2010年08月22日

【ホンダ】中国ストを先導した男【搾取工場】

 今更だけど中国ホンダ工場におけるストライキについて書く。まずはAERA・2010年7月12日号の「中国ストを先導した男 『世界の工場』労働者の変容」より引用。


 中華人民共和国広東省・仏山の「本田汽車零部件製造有限公司」というホンダ部品工場の、工員の月収は1300元(約1万7000円)。湖南省出身の李明(仮名、24)は毛沢東の詩を愛読する子供だった。「いつかはまた勉強をしたいと」思って広東省で職を探し、この工場に勤めた。収入の中から家賃・食費400元の他に、親に600元を仕送りしていた。買い物をしたい欲求を抑える「自分へのご褒美」はインターネットカフェ(1時間5元)。街でホンダ車を見かけるたび、複雑な感情に襲われた。
 「この中には俺の組み立てた部品も入っているはずだ。親への仕送りもせず、結婚もせず、ひたすら働きつづけたら、いつか買えるだろうか」
 こちらによるとホンダ・オデッセイの車両本体価格が29万8千元。李の月収だけで計算すると19年分ということになる。

 李にも昇給がなかったわけではないが、2年半で100元にも満たなかった。完成車を組み立てる広州本田では月収2000元、日本人の社員は月数万円という話も漏れ聞いた。
 せめて組立工場並みの収入を、と思い立った李は5月17日、緊急停止ボタンを押して生産ラインを止め、同僚らに「給料が安すぎると思わないか。もう生産を止めよう」と呼びかけ、数人と運動場で座り込みをした。
 日本人の社員が通訳を介して話し合いを申し出たが李は相手にせず、ひたすら携帯からショートメールを打ちまくった。「最初は全然反応がなかったので心細かった」というが・・・この部品工場の生産が止まれば組み立て工場も止まる。ホンダの中国工場の生産が止まる。「そのときに一緒に賃上げ交渉しよう」という李の呼びかけは労働者たちの心を掴んだ。会社が食堂にホワイトボード6枚を用意したところ、あっという間に要望で埋まったという。
 李たちがホンダに要求したのは800元の賃上げだが、21日の回答は120〜153元。李が再び生産停止を呼びかけると、今度は運動場に300人が集まった。しかし22日、生産停止を呼びかけた李ら二人は「就業規則違反」で解雇されてしまった。この工場にも労組らしきもの(総工会)があるが李たちを守ることはなかった(それどころか暴力を振るってストを潰そうとしたという)。

 しかし李たちが追放されてストが終息するどころか逆に拡大。ラインに残っていた者もマスクをつけて(不当解雇を避けるため)運動場に集まった。そして中国国内の4つの完成車組立工場が生産停止に追い込まれた。労働者の怒りは限界を超えていたのだ(参考: 中国ホンダ続報〜若いホンダ労働者の声 )。
 ホンダは「サボタージュ、操業停止、ストライキなどに参加したり、企画したりしない」という承諾書に署名することを条件に「2ヶ月働けば477元、3ヶ月働けば634元」の増額を提示。このふざけた条件に署名した労働者は「ほぼいない」というが、現地会社の元社長が代表16人と面談し、労働者たちの前でスピーチし、6月1日に操業再開された。
 中国の弁護士の李化氏は5月29日、ホンダ社長の伊東某に「利潤を拡大させる企業に対して、労働者がその一部を享受したいと要望するのは公平で合理的、合法的である。企業は労働者の意見を理解し、応じるべきだろう」という「弁護士による緊急建白書」を送った。
 労働者を目覚めさせた李明たち二人の労働者は解雇されたままだ。李に取材した記者によると、李は「意外なほど声が細く自信なさげで」、「解雇は後悔していない。残った人が賃上げを実現できればいい。ただ、送金できなくなり、親には申し訳なく思っている」と語ったという。

 中国では今年に入ってホンダだけでなくトヨタ、ニコン、現代自動車などの外資系企業43社でストライキが発生し、そのうち7割が日系企業だという(7月30日朝日新聞)。ジャーナリストの趙霊敏氏は「(改革開放後の)30年余り、巨大な人口を背後に経済成長を果たしたが、潤っているのは企業だけ。労働者の待遇は取り残されている」と語る。経済成長によって大企業や一部の富裕層を潤したが、庶民は経済成長の恩恵を得られず、労働者は低賃金と不安定な立場で酷使されているのは変わらないのだ。
 「富士康」(フォックスコン)はiPhoneやiPadなどの部品を製造する台湾系企業だが、同社の広東省深圳工場では今年、「報道されただけで少なくとも13人」の若い労働者たちが自殺した。社員寮で暮らす「阿代」と名乗る女性はブログに工場労働の実態を書き記しているという。
 「一日8時間働き、大体2時間の残業をする。朝7時に工場に入り、夜7時に仕事を終える。休憩は昼食の1時間以外に2時間おきに10分ほど取れる」
 「宿舎に戻っても、携帯をいじる以外に、誰とも話をしたくなくなる」

