電験三種(第三種電気主任技術者)試験の「電力」の科目は、毎年1問は原発の問題が出るみたいだから、手持ちの参考書(電験三種実戦攻略/オーム社)やウィキペディアを見ながら原子力発電の基礎の基礎を勉強してみる。どっか間違っていたら突っ込んでね。もっとも、たった1問しか出ない分野だからスルーしたほうが合格への早道かな?そりゃそうと参考書を読んでるうちに原発がアホらしさが分かってきたぞ!
原子力発電の燃料となる天然ウランの成分は、ほとんどが核分裂しないウラン238であり、核分裂をしてくれるウラン235は僅か0.7%しか含まれていない。核燃料はウラン235の成分を2〜4%に濃縮して用いられる。
そして原子炉内でウラン235に熱中性子(毎秒2.2km)が衝突すると、高速中性子(毎秒2万km)を放出しながら分裂する(例えばストロンチウムとキセノン)。このとき分裂前よりも質量が小さくなってしまう「質量欠損」という現象が発生し、莫大なエネルギーが発生する。
分裂前のウラン235より、分裂後のストロンチウムとキセノンの合計質量の方がほんの少しだけ軽くなるが、その分がエネルギーに化けるわけだ。
このエネルギーの計算は、この世でもっとも有名な公式「E=mc2」だ。エネルギーは光速の二乗に比例する、ってやつだ。mは質量欠損でcは光速だ。Eはジュール、mはキログラム、cは毎秒メートルだ。
たとえば1gのウラン235が核分裂したとき、質量欠損が0.09%だとすると、0.09%というのは比率で言えば0.0009だし、単位合わせのため1000分の1にするだろ。そんで光速はだいたい毎秒30万キロメートルだろ。小さい数字の出し方がわかんないから画像を貼るぞ。
という、なんだかよく分からないが凄い数値となるわけだ。
■ 参考書によるとこのエネルギーは、重油の約2000リットル分に相当するってよ。200リットルのドラム缶なら10本分だ。
A重油の発熱量を1kg当たり42.5MJ、比重を0.86とすると1リットル当たり36.55 MJだから、
81,000 ÷ 36.55 = 2216リットル
質量で言えば、
81,000 ÷ 42.5 ≒ 1906kg
すごいねえ。1gで重油約2トンに迫るんだから。
ちなみにウラン235原子一個の分裂で約200Mev(メガ電子ボルト)のエネルギーが出るって。そんで1gのウラン235原子の数からエネルギーを計算しても同じくらいの答えになるって(参考)。
勘違いしちゃいけないのは、ウラン235は核燃料の2〜4%だし、1%くらいは核分裂してくれないで残っちまうってこと(参考)。それでも重油と比べりゃパワーの差が違いすぎるよな。
ちなみにこの核分裂エネルギーを1時間かけて発生させたとしたら、1J=1ワット/秒だから、
81,000 MJ ÷ 3600 = 22.5MWh
この熱量を実際の電力に変換できる熱効率を32%とすると、
22.5 × 0.32 = 7.2MWh
ある世帯の1ヶ月の電力使用量を360kwhとすると、20ヶ月分となる。
■ ところで重油や天然ガスは燃焼によって炭酸ガスなどの気体に化けるが、原子力発電の場合は最初とほとんど同じ重さの核燃料が残る。
核分裂しないウラン238が中身の9割以上を占めるのは同じだが、ウラン235の核分裂生成物やプルトニウムなど危険な放射性物質も含まれ、桁違いの放射線を放つ(ウラン235が残っていてもこういう生成物に中性子が吸収されてしまうため、核燃料としては用済みになるという)。それこそ分厚い鉛とコンクリートで埋め固めて永久に監視しなきゃならんような危険なシロモノだ。つーか原子炉から抜いたあとも、循環する水で何年間も冷やさなければならない。野ざらしだったら勝手に発熱してドロドロに溶けて放射能出っ放しだろう。
