2006年06月15日

「自律的労働制度」という名の残業手当廃止法案!

その昔、東芝府中工場に派遣されて正社員と同じように働かされていたが、とにかく残業が多くて参った。忙しい時など、朝から4時間の残業予定(30分の夕食時間を挟んで21時30分まで)がホワイトボードに記入されているのである。
飯を食うと眠くなってはかどらないので、休憩せずに集中して働いて20時30分や21時で帰ることもあったが、その翌日には上司(東芝の正社員)から「そんなペースでやってて終わるのか!」と小言を喰らった。
ところでその上司も同じように4時間の残業予定を入れていたのだが、19時から19時30分までキッチリ休憩し、21時30分ピッタリで帰るのである(もちろんもっと遅くまで残ることもあったが)。部下も同じように残っていれば文句を言わなかった。要するに生活残業、付き合い残業というやつを課内に強制していたのである。たしかに残業しなけりゃ手取りなど知れたものだが、もう少し残業時間を減らす工夫をして欲しかった。

かといって、残業しなくても仕事を片付けられるわけではなかった。シーケンス&計装コントローラのラダープログラムや演算ループに不具合があり設計者を呼んでも、一緒に悩み込んでしまうどころか忙しくて対応してくれないこともあった。つーか信号の取り合いを全点確認できてなきゃそれどころじゃない。納期が迫っているのに突然の仕様変更・追加によって大幅な改造が発生することもあった。こういう有様なので徹夜も土日出勤も度々あった。とてもじゃないが月曜から金曜の17時まで働けばこなせる仕事ではなかったのである。
こういう職場の労働者にとって恐ろしいことが行われようとしている。以下は6/14の朝日新聞1面及び3面の特集より引用。

厚生労働省は「労働契約法」と「労働時間法制」の変更のアイデアを示したそうだが、この中の「自律的労働」に関するアイデアが凄い。凄まじい!

【緩やかな管理で自律的に働く人を、1日8時間の労働時間規制からはずし、残業代の規程を適用しない】

要するに残業代は払いませんよ、というのだ。
これは「米国の『ホワイトカラー・エクゼンプション』にならったもので、経済界が強く求めている」という。なんでも悪いものはアメリカから来るようだ?
「使用者側」はこれを導入する理由を「漫然と働く人に残業代が支払われるのは不公平」「成果で評価することが職場の士気を高める」と説明する。たしかに俺が働いていた東芝府中工場では「漫然と」残業していた面があったことも否定できない。
しかし「労働政策研究・研修機構」の2004年の調査では、残業する理由の61%が「所定の時間では片付かないから」だという。「成果で評価」されたいために残業する人もいるだろうが、自分の最低限の責任を消化することが主たる理由ではないだろうか?
また厚生労働省の調査によると【30歳以上で週60時間以上働いている人】は、
1993年は20.3%だったが、
2005年は23.4%と増加している。日本の景気は回復しているというが、個々の労働者への負担は増加し、雇用側は人件費の削減を狙っているのである。

そしてこの【自律的に働く人】にあてはめる条件として、
【働き方】は「時間管理を受けず、より一層の能力発揮を望む人」、
【休日】は「週休2日相当の休日と連続した特別休暇がある人」、
【年収】は「一定水準以上」。経団連は年収400万円以上を提案しているという。
俺がいた東芝府中工場は週休2日、GW・お盆・年末年始に連続休日あり、フレックスタイムあり、正社員なら400万円など軽く超えるので十分当てはまるだろう。
で、もしこれが適用されれば、たとえば基本給+諸手当だけなら年収400万円程度、残業手当が多いので年収500万円になる労働者が、年収400万円になってしまうのである。つーか月に100時間残業やっても200時間やっても給料は変わらないのである。ひたすらタダ働きを強いられるのである。
この法改悪について「経営者側」は「時間でなく成果で公平に評価することができ、最重要で推進したい」と賛成しているという。たしかに労働者へ残業手当を払わずに働かせることができるので歓迎したくなるだろう。現在の日本国政府の基本方針は、大企業や富裕層をとにかく優遇し、国民の生活はどこまでも圧迫することにあるのがよく分かる。しかしこれをやっちゃあ、最初から700万とか800万とか年収のある連中は別として、俺が渡り歩いてきた業界じゃみんな働く気なくなるだろうね。

ちなみに俺が今度入った会社はギリギリで年収400万円ぐらいいくと思うが、シフト勤務でキッチリ時間が縛られているんで、この「自律的労働制度」が導入されることはないだろう。つーかこの業界(ビル管理)にも夜勤手当無し、というひどい会社がある。何回夜勤やっても給料同じじゃやる気なくなるだろうなあ。つーかひとごとじゃないよ。

(このニュース)
労働法制見直し始動 一定年収で残業代なくす制度も提案
2006年06月13日21時40分
 働く人と会社の雇用契約のルールを明確にする新しい「労働契約法」と労働時間法制の見直しに向けて、厚生労働省は13日開かれた労働政策審議会の分科会で、素案を示した。長時間労働の是正のために賃金に上乗せされる残業代の割増率を引き上げる。一方で、一定以上の収入の人は労働時間の規制から外して残業代をなくす仕組みなどを提案している。会社員の働き方を大きく変える内容だ。
 同省では7月に中間報告、今秋までに最終報告をまとめ、来年の通常国会に労働契約の新法や労働基準法改正案などの関連法案を提出したい考え。素案は残業代の割増率の引き上げなど労働者を守るため規制が強化される部分と、残業代が必要ないなど企業にとって使いやすい人材を増やす側面の両面を含む。労使双方から反発が出ており、どこまで一致点が見いだせるか議論の行方は不透明だ。
 素案では、長時間労働を是正するために、現在最低25%の残業代の割増率を、月30時間を超える場合に50%とする▽長時間残業した人の休日取得を企業に義務づける▽整理解雇の乱用を防ぐルールの明確化などを盛り込んだ。
 その一方で、一定以上の年収の人を労働時間規制から外して残業代の適用対象外にする「自律的労働制度」の創設▽就業規則など労働条件変更の際、過半数の社員でつくる組合の合意があれば個別の社員の合意と推定▽裁判で解雇を争って無効になった場合でも解雇を金銭で解決できる仕組みの検討――なども示した。
 自律的労働制度の対象となる社員について、厚労省案では具体的な基準は示されていないが、日本経団連は昨年、年収が400万円以上の従業員を労働時間規制の対象外にするよう提案しており、基準の設け方によっては多くの正社員の残業代がなくなる可能性もある。
 同日の分科会では、労働側が、労働時間規制の適用除外を広げる案や解雇の金銭解決などが盛り込まれていることに「これまでの議論が反映されていない」と強く反発。労使の一致点が見つからなければとりまとめをしないよう求めた。
 一方、使用者側も「雇用ルールを明確にするのに必ずしも法制化は必要ない」などとして、ルールの厳格化によって人事・労務管理などが規制されることに警戒感を示した。
posted by 鷹嘴 at 19:11| Comment(0) | TrackBack(1) | 労働問題 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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これからカンカン照りといえば〜トーゼン、、、友からTEL
Excerpt: サラリーマン泣かせ、、残業代を出さなくても良い法案って、、、
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