 ちなみにこの職場は「私語厳禁」だという。職場の同僚の名前も、社員寮(10人部屋)の同室の労働者の名前すら知らない。週刊誌記者の劉志穀氏は取材のためこの工場で1ヶ月ほど働いた。労働者たちは自分の台車に「ベンツ」「BMW」「カムリ」などと名前を付けていたという。「みんな夢はあるが、その実現のためには、今の給料ではとても無理だと思っている」労働者のこういう実情は世界共通のものだろう。

 かつて中国の工場労働者は、若いうちに内陸部から働きに出て金が貯まれば農村に戻るのが当たり前だったというが、1990年以降に生まれた「90後」と言われる世代は親の世代と違い、農家を継ごうとはせず一生都会で働いていくつもりだという。つまりは何年間か我慢して働こう、という発想で働いているのではない。単純労働に甘んじずスキルアップを目指し、努力に見合う報酬を求めているのだ。外国企業が単に安い労働力を求めて中国に展開する、という時代は終わったのだが、日本企業はそれに対応できていなかった。
 ある電器メーカーの幹部は「そろそろ労賃は上がると予測していたが、ストライキという形で急速に引き上げに向かうとはさずがに予測できなかった」と語るが、同じ日本人でも上海の企業コンサルティングの幹部は「大企業は組織が大きいから中国の労働者の変化を肌で感じ取れていない。今回のストは起こるべくして起きた」と語る。
 中国人を安い労働力としか捉えていなかった日本企業と違い、欧米の企業は労働者への教育・支援、大学生への就職相談などを展開し企業イメージを高めようとする。自殺者が相次いだ「富士康」は、親会社の会長が現地を訪れ死者を弔い、遺族へ9万元の支払いを約束したという。これらの企業と比較すると、たしかに日本企業の対応は後手後手に回っている。
 今後の日本企業の中国への展開は安易なものではなさそうだが、この記事は最後に、ある自動車メーカーの幹部の言葉を借りて、困難が待ち受けようとも「中国市場への進出をさらに加速していくしかない」、「世界経済を引っ張る中国に、リスクを恐れて進出しないことの方が」リスクである、と結ぶ。

 つまりこのAERAの記事は、中国の社会情勢の変化を敏感に捉え、ホンダのデモのような「チャイナリスク」に立ち向かっていこう、というのが結論である。労働者の当然の要求を「リスク」と呼ぶのである。それをうまく懐柔せよというのである。
 前掲の朝日新聞の記事も同じような趣旨だった。そういえばインドでのアメリカ企業による毒ガス漏洩事故についての記事も、このような事故の処理を誤れば外国企業進出のリスクになる、といった論調だった。つまり徹底して資本家の視点から記事を書いているのだ。まあ所詮、朝日新聞社という大企業が労働者の立場を理解するわけがない。そりゃそうだ、広告主のお陰で商売が成り立ってんだからな。
 資本家やメディアが、やれスマートフォンだ薄型テレビの時代だなどと吹聴する一方、そういう商品を製造している労働者への搾取が続く。奴らは、新しい製品を次々に開発し消費者に短いサイクルでの買い替えを迫る商売を続けるが、それは労働者への搾取の上に成り立っているのだ。正社員の雇用を渋り非正規雇用労働者を求め、あるいは「発展途上国」に工場を進出する目的は、人件費を抑制し、かつ人員調整(つまり不当解雇)を容易にするためだ。
 常に流行を追う(というか流行を作り出す)商売だから突然減産・生産停止を余儀なくされる場合もあるが、そういう時は非正規雇用労働者や雇用のルールの甘い海外の工場の労働者を解雇すればいい。つまりこういう資本家にとって、非正規雇用労働者を使ったり海外に工場を展開するのは必要不可欠である。
 しかし中国で続発するデモは、こういう現代の資本主義の汚いシステムが破綻しつつあることを示している。労働者たちは、資本家の道具の如き立場に耐えられなくなり、目覚めたのだ。自動車も携帯も現代の生活に必要なものだが、流行を追い需要を無理矢理作り出すのではなく必要な物を必要なだけ作り出すように変革しなければ、環境破壊・資源の枯渇を置き土産に破滅するだろう。
 そして我々労働者はホンダ仏山工場の労働者のように、労働者として当然の権利を要求しなければならない。何も資本家を肥えさせるために働いているわけではない、自分たちが社会の主役であることを自覚しなければならない。


 7月7日の昼間、動労千葉・全国労組交流センター・全学連の呼びかけによって、東京・青山のホンダ本社前に労働者有志が結集し、スト指導者2名の解雇撤回と、労働者自身による「闘う労組」の承認を求めて決起した。1時間ほどの行動だが数百枚用意したビラは配りきってしまったという。

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 東京の一等地にこんな立派なビル建てやがって・・・・

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◇ 中国労働者のストに連帯 ホンダ本社前に赤旗 動労千葉など60人 “解雇を撤回せよ”
 ↑一枚目の写真の右端で大きいプラカードを掲げているのが俺。顔は写ってないよ!
posted by 鷹嘴 at 23:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 労働問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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