路上生活者が生活保護を受給したければ「最寄の福祉事務所で申請でき、住宅扶助を利用して部屋も借りられる」。たとえ住民票が他都道府県のままでも関係なく受給できることになっている。しかし高松市の対応は異常なものだった。(10月7日東京新聞より引用)
この四十代の男性は中国地方の運送会社に勤務していたが倒産、貯えも無いので家賃が払えなくなりアパートから追い出され、友人宅を転々としたり野宿する生活が続いた。職を探していたが6月には内臓疾患のため入院、無保険で治療費も無いので完治していないのに「退院を余儀なくされた」。
『全てに絶望』してたどり着いた香川県でも路上生活を送っていたが、「生活保護を受けてやり直したいと決意」し、高松市福祉事務所を訪れた。中国地方の実家の父親とは「事情があって」同居できない。内臓疾患があるため就職も困難だろう。このようなケースの場合直ちに生活保護申請が認められるべき、だと思うが・・・。
福祉事務所の相談員に、失業して持病を抱えながら路上生活していることを伝えたが、相談員は「住民票を置いている地域の管轄になる」の一点張り、「極端な言い方をしたら高松にいる理由はない」などと言い放った。じゃあどこに行けばいいんだよ?
男性は実家には戻れないことも説明し「こっちに住みたい」と訴えたが「住めるか住めないかは別にして、帰る家があるならそっちの管轄になる」と突っぱねた。「困窮状態の確認や他の福祉事務所の紹介もしなかった」。男性はこの福祉事務所の対応を『何も分からない状態で行ったら、高圧的な口調と態度で追い返されて辛かった』と振り返る。
後日、支援団体が同行して申請すると受給が決まったという。『路上生活はすごく不安だった。今は支援団体に本当に感謝している』。
この事件について神奈川県立保健福祉大学講師の岩永理恵氏は『違法だが、全国的に今後増えるのではないか。国会でも議論も財政面に偏っており、生活保護が「人権」に関わる制度だという意識があまりにも薄い』と指摘。高松市は『事実関係が分からず現時点ではコメントできないが、確認したい』とのこと。
・・・まあたしかに生活保護費は削りたいだろうし(かといって、俺も誤解してたが地方自治体の財政負担にならない場合の方が多いらしい。参考)、よそを当たって欲しいと言いたくなるところだろうが、絶対に許せないね。この日本列島に住んでいる限り、失業して金が無ければ生活保護を受給する権利があるんだよ。リーマンショックと3.11を経験した我々にとって他人事とは思えないはずだ。いつ自分が解雇され、あるいは勤務先が倒産し、生活保護を申請に行くか路上生活を強いられることになるか、分かったもんじゃない。これは我々全てに共通する問題だ。
体制側は我々労働者・市民に対し、生活保護を恥ずかしいことのように思わせているが、そもそも資本に搾取され続け行政に無視された末に、貧困に陥るのではないか。敵を間違ってはならない。タレントをバッシングしているようなら体制側の思う壺だ。
それにしてもこの男性が一人で行ったら門前払いしたクセに支援団体が同行したらあっさり受給決定とは・・・何も知らない人間に対してはウソをついてもいいと心得てんのかね。何も知らない人間には何も教えなくていいと思ってんのかね。受給する側がこういうウソをつくとは全くアンフェアというかインチキだな。審判がウソのルールを教えるようなもんだ。
このように平気でウソをつく人間・組織って世の中に溢れてると思う。俺も会社に何度も騙されてきたが(給料遅配してるけど必ず払うとか、労働債権は全てに優先するから社員の給料は保証できるとか、国からの立替払いが適用できるとか)、行政がこういうウソをつくとは全く世も末ですな。
・・・話は変わるが、大阪市西成区を巡る大阪市の構想について、2012年2月24日・東京新聞【こちら特報部】より引用する。
西成区にある「あいりん地区」(釜ヶ崎)は言わずと知れた日雇い労働者と路上生活者の街だ。大阪市には24の行政区があるが、西成区は高齢化率(34.8%)、被生活保護率(23.5%)、結核の発生率(2.34%)、救急出動件数(1万8905件)、火災件数(126件)など、数々の「ワースト1」を抱える。また一人当たりの市税収入は最も少ない8万円(平均の3分の1)、市内の不法投棄ゴミのうち西成区で投棄されたものが4割を超えるという。
