2011年02月01日

【こち特】逆行する受刑者処遇 親族以外の面会厳しく制限

 1月14日東京新聞【こちら特報部 逆行する受刑者処遇】より。名古屋刑務所で2001年から翌年にかけて、刑務官が受刑者の肛門に消防用ホースの高圧水を浴びせ直腸を裂傷させたり、皮ベルトで腹を締め付けて肝臓を破裂させるなど2名を殺害し1名に重傷を負わせたリンチ殺人事件が発生。
 これが契機となって明治41年から続いていた【監獄法】が廃止され、06年に【受刑者処遇法】(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律)が施行された。面会や文通などの条件緩和など「受刑者の権利義務が明確化」され、第三者委員会の【刑事施設視察委員会】の設置や受刑者による不服申立制度が定められた。しかしここ数年、受刑者待遇の改善に逆行するような傾向が見られるという。

 愛知県犬山市の水田ふうさんは毎月、岐阜刑務所で服役している元日本赤軍メンバーの泉水博さんに面会している。昨年9月も同行者を伴って面会に訪れたが、その同行者は面会を許可されなかった。刑務所の職員から「初めての人はダメ」と断られたという。水田さん自身も最初は初めてだったのだが?ナンセンス極まりない話だ。
 翌月には水田さん本人も「親族以外の面会は不許可」と門前払いされたという。「それまで何の問題もなく面会できていた。刑務所側から納得のいく説明はなかった」。水田さんは【刑事施設視察委員会】に意見書を提出したが「なしのつぶて」だったとのこと。
 このように刑務所が面会を許可しないケースは全国に広がっているという。同じ岐阜県の笠松刑務所では、「持病が悪化した」と訴える受刑者と面会しようとした保護司(出所後の生活指導を担う)が、福岡刑務所では受刑者の身元引受人が、福島刑務所では受刑者を出所後に雇用する予定の事業主が、府中刑務所では男性受刑者の内縁の妻が面会を拒否された。栃木刑務所では毎度面会していた地元の3人のうち、09年夏から2人が拒否されるようになった。和歌山刑務所では受刑者への現金の差し入れが拒否されたという。(そういえば冤罪を着せられ徳島刑務所に服役中の星野文昭さんへの面会も妨害されることがあるらしい)。 

 このように、06年に【受刑者処遇法】が施行されたにも拘らず受刑者の権利が侵害されつつあるのだ。法務省矯正局は「施行当初、暴力団員が面会する事例があったので、そういうことがないように指導を徹底している」と言い訳するが、上に挙げたような面会希望者はどう見ても暴力団員とは思えないが?
 こうした傾向について【監獄人権センター】の田鎖弁護士は、「現場職員から厳格化の要望が出て、法務省が追認している状況なのだろう」と推測する。
 つまりだ、【受刑者処遇】の施行によって面会や文通の枠が拡大され、それに伴い職員の立会いや検閲などの業務が多くなった。しかも高齢者や持病のある受刑者も含めた受刑者数が増加し、職員の負担が重くなっている。だから面会の受付や立会いなど煩わしい業務は出来るだけ断りたい、と思っても自然なことだろう。刑務官の日常的な仕事は受刑者の世話と監視だ。面会の立会いをしても特別手当なんか出ないだろう(たぶん)。手間が増えるだけだろう。
 「仕事は増えたのに人手は見合っていない。ミスは批判されるから、とりあえず何でも制限してしまうと考えているのでは」(田鎖弁護士)
 また明治大学・菊田幸一名誉教授は「刑務所長らの自由裁量権の拡大が問題だ」「刑務所長は面会を制限するなどして秩序を維持することを優先しがちだ。受刑者の個別の要求にはなかなか応じようとはしない。手紙のやり取りや書籍の購入なども厳しくなっている」と指摘する。

このような問題を解決しなくてはならないはずの【刑事施設視察委員会】も、弁護士が本業の傍ら作業しているため、「千通にも及ぶ意見」に手が回らない状況であり、また法的権限も無いので実効力は乏しい。受刑者の不服申立についても「ほとんど却下されている」という(菊田氏)。
 現政権もこの問題に関心は無いようだ。【監獄人権センター】事務局の松浦亮輔さんは政権交代後、法務省に要望するために訪れたが、「半ば門前払い」された。
 「政務三役と会いたいと出かけたのに、対応は官僚。政務三役は市民団体とは会えないと言われた。『私たちが来ることは、上に伝わっているか』と尋ねると、誰も答えない。民主党が掲げた政治主導をはこんなものかと痛感させられた」
 たしかに民主党を見てると、霞ヶ関を切り崩す気概は無さそうだし、国民の生活や人権よりもアメリカ追従と大企業の保護のほうに関心が向いているようだな。
 菊田氏も「このままでは刑務所がますます社会から隔離されていく。いまや旧法時代より悪くなったとすら、言えるのではないか」と嘆いている。

ところで岐阜刑務所【刑事施設視察委員会】の笹田参三弁護士は、上掲の水田さんの意見書は見ていないというが、この問題について重要な指摘をしている。
 「同じような訴えは他にもある。大変深刻な問題だ。守衛業務をアウトソーシング(外部委託)した時期と重なっている。従来通りに戻すべきだ」
 どこの役所も経費削減にために人員調整・民間委託を進めているようだが、せめて刑務所だけは止めてほしい。この先もっと業務の民間委託が進めば、と思うとゾッとする。なんでも民間に任せればいい、というわけではないはずだ。それにしてもパフォーマンスだけはお好きな民主党は、結局自民党時代からの路線を踏襲し、公共事業の質を低下させ労働者の権利を奪うことしか能が無いようだ。

 ところで、刑務所内の人権問題など抑圧を受ける人々の人権に対する、世間一般の無知・無関心も悩ましいことだ。(前にも似たようなこと書いたが)犯罪を起して刑務所に入るような人間は、一般市民とは異なる特別な連中、排除すべき連中だと見ているのではないか?我々塀の外の人間も、いつなんどき自分自身が刑事事件の容疑者・被告人・受刑者になるか、想像してみたほうがいい。ぼんやり運転してて人をひき殺せば獄入りだからな。それどころか職質を拒否しただけでも連行されたり「転び攻防」であらぬ罪を着せられる可能性もある。塀の中の問題は塀の外の人間にとっても他人事ではない、ことを忘れてはならない。


※ おまけ かつて東アジア反日武装戦線の闘士であり、現在は「救援連絡センター」の事務局員である宇賀神寿一さんが語る、21年間の獄中闘争を是非お読み下さい!
◇ 【歯医者にかかるまで半年! 塀の向こう側の不条理な生活 - 日刊サイゾー】
◇ 【「戦いはいまでも続いている」 爆破テロ犯が振り返る、左翼運動とその思想 - 日刊サイゾー】

 そりゃそうと弾圧されたら、「救援連絡センターの弁護士を選任する!」って言わなきゃね。代表弁護士は葉山岳夫(はやまたけお)さんだよ。
 
 電話番号は、(東京03) 3591−1301
          さぁごくいり いみおーい

posted by 鷹嘴 at 14:19| Comment(0) | TrackBack(1) | 権力 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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