようだな(だから「在特会」が特別な連中だとは、思えないんだ)。差別、排外は人間の本能かもしれないが、支配者はそれを利用し、他の人種・他民族・異教徒を敵視させることで、支配体制を維持しているのである。この環を断ち切らない限り差別も戦争も無くならないだろう。
それにしても熊谷氏は鈴木氏にどんなリアクションを期待してたんだろうか?俺だったら、「まあ当時の日本兵も在特会も、日本領事館を襲撃したり北京五輪の聖火リレーで暴力を振るった一部の中国人も、中身は同じですよ」と答えてやるだろうな。ギャラが貰えなくなっちゃうかな?中国の歪んだナショナリズムを批判しない熊谷氏らに、「在特会」を批判する資格も平和・反戦を語る資格も無いと言える。
そりゃそうとこの映画を観れたので、わざわざ出かけた価値があったと思う。この映画を4作品のうち3本目の上映(16:30から)にしたのは賢明な判断だったと言える。日曜日だったからな。
■ お次は18:30から「チルドレンオブホァンシー」だったが、これは南京がメインテーマの映画ではないようだ。あんまり興味が出ない。「引き裂かれた記憶」を観て満足したのか観衆は潮が引くように帰っていった。俺もその一人だけどよ。会場はさらにガラガラになったろうな。つか俺は次の日は日勤だったし、埼玉だから遠いし、それに風邪気味だったから帰ったのよ。ホントよw
今度は渋谷廻りで帰ってみたらやっぱ新宿廻りより早かった。同居人も仕事終わったろうからたまには牛丼でもおごってやろうと思って携帯に電話したら、もう家に帰ってるし、飯も食っちまったんだとよ。しょうがないからまた一人で駅前の松屋でカルビ定食を食いましたよ。
*注1 映画「Nanking」については、既に2008年に福岡で上映会が行われていたという。この字幕付きDVDを持っているAさんが「無料で上映するなら貸し出してもいい」と告知しているので、その情報を「史実を守る会」事務局用のMLに流したところ・・・突然知らない人からメールが来た。挨拶も無しに「**の9条の会で上映会したいので明後日貸してくれ」というのだ。MLを見ている誰かがこの情報を間違って伝えたのだと思うが。俺自身はDVDを持っていないことを説明し、Aさんと直接交渉するようにお願いした(もちろんAさんに、こういう問い合わせがあることを連絡済み)。その後どうなったか知らん。それにしてもなんという常識の無さだろうか。市民活動に関わっていると時々こういう手合いに出くわす。天下国家を論じる前に常識を見につけたほうがいいね。
それはともかく、上のリンクを見れば分かるが「アイリス・チャン」も昨年の春から秋にかけて上映会が行われていたようだな。それに、上述のように「南京・引き裂かれた記憶」も渋谷で上映されていた。「チルドレンオブホァンシー」については上映こそ本邦初だが、昨年DVDが発売されていた。どうやら「待てど暮らせど上映されないので、自分たちで映画祭をやる」というのは誇大広告だったようだな。
*注2 (会場のガラガラぶりを見た俺には信じられんが)オフィシャルサイトによると「900人余り」が来場したらしい。もちろん「延べ」の話だと思うが。
俺みたいにチケット4枚買っといて2本しか観なかった人もいると思うので、約100万円の売り上げがあったとしても・・・勝手な想像に過ぎないが、会場費の他に、4作品の著作権料、シンポジウム出席者への謝礼、スクリーンや映写機のレンタル料、さらにチケットの発送代・チラシ印刷などの諸費用を含めると、赤字だったのではないかと、思う。
つかオフィシャルサイト作成、チラシ折込・チケット発送などの作業、会場の受付・警備などの人件費は全てボランティア(ようするに無償労働)だったと鉄板で(笑)思うぞ。市民活動ってそういうもんよ。それにしても当日は皆さん映画もシンポジウムも観れずに約12時間拘束されていたわけか。本当にご苦労さんです。いつもはめんどくさい仕事は全て下っ端に押し付ける熊谷氏も終日張り付いていたようですな。いや実際俺が彼らの活動に参加していたときは会議で、熊谷氏と目を合わせないようにしてたよ。なんか仕事押し付けられそうだったからねw
*注3 「南京・引き裂かれた記憶」は松岡環さんの聞き取り調査をフィルムに収めたものである。一方、会社員生活の傍ら南京虐殺の研究を続け、「史実を守る会」とも密接な関係のある小野賢二さんは松岡さんの活動に批判的である。こちらや、思考錯誤の過去ログ(タラリさんの投稿)を参照のこと。
「史実を守る会」の会議で、映画祭でこの作品を候補に入れるべきか否か意見が分かれたとき、何も知らない俺が「なんで小野さんが批判してるからダメなんですか?」と口走ったところ、ある教育者に「小野さんは一緒に活動してきた仲間じゃないか!」と叱られた。顔は笑ってたが目がマジだった。そういうもんなんすかね?(俺はその後、一度も会議に出ていない)
それはともかく、俺はタラリさんの意見に異議なし!
2010年01月17日
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