こうした中で橋下のバカが「西成特区構想」をぶち上げた。プロジェクトチームが2月に発表した政策のアイデア例は、「簡易宿泊所から住宅に立て替える際の補助、市外から転入した子育て世代への市税などの減税、小中高一貫の進学校の設置、あいりん地区を中心としたごみ不法投棄対策強化、市有地で定期借地契約によるマンション建設、防犯灯の増設など明るい街づくり」など、27項目に及ぶ(参考)。橋下は『一部地域へのえこひいき政策とも言われるが「大阪市が力を入れれば地域が変わる」ということを示したい』と、「強い意欲を示した」という。
これについてNPO法人「生活サポート釜ヶ崎」の岡井一郎事務局長は『労働者にとって、いい方に行くのか。悪くならなければいいが今は何とも言えない』と慎重な姿勢を示し、「野宿者ネットワーク」の生田武志代表は『思いつきの域を超えていない。貧困や不安定雇用の問題に切り込まないと、無意味に終わる』と懸念する。
それにしてもこの「アイデア例」には、「簡易宿泊所を住宅に立て替える際の補助」という項目がある。安く泊まれる簡易宿泊所が少なくなれば釜ヶ崎の労働者・失業者は一層、路上に追い出されるだろう。一方で住宅やマンション建設補助によって西成区への転居を促そうとしている。
ジャーナリストの吉富有治氏は「西成特区構想」の本質について『西成区こそが、大阪都構想にとって大きなネックになっているからだ』と喝破する。
「大阪都構想」は、大阪府と大阪市を統合して大阪都とし、大阪市内24行政区を8〜9の「特別自治区」に再編する方針だが、『実は、西成区をどこが抱えるのかが問題になっている。市民感情からも一緒になりたくないという雰囲気がある。財政面でも周辺区とバランスが取れていない西成区は、疎まれかねない』。
結局「西成特区構想」は、「大阪都構想」を実現するために釜ヶ崎の労働者・失業者を徐々に排除し、新しい住宅・マンション建設を推進して「明るい街づくり」を目論むものではなかろうか。橋下のような人間なら考えそうなことだ。
この記事の最後の【デスクメモ】を引用する。
学生時代にあいりん地区を歩いたことがあった。立ち飲み屋で一緒に飲んだ気のいいオヤジの顔を思い出す。政界の台風の目となった橋下市長。西成特区構想も市職員の組合活動調査も、「排除の論理」の臭いがする。その橋下市長に中央政党の幹部があいそ笑いをしている姿は、醜悪でしかない
それにしても橋下のような弱者を排除しようとする人間を当選させたのは、我々有権者が体制側から植え付けられた、弱者を排除しようとする意識ではないだろうか。奴のような政治家が幅を利かせれば、行政サービスは後退し組合活動は解体され歴史認識が歪められ労働者の権利が奪われ、そしてそれを傍観している我々の生きる権利も奪われるだろう。
上で引用した高松市職員の「極端な言い方をしたら高松にいる理由はない」という言い様こそ、弱者を排除しようとする体制側の本音だろう。それこそ「外国人は出て行け」というような排外主義であり、それに同調しているようならいずれ自分の身を滅ぼすだろう。
我々は、己の中にある弱者を排除しようとする意識を捨て、釜ヶ崎・山谷・堅川の、いや全ての日雇い労働者・路上生活者の立場は決して他人事ではないことを覚悟し、自身の問題として捉えなければならない。現在住む家があろうとなかろうとそんなことは関係ない。労働者を搾取し使い捨てにする連中を打倒するため、連帯して闘うべきだと、思うぞ。
追記:この記事によると、大阪市の生活保護費は2012年度予算案では2970億円を計上、22年連続で増加する見込みだという。この支出を削減するため大阪市は4月から「不正受給調査チーム」を設置した(参考)。
また上で引用した10月7日の記事によると、政府は2013年度予算の概算要求基準で生活保護費支給基準の削減方針を示した(参考)。これに対し日弁連が抗議声明を出している(参考)。
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