政府、国連で『共謀罪』批判
「国際組織犯罪防止条約を批准するには、共謀罪創設が不可欠」とする政府が、実は、国連で「共謀罪は日本の法体系になじまない」と主張し、共謀罪を導入せず条約に加わろうとしていたことが、一日、民主党や日本弁護士連合会の調査で明らかになった。共謀罪必要論を根底から揺さぶる事実だけに、臨時国会で野党の厳しい追及を受けるのは必至の情勢だ。
国連審議を伝える外務省公電の分析で分かった。国連条約は第五条(原案当時の三条)で共謀罪や参加罪の導入に触れている。導入は義務づけではないとの条文解釈もあるが、政府は「同条で義務づけられた」と解釈している。共謀罪は英米法、参加罪は独仏などの大陸法になじむといわれ、最も狭義の参加罪は「犯罪を行わなくとも、単に犯罪組織に加入すれば罪になる」結社罪を指す。条約原案は共謀罪や結社罪の導入を促していた。
公電によると、一九九九年三月の国連審議で、日本政府が条約原案を「日本の法体系になじまない。英米法、大陸法以外の法体系の国々が受け入れられるようにしなければならない」と批判、「国内法の基本原則に従って」「組織犯罪集団の関与」などの文言挿入を要求し認められた。さらに、結社罪ではなく「犯罪組織に参加し、犯罪に貢献することを認識して行為する」ことを罰する「広義の参加罪」に変更するよう求めた。こうした日本側主張の一部が受け入れられ、条約最終案は米国などとの協議を経て、日本政府が提案した。
日本には共謀共同正犯理論や教唆罪、ほう助罪があるため「広義の参加罪」なら、ほぼ現行法のまま条約批准可能とされる。日弁連関係者らは「政府が、日本の法体系を壊さずに批准しようと条約原案を変更させたことがはっきりした。共謀罪必要論の虚偽を示す重要証拠だ」としている。導入に前のめりな安倍晋三首相らは民主党などの厳しい追及を受けそうだ。
共謀罪「法原則に合わぬ」 政府、99年に主張
2006年10月02日06時22分
犯罪を話し合っただけで罰せられる「共謀罪」を新設するため、「国際組織犯罪防止条約を批准するためには共謀罪が必要」と説明している政府が、7年前、国連の同条約起草の会議では「共謀罪は日本の法原則になじまない」と主張していたことがわかった。民主党などはこうした事情をもとに、臨時国会で「条約批准のためにそもそも共謀罪は必要なのか」という議論を提起する構え。政府・与党との全面対決になる見通しだ。
安倍新政権は、共謀罪新設を重要課題と位置づけているが、その処罰対象があまりにも広いとして反対が強く、最初の提出から3年たっても成立の見通しは立っていない。これまでの国会論戦では、批准に共謀罪が必要なことを前提としたうえ、対象をどう絞るかが焦点だった。
今回明らかになった日本の政府提案は99年3月、国連の条約起草委員会に示された。当時の条約原案では、「共謀罪」か、組織的犯罪集団の活動に加わるだけで処罰する「参加罪」を国内法に盛り込むことを例外なく要求していた。日本は「日本の国内法では、犯罪は既遂か未遂の段階で初めて処罰するのが原則。すべての重大な犯罪に共謀罪や参加罪を導入することは日本になじまない」と強調、条約に国内法の基本原則を尊重する条項を盛り込むよう要求した。
日本の提案に韓国や中国、タイなどが賛同し、条文に「締約国は、自国の国内法の基本原則に従って必要な措置を取る」との文言が加えられた。
さらに、もともと共謀罪や参加罪といった犯罪類型を持たない国々を念頭に、日本は「参加罪」の変化型を新たな選択肢として示した。「組織犯罪集団の行為に参加することで、それが犯罪の成就に貢献することを認識しているもの」という要件だった。
これらの政府提案について、野党側は「政府が起草当時、共謀罪を新設しないで条約を批准しようと努めていたことがわかる重要な証拠。日本の当時の関心が参加罪にあったこともわかった」と主張。「政府が今になってなぜ共謀罪の創設に固執するのか不可解だ」としている。
当時この案を取りまとめた法務省は、「日本の法制度により親しみやすいだろうと考えて、(変化型の参加罪を)提案したが、起草委では結局受け入れられなかった。ただ共謀罪でも参加罪でも、条約批准に国内法整備は必要不可欠だと当時から考えていた」と反論する。
共謀罪はこれまで国会で3度審議された。今年の通常国会では、与党が民主党修正案を「丸のみ」する奇策で採決を狙ったが実らず、継続審議となった。