2010年04月13日

時効廃止で冤罪地獄?

 現在の通常国会(会期は6月16日まで)にて刑事訴訟法“改正”案が議論されている。「人を死亡させた罪」についての時効期間が対象となり、殺人罪など死刑がある罪については公訴時効を廃止するという。13日には参議院法務委員会で可決し、14日の参院本会議で可決すれば衆議院に送られる。野党にも目立った反対の動きはなく、今国会中(早ければ今月中)に成立する見通しだというが・・・これに絶対に反対する。

 俺だって逃亡した犯罪者はさっさと逮捕して裁いてほしいと思うが・・・彼らを一生刑事罰の対象として追い続けるべきではない、とも思う。年月が過ぎても犯罪の事実が消えるわけではないが、時効成立という“赦し”も与えられるべきだ。
 逃亡した犯罪者は悲しみにくれる被害者家族や警察の無力さを笑っているのか?まあそういう奴もいるかもしれんが、たいていは罪の意識に苦しみつつ、発覚する恐怖に怯えつつ暮らしているのではないか?こうして苦しむ月日も、ある意味償いの日々ではないか?また、犯人が逃亡後に築いた家庭環境や社会関係も時効によって守られるべきだと思う。そう思うのは俺だけじゃないだろ?1880年から130年間続いてきたこの法制度は、国民の中で自然な事として受け入れられていたと思う。
 しかし2005年1月1日施行の刑事訴訟法・第250条の“改正”によって、「死刑に当たる罪」は15年から25年に、「無期の懲役又は禁錮に当たる罪」は10年から15年に、公訴時効の期間が延長されてしまった。そしてわずか5年後に再び“改正”し、今度は殺人などの犯罪について時効を廃止しようというのである。
 その問題点を、2月20日朝日新聞の特集記事「時効廃止で冤罪が増えていいのか」(元法制審議会委員・岩村智文氏寄稿)より引用する。

 まず岩村氏は、現行の刑事訴訟法の「疑わしきは被告人の利益に」という「大原則」を挙げ、「学説でも、長い年月が経過することで(1)国民の処罰感情が薄れる(2)証拠が散逸して公正な裁判ができなくなると、説明され、世論もそれを受け入れてきました」と指摘する。
 時効とは、「冤罪事件が起きないようにするため、刑事手続きを時間的に区切る制度」であり。これが無くなると被告の「防衛権が侵害されます」。
 「被告がアリバイの主張をしたいと思っても、事件から10年、20年たってから起訴されて、アリバイを証言してくれる人を見つけられると思いますか」
 つまり時効が無くなると「冤罪に巻き込まれるリスク」が高まるのだ。たしかに、「20年前のその日は、当時勤めていた会社に出勤していた」というアリバイを探しても、誰が証言してくれるのか?

 欧米の時効制度廃止についても、ドイツでは時効廃止の対象は「ナチスによる虐殺などの犯罪」だけ、フランスでも「集団殺害など人道に反する罪」だけだという。英米については、取調べに際する「弁護士の立会い権」など「被疑者の権利を守るためのシステムが徹底」している、という。つまり日本のような「最大20日間も勾留して朝から晩までいつでも」取調べが行われる国では冤罪の発生する危険性が高いのだ。
 冤罪の横行するこの国じゃ、「20年前の殺人犯の似顔絵と似ている」と言われて突然逮捕され、「お前がやったんだろ、吐け!」と強要されるかも?

 そもそも、時効が廃止されれば犯人逮捕の可能性が高くなるのだろうか?「それは現場を預かる警察自身が否定しています。」岩村氏が参加していた法制審刑事法部会で、委員の一人(警察庁刑事局長)が次のように述べたという。
 「殺人事件などで逮捕されるのは、9割以上が1年未満。それ以降はあまり逮捕できない」
 「殺人事件だけでも年間1200件程度あるが、そのうち、時効まで捜査を継続し、もし時効制度がなければ検挙できた、という事件はまれである」

 考えてみれば当たり前の話だよな。10年20年も経っちまえば有力な物証が見つかるわけがない。真犯人を突き止められるわけがない。

 時効が無くなれば膨大な証拠物件も永久に保存しなければならない。
 「未解決の捜査本部事件だけでも、証拠品を保管し続けると100年で東京ドーム半分の量になるという試算もあり、(同会委員の)警察庁刑事局長は『膨大な証拠資料の保管をいつまで続けるのか・・・明確な基準が欲しい』と発言しています」
 また、法制審では「時効が無くなると犯人が名乗り出る可能性がなくなるのでは」という学者からの意見があったという。
 それに「憲法の趣旨に反する」という指摘もある。現在の殺人の時効は15年だが、もし今国会で殺人の時効が廃止されれば、時効まであと1年のはずだった1996年の事件も、捜査が続くことになる。これは憲法39条が定める「刑罰不遡及の原則」に反するという。