ストロンチウム90などの核分裂生成物は、中性子が陽子より多すぎるため(つまり不安定なため)「ベータ崩壊」を起しながら他の元素へと変化していく(中性子と陽子の数が異なっても安定する組み合わせがあるらしい)。セシウム137もベータ崩壊する。こうしてこれら人工的放射性物質は長い長い時間、放射能を漏らし続けるわけだ。半減期って言っても半分になるだけだからな。
しかし、あえてこういう超危険なゴミから使える物質を取り出してリサイクルしようってのが核燃料サイクル計画だ。核分裂してくれなかったウラン235を抽出して新しい核燃料にこしらえる計画や、核分裂してくれないウラン238を高速増殖炉で中性子を当ててプルトニウム239に化けさせようという計画がある。日本で言えば何十年かかっても何兆円かけても一向に稼動できない「もんじゅ」や六ヶ所再処理工場だ。あるいは生成したプルトニウムを取り出して普通の原発で使おうというのが、福島第一原発3号機のような「プルサーマル」だ。
ウラン235が分裂するとき放出される高速中性子は毎秒2万km!というとてつもないスピードなので、次のウラン235にうまく当たってくれない(核分裂の連鎖反応=臨界に至らない)。そのため水(軽水)を、中性子のスピードを緩めるための減速材として使用する(かつ、沸騰水形(BWR)ならタービンを回し、加圧水形(PWR)なら蒸気発生器を熱するために、及び核燃料を冷やすための冷却材として必要)。
一方、高速増殖炉はプルトニウム239を分裂させるとともに、ウラン238に中性子を当てて新たなプルトニウム239を誕生させようという計画。実現すれば発電しながら使ったプルトニウム以上のプルトニウムが手に入るという、夢のような計画。
しかしウラン238に中性子を当てるには、減速材は邪魔者となる。中性子のスピードを緩めずにぶち当てなければならない。そのため中性子にブレーキをかけない媒体の、ナトリウムが用いられる。原子炉の中に水じゃなくてナトリウムが循環してるんだ。核分裂の熱を受け取ったナトリウムは、加圧水形(PWR)と同じように蒸気発生器に通しタービンを回すという仕組み。
■ ところがナトリウムというのは、「消防法別表第一」に於いて「危険物第3類 自然発火性物質及び禁水性物質」に指定されている。「空気にさらされることにより自然に発火する危険性を有するもの、又は水と接触して発火し、もしくは可燃性ガスを発生するもの」だ。蒸気発生器の配管が錆や腐食で小さい穴が開いて、ナトリウムと水が反応したらどうなる?激しい反応で配管の穴が拡大し、冷却材であるナトリウムがどんどん漏れだすかもな?あるいは福島第一原発のように全電源喪失したとき、水なんかかけたら大爆発だ。手の施しようがない。
もっとも「もんじゅ」を運営してるJAEAの説明だと、電源喪失した場合でもナトリウムの自然循環によって冷却できる、という。そんなに上手くいくもんかね。ある知人は「ナトリウムが冷えすぎて固まっちまったらどうしようもねえよ」と指摘する。
要するに、ナトリウムの融点は97.7℃だから、空気冷却器か戻り配管のどっかでナトリウムがこの融点以下になって固まっちまえば糞詰まり、チャイナシンドロームのプルトニウム版だ。そうなりゃ少なくとも近畿地方から東側は人間が住めなくなるだろう。
また、「もんじゅ」は営業運転には程遠いが、その原子炉は約1670トンのナトリウムで満たされているため、凝固を防ぐため常に電気ヒーターで200℃まで加熱しているという。その消費電力は年間8500万kw/h。これは約2万4000世帯分の年間電力量だという(2012年4月30日・東京新聞より)。電気作らないで食うだけだ。出力100万kwの原発か火力発電所を85時間運転しっぱなしにする電力量だ。ディズニーランドの一日の電力使用量(参考)の約5ヶ月分だ。電気料金は、大口需要家だから1kwhあたり12円だとしたら、10億2千万円だ。なんでこんな馬鹿な物をさっさと廃炉にしないのか?
