2010年09月02日

調査捕鯨やはり横流し

 【文末に追記あり】 8月23日東京新聞に、「調査捕鯨やはり横流し 補助金産業化懸念の声」という記事が掲載された。調査捕鯨船の元船員によるクジラ肉横流しの告発と、調査捕鯨を巡る「構図」の指摘である。

 元船員によると、クジラを解体して冷凍庫に収納する作業中に、ベテラン船員が「こことっとけ」と命令する。「ウネス(下あごから腹にかけてのしま模様の部分)」など高級な部分を切り分け、作業服で隠して部屋に持ち帰り塩漬けにするという。
 「キロ1万〜2万円で買ってもらえると聞いた。それでも市場の半値くらいだから、飛ぶように売れる。100キロくらい持って帰る人もいる。鯨肉を売りさばいた収入で自宅を新築して『クジラ御殿を建てた』と言われる人もいた」
 こういう肉は、航海が終わって会社から支給される「正規のお土産」とは「まったく別物」だという。この元船員の話を聞いたグリーンピース・ジャパンの職員が、船員の不審な荷物を追跡・発見し「正規のお土産なら冷凍状態のはずなのに、常温の状態。しかも高級な部位が大量に入っている」と東京地検に告発したのが2008年5月。しかし船員らは不起訴となり、逆にグリーンピースの職員が逮捕・起訴され、自宅やグリーンピースの事務所が家宅捜索を受けた。密輸を行った者はお咎めなし、逆に密輸を告発した者が逮捕されるという信じられない事態が起こったのである。

 しかし法廷では「お土産」への疑惑が濃くなっていったようだ。
 別の元船員は、「日本鯨類研究所の職員が、高価な『尾の身』という部位をサンプルだといって持ち帰ってしまった」と証言。
 「正規のお土産」8キロ以外にウネスを23キロも自宅に送った船員は、「同僚から貰った」と言い訳したが、自分にクジラ肉を渡した同僚の人数については1人→2人→4人→3人と、まさに二転三転。しかも名指しされた同僚は「あげていない」と証言した。
 また、クジラ肉持ち帰りを告白した元船員によると、調査捕鯨船はクジラを捕りすぎた場合、冷凍室がいっぱいになるため、「雑肉」をどんどん海に捨てていたという。捕獲目標頭数の多かった2005年〜06年は「売れる肉でも頻繁に捨てていた」。
 「そもそも訴えたかったのは、横領の話じゃなくて、漁師として感じた調査捕鯨のおかしさなんです」「捨てるくらいなら捕らなきゃいいのに、と仲間内で話していた」

 そしてこの記事の後半では、調査捕鯨の実態は商業捕鯨であること、捕鯨を行う「共同船舶」とは事実上の国営企業であること(参考)、「日本鯨類研究所」は水産庁からの天下りの巣と化していること(参考)、調査捕鯨とは税金を食い荒らす「補助金産業」と化していること(つまり税金の投入が無ければ続けられないこと)、せっかく捕ってきた肉が大量に売れ残っていること(参考)などを指摘している。
 さらには、2008年3月に「世界」で指摘されていたこと(参考)だが、「東京大先端科学技術研究センター特任研究員」の大久保彩子氏が、
 「商業的に成り立たない南極海での捕鯨を、国が補助している。仮に商業捕鯨が再開され、補助金が受けられなくなれば、かえって南極海捕鯨は衰退する可能性が高い」
「捕鯨国にも、反捕鯨国にも、今の状態が一番好都合だともいえる」
「捕鯨国が存在するから、反捕鯨団体のシー・シェパードには資金が集まるし、“活躍”の場を与えられる」
 と、まるで在特会と俺らアンチ在特会のような共棲関係があることを喝破している。

 最後に大久保氏は「各国の意地の張り合いの中、国際規制がないまま調査捕鯨が続けられることが一番の問題でしょう」と指摘する。日本が南極海での商業捕鯨を続けられる唯一の拠り所が「調査捕鯨」という名目だよな。IWCは、こんな何年やっても大した成果の出ない「調査捕鯨」なんざとっとと禁止にしちまえよ。そしたら日本政府はIWC抜けて商業捕鯨やると言い出すだろうが、そんなこと無理なのは言うまでも無い。民間企業も関わりたくないそうだし(参考)

 ところで9月6日、クジラ肉を窃盗したという容疑でグリーンピースの職員が被告となった裁判の判決が青森地裁で下される。悪いことをした者と、悪いことを見つけて報告した者のどちらが悪いのかを、常識的に判断してほしいものだ。


追記: 9月6日青森地裁にて、被告に不当判決が下った。
◇ 2010-09-06 クジラ肉裁判――執行猶予付き懲役1年の不当判決 グリーンピース、「知る権利」はゆずれない
 全く許しがたいことだが、司法が政治権力に迎合しているこの国では当然の判決と言えるだろう。何が合法で何が違法かは、政治権力の意向によって定まるのだ。しかし、被告らの勇気ある告発によって、この不正行為が明らかになり、調査捕鯨の本質が明白になった。弾圧を恐れず行動する彼らを応援したい。

 それにしても・・・「調査捕鯨」の費用は税金で補助されるだけでなく、捕獲したクジラ肉の売り上げも充てられる。こういうシステム、というか「調査捕鯨」自体許せるものではないが、船員らが横領したウネスなど高価な部分も通常に販売されていれば、税金で穴埋めされる部分も少しは減るはずだ。横領を防がなかった共同捕鯨、ひいては鯨研、水産庁の責任も重い。
 一方、船員らは航海を終えるとクジラ肉のお土産を貰うという。もちろんそのような特典も、横領行為同様に許せるものではないが、被告が発見した肉は上の引用にあるように、「正規のお土産」とは「まったく別物」。
 ちなみに朝日新聞7日朝刊の記事では「船員約200人に1人約4キロ」のお土産の説明はあるものの、船員らのクジラ肉横領行為についての言及が無い。被告が告発した肉が、どういう経緯で船員らの手に渡ったのか、この記事を読むだけでは理解できない。下手すりゃ被告が持ち去ったのは「正規のお土産」と錯覚する恐れがある。
 こうした大新聞が世論に与える影響を考えると悩ましいことだ。まあ朝日なんかに期待するほうがバカだけどな。
posted by 鷹嘴 at 23:46 | TrackBack(0) | 食べ物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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