2011年11月14日

ダサ夫

 その昔、ヤングマガジンに「おやすみなさい。」というマンガが連載されていたことを憶えてますか?

 2000年前後に連載していたこのマンガの主人公は、(株)日本ミラーボールの工場で働く「鉄郎」(つーかミラーボールを専門に作ってる会社なんかあんのか?)。学歴も特技も腕力もなく、気弱で彼女もいない(当然童貞)彼が、周囲の妙な連中に振り回されつつ、童貞卒業の日を夢見て生きていく物語。彼の気の弱さやスケベさには親近感を感じるが、鉄郎は感動的なまでに誠実で純粋で、絶対に人を裏切ったり騙したり疑ったりしない。俺らウヨサヨは鉄郎のチンカスでも煎じて飲んだほうがいいかも。作者の小田原ドラゴン先生は現在もヤンマガで「ワイルドチェリーナイツ」を連載中。

  ところで、ブックオフで見つけた「おやすみなさい」単行本第2巻の巻末に、「ダサ夫への手紙」という、不思議なコラムというかレポートが添えられている。
 「おやすみなさい」連載当時の有線放送に「Jの40チャンネル」というサービスがあり、不特定多数の参加者の電話による会話が放送されていた。誰でも指定された電話番号にかければ会話に参加できて、自分の声が放送に流れるという仕組み。今で言う「ヴォイスチャット」みたいなもんだな。(本当にこんなサービスがあったのか知りません。ただ「おやすみなさい。」の巻末に書いてあったことをそのまま引用しているだけです!)
 参加者同士のオフ会が行われるなど交流を深めていたようだが、「女の取り合い」や不倫騒ぎなどの揉め事もあり、時には「お前ら何こんなところに電話してんだよ。友だちいねえのかよ。暗い奴らだなぁ」という嫌がらせもあった。もっともそういう連中はしばらく放置すると消えていったそうだが。この程度のことは日常茶飯事だったが、1998年4月、有線J40チャンネルを「震撼させる出来事が起こった」。

 その「ダサ夫」と名乗る男は、参加者を侮辱し挑発する発言とともに登場した。どうせ上記の連中のようにそのうち消えていくと思いきや、ダサ夫の場合は連日連夜、時には「24時間ずっと電話してきて、お前一体いつ寝てるんだ」と思わせるほど、嫌がらせを続けていた。しかもその言葉遣いも、参加者の神経を逆撫でするようなものだった。以下は小田原ドラゴン先生が録音したテープから掘り起こした内容。
ダサ夫 「させろパイズリさせろユメ子パイズリさせろよ」

ユメ子 「なんでお前なんかにしなきゃなんないのよ」

ダサ夫 「おいブス、こんなところに電話してくるなんかブスに決まってんだよ。イヤ〜〜ン。おいB型。B型いらねえ。外人と付き合ってるなんかうそだろ。お前みたいなブス付き合えるわけないんだよ。イヤ〜〜ン。させろパイズリさせろ。イヤ〜〜〜〜ン」
 このように書き写すだけでも気分が悪くなるような内容。彼の電話の特徴としては、「全く人の話を聞かない」ということと、「話の中にランダムに挿入される『イヤ〜〜ン』という言葉」。これが参加者の「心の琴線」を刺激し、実に不快な気分になったという。ともかく彼のせいで「有線をお聞きの皆様がコミュニケーションを拡げる場」のはずであるJ40チャンネルが「全く機能しなくなった」のである。
 言うまでもなく彼は参加者全員から非常に嫌われ、「ダサ夫の家を見つけ出して腕の一本や二本折らないと気がすまない」というノリもあったという。ところが・・・。

 前述のように有線J40チャンネルの参加者は度々オフ会を開いていた。ダサ夫が暴れまわっていたこの時期にも、バーベキュー大会が行われることになったが、なんとダサ夫も参加したんだと!「もうダサ夫に会ったらボコボコにしてやるって奴がいっぱいいる所にノコノコ千葉の奥の方から神奈川まで3時間以上かけて」出かけたんだとよ!
 「これ聞いて僕、もう全然、分からなくなったんですよ。ダサ夫はイタズラ電話として出てきてみんなを不快にさせるのが目的だとばかり思ってたんですけど、もしかしたらこいつ本当はみんなと友達になりたいのか?え?わからないって」
 そしてバーベキュー大会に参加したダサ夫は、案の定ボコボコにされましたとさ、めでたしめでたし!じゃなくて、「みんな大人なんで」ダサ夫をゲバルトすることもなく「お前もうイタ電やめろよ」と注意し、ダサ夫も「もうしません、って謝って」、この場は丸く収まったそうな。
 しかしダサ夫はその後、また以前のような嫌がらせ電話を続けたんだと。

 ダサ夫の行動は、俺らが日頃体験しているインターネット上の「荒らし」とそっくりだ。2ちゃんねるが始まったのは1999年、この当時はまだまだ誰しもネットを見る時代ではなかった(俺だってパソコン持ってなかったし)。言わばダサ夫は時代の先駆者ではないか?
 しかしダサ夫は、小田原ドラゴン先生が言及するように「みんなと友達になり」たかったのではないだろうか。嫌がらせ電話はその手段ではなかろうか。
 考えてみりゃネット上じゃ掲示板でもブログのコメント欄でもミクシィでもツイッターでもメーリングリストでも、「ブサヨ氏ね」「北の楽園に帰れ」などと不快な投稿をしつこくしつこく繰り返し、管理人から投稿禁止を言い渡されてもハンドルやIDを変えて登場する奴が多い。「全く人の話を聞かない」のも、頭の程度の問題かもしれんが文章に妙なクセがあって字面を追うだけで不快になるのも、まるでダサ夫を見ているようだ(もっともネトサヨだってこういう行動に出る奴がいるが)。
 そういう連中もダサ夫と同様、決してブサヨに氏んでほしいわけでも北朝鮮に亡命してほしいわけでもなく、ブサヨと友達になりたい?のかも知れない。別にブサヨ仲間に入りたいわけではないだろうが、彼らの中にはダサ夫のようにリアルなプー太郎というか引きこもりもいて、コミュニケーションの場を持ちたかったのかもしれない。自分を認めて欲しかったのかもしれない。実に稚拙な手段だが。俺らはその隠されたメッセージ?に気付かなかったのかも、しれない。
 ネット全盛のこの時代、ダサ夫も今ではネット上のいろんな媒体で「荒らし」を繰り返しているのだろうか。この世にネットがある以上、今後も無数のダサ夫が現れては消えるだろう。たまには彼らの心の叫び?に応えてやるべきだろうか。もっとも本気で憎悪されてたりして。全く人の世は難しくて、哀しくて、面白くて笑えるw

 蛇足だが小田原ドラゴン先生は車でダサ夫の自宅へ出向き取材した。電話代を一番多いときで40万円も使ったと豪語するダサ夫はその当時無職。しかし一戸建てで一人暮らしをしていて、家族は別のマンションに住んでいる。親からキャッシュカードを預かってるんだとさ。
 彼は「埼玉のT大学」を卒業したのはいいが、どんな仕事についてもすぐ辞めてしまう。「一度だけ辞めさせられたことがあるが、これは新宿のファッションヘルスで働いていたとき店の女の子にストーカーまがいの行為をして店長に強い調子で『辞めろ』と言われたもの」。
 反響を呼んだせいか「おやすみなさい。」4巻にはダサ夫の顔写真が公開されている。少なくとも俺よりはいい男だなw
posted by 鷹嘴 at 18:04| Comment(0) | TrackBack(0) | アニメ、マンガ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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