 時効見直しを議論しているこの会議、つまり「法務省の法制審議会刑事法部会」自体が、公正な立場で議論するような場ではないという。
 日弁連も手をこまねいていたわけでなく「反対するばかりでなく時効を維持しながら被害者遺族も納得できるような対策」を示した。同会にて日弁連出身の委員が、犯人のDNAなど「有力な証拠」が残されていれば時効停止も可能とする案を提示したが、多くの賛同は得られなかったという。
 「法制審自体が、法務省の意向が通りやすい仕組みになっているんです。刑事法部会の15人の委員のうち、法務省官房審議官、警察庁刑事局長、最高裁事務総局刑事局長ら、現場よりも官僚組織の幹部などに割り振られる『充て職』委員が6人もいる」。
 彼らは上記のように「いろいろ有益な意見、見識」を述べても「結局採決の際、ほぼ法務省原案に賛成」するという。時効廃止の害を指摘しつつも結局は賛成するのか!また、「時効廃止を求めている『全国犯罪者被害者の会』の代表幹事も委員なので、もう一人法務省寄りの学者が加われば過半数です」
 岩村氏はこの流れを、「予算のかからない法律改正なので、政治的に手軽な人気取りとして、国民世論に迎合しているようにしか思えません」と喝破する。お役所の人気取りのために、あるいは現・与党の票稼ぎのために、「犯罪者を許すな」という単純な感情を利用し、我々国民の人権を売り渡そうとしているのだ。世論に迎合するだけが政治ではないはずだが。
 時効廃止によって冤罪が発生する可能性ももちろんのこと、そもそも時効を廃止しようという考え方は、10年20年経っても真犯人を見つけられる、有罪にできる証拠も残っている、という「まやかし」ではなかろうか。こうした「まやかし」こそ冤罪を産む土壌である。

 時効の廃止・延長を進めている千葉景子法務大臣は弁護士であり、旧社会党出身。従軍慰安婦問題にも取り組んでいたという。世間的に見れば立派なサヨクだが、情けないことに人権というものを理解していないようだ(そもそも、刑事被告人の人権に理解があれば裁判員制度は廃止しようとするはずだよな)。
 共産党もこの問題について国会質問したようだがどうにも腰砕けだ。そういや共産党だって裁判員制度成立の際に反対していなかった。今に至っても反対とは言わない。「体制内左派」など所詮はこんなものだな。

【関連】
◇ 時効見直し:刑訴法改正案を閣議決定 殺人などで時効廃止 (魚拓)
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posted by 鷹嘴 at 23:43| Comment(1) | TrackBack(0) | 悪法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
い自分は死刑や時効廃止に反対です!被害者遺族は子供か?と見下したいです!
何時までも人を憎んで、お前は本当に正しい人間と言えるのか?と

自分は正直、人を殺したくなった事は幾らでもあります!しかしそれを絶対
しない様にするのが人間だと思います!

自分は人を殺したくなった事は無いのか?と問い詰めたいです!
あると言うなら、犯罪者を攻める理由がどこにある?
被害者遺族は犯罪者並に身勝手すぎます!
犯罪者を捕まえ懲らしめる事や死刑にする事にある種の喜びを感じているのではないか?
と言いたいです!それは犯罪者並に許せません

ほとんどの罪を犯した人間はあなた方と同じ人間ですよと言いたいです!
被害者に貴方が警察に捕まる事になった時、嫌ではありませんか?と言いたい!
捕まるのは仕方ない!っていうのは単なる妥協案だと!
人は許されたいものです!被害者はそれが分からない子供ですか?
大体、逃亡犯は自分も大抵罪の意識と、発覚の恐怖を抱えて生きていると思う。

国民感情やら何やら言って、死刑肯定や時効廃止が許されると言うなら、
被害者遺族に、自分で犯人を捕まえて、自分で犯人を殺せよ!と言いたいです!
無論!逆に犯人に殺されても知りません!
そんな弱肉強食の世界で生きたいか?と被害者遺族全員に言いたいです!

時効廃止=冤罪増加は以外!そんな危険もあるのですね!
もし被害者家族や警察の無力さを笑うのが目的の創作物にでてくる様な凶悪犯が
冤罪を起こし笑っていたらどうするんだよ><!
Posted by 死刑反対者! at 2010年04月28日 21:11
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