つーか手持ちの参考書は軽水炉(日本の原発)や高速増殖炉のこうした致命的な欠点に全く触れていない。試験に原発の欠点を指摘するような問題は出ないんだろうね。ともかく「もんじゅ」も六ヶ所再処理工場も動かせる見通しが無いから、日本の核燃料サイクル計画は行き詰まっている。ウラン235を食いつぶして使えないウラン238と核分裂生成物が増えていくだけだ。
いや「もんじゅ」が稼動してもリサイクル燃料が作れても、高レベル廃棄物が溜まっていくのは同じだけどね。プルトニウムやウランの核分裂=超危険で利用方法の無い核分裂生成物を作るのが目的だから、再処理してもしなくてもほぼ同じ量の高レベル廃棄物の処理に悩むことになる。だから「サイクル」ってのはウソ、地獄への一方通行だ!
■ この参考書には原子力発電と火力発電の熱効率などを比較する過去問題も紹介されている。
熱効率というのは、発電量kwhに3600をかけて熱量kWs(1秒間の電力量。キロジュールと等しい)にして、これを【燃料の発熱量×使用量】で割った比率。要するに発電所で消費した熱量をどれだけ電力に変換できたかの指標だ。
火力発電は熱効率35%〜40%だが、原子力発電は熱効率31%から34%だという。つまり原発のほうが発電効率が悪い(エネルギーを無駄に捨てている)ということだ。
原発も火力発電も言ってみりゃ巨大な薬缶というかボイラーだが、原発は火力発電と比べてタービンを回転させる蒸気の温度・圧力とも低いから、効率も劣るという。温度が高けりゃ高いほど、圧力が高けりゃ高いほど効率がいいということだ。タービンを回す力が強くなるんだろうね。
火力発電なら530℃/24Mpa程度だが、原発なら沸騰水形(BWR)で270℃/6.9Mpa程度、加圧水形(PWR)で260℃/5.9Mpa程度だという。温度は約半分、圧力は3分の1以下だ。
核物質などという危険な物を封じ込めているし、制御棒などという複雑な部品もあるから、危なくてあんまり圧力上げられないんだろうね。というか圧力・温度を水の臨界点を超えて運転する原発は存在しない。
水の場合、22Mpa/374℃が臨界点。冷たい水を温めるのは顕熱、沸騰したお湯を蒸発させるのが潜熱。たとえば0℃の水1kgを100℃まで上昇させるには100kcal(418KJ)の顕熱で足りるが、これを完全に蒸発させるには539kcal(2257KJ)の潜熱が必要となる。圧力を加えていれば沸騰点(飽和温度)が上昇し、潜熱は減少し、ついにゼロになるのが臨界点である。加熱・加圧によって蒸気の密度が増し、お湯の密度が減り、臨界点に達するとこの両者の密度が等しくなり「液体とも気体とも異なる特殊な状態」(ウィキペディアより)となる。このような超臨界火力発電所は熱効率が40%に達するという。(超臨界の原発も開発されているらしいが、危ないからやめて欲しいよね)
■ そして原発や火力発電所は、タービンを回した後の蒸気を復水器で水に戻し、またボイラーに給水する。要するに海の水を間接的に触れさせて冷やしているんだ。復水器でしっかり冷やしてやれば蒸気から水に戻るから体積が減ることになり、タービン入口と出口の圧力差が高まり、蒸気が出口に向かって引っ張られることによりタービン効率が増すという。
火力発電の場合、煙突から逃げる熱量が全体の10%(排ガス損失4%+燃料中の水分を蒸発させる損失6%)、復水器の熱損失は全体の熱量の47%に達するという。原発は煙突が無い分、復水器の熱損失の割合がもっと多いかもね。この無駄に捨てる熱のせいで海水の温度は上昇し、周辺海域の環境に悪影響を与えるのは言うまでもない。小出裕章助教授はかつて恩師が「原発とは海温め装置だ」と指摘したことを憶えているという。
それにしてもビルや工場だったら、ボイラーやコージェネレーションシステムから供給させる蒸気を、わざわざ冷やして水に戻す設備なんて普通はねえだろ。蒸気コイルを通ったあとにスチームトラップをくぐればお湯に戻るだろ。原発も火力もなんて無駄なことをしてるんだ!
と思ったら、火力発電には背圧タービンというのがあった。タービンを回したあとの圧力の下がった蒸気を工場などで利用するシステムだ。
たとえば「東京電力川崎火力発電所1号系列」は「150万kW(50万kW×3軸)」という大きな出力だが(参考)、タービンを回したあとの蒸気を川崎市コンビナート地帯の化学工場10社に供給するという(参考)。タービン出口の圧力を二次利用できる程度までしか下げなくても、超臨界圧力タービンなら充分な圧力差なんだろうと思う。
もちろん原発じゃこんなことは出来ない。加圧水形(PWR)の二次冷却水なら核燃料に直接触れるわけじゃないが、それでも気味悪いだろ。つーか原発の近くにコンビナートなんかねえよ。なるべくなるべく人口密度の低い所に造るもんじゃん。
ある知人は、「原発造りたいなら東京湾につくればいいのに。送電ロスも小さくなるし、排熱を工場の熱源やビルの空調に利用できるのに」と指摘する。たしかにそうすれば膨大なエネルギーを供給できるだろうな。しかし原発屋も役人も政治屋もそんなことは絶対言わない。奴らは口じゃ安全だって言うけど、本当は原発の怖さを知ってるんだ。
■ それに上に書いたけど世間にはコージェネレーションシステムってもんがあるだろ。ガスタービン回して発電し、その排熱で蒸気やお湯をつくろう、というシステムだ。複数の事業所に蒸気や(空調用の)冷水を供給する「地区熱センター」も、コージェネ使って発電もしてるだろ。そりゃ原発だって電気だけでなく蒸気もお湯もつくれるが、あいにく人間様の身体は放射能に弱くできてるんでそんなもん利用できっこない。
それに、上記の東電川崎火力発電所1号系列はコンバインドサイクル発電を採用し、「熱効率を世界最高水準の59%」だという。コンバインドサイクルとは、ガスタービンで発電するとともにその排気をボイラーに通し蒸気タービンで発電するというシステム。要するにガスの燃料力と蒸気の圧力の二通りで発電するわけだ。言うまでもなく原発でこんなことできるわけない。しかも使った蒸気を単純に冷やすだけでなくコンビナート地域で利用してもらうんだ。東電もいい仕事するね。
こうして比較してみりゃ、原発というのは危険なだけじゃなく恐ろしくエネルギーを無駄して環境を破壊する厄介者だと分かった。そもそも、核燃料はウラン235の成分を2〜4%に濃縮したものだが、90%以上に濃縮したのが広島に落とされた原爆だ。つまり原爆と原発の違いは、一気に核分裂させて一気に放射能を撒き散らすか、ゆっくり核分裂してゆっくり放射能を撒き散らすか、の違いに過ぎない。原発なんて馬鹿なものはいますぐ解体するっきゃない。
2012年06月11日
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一億総ざんげへの道。
この道は、いつか来た道。ああ、そうだよ、民族の歴史は繰り返す。
耐え難きを耐え、忍び難きを忍んで、もって万世のために太平を開かんと欲す。
座して死を待つか、それとも腹切りするか。 (私の父は、玉砕した)。
安らかに眠ってください。過ちは繰り返しますから、、、、
http://www11.ocn.ne.jp/~noga1213/
http://3379tera.blog.ocn.ne.jp/blog/
内容はとても分かりやすく参考になります。
しかもご指摘していただいてありがとうございます。
訂正させていただきました。