渋谷アップリンクで「モンサントの不自然な食べ物」を観た。モンサントによる世界戦略の恐ろしさがよく分かる映画だ。今までこの問題について無関心だったことを恥じたい。以下にこの映画の感想と、ネットで得た初歩的な知識を書きなぐってみる。
(注:この投稿にはネタバレがあります!)
モンサントというアメリカ企業は遺伝子組み換え作物(Genetically Modified Organism)の種子を製造する企業でもあり、変圧器の絶縁油などに用いられたPCB(ポリ塩化ビフェニル)を開発製造した大手化学企業でもある。ベトナム戦争で大量に散布され未だに被害が残る枯葉剤も製造したという。
アラバマ州アニストン市でPCBを製造していた同社工場は、行政の許可を得てPCBを埋め立て処分するだけでなく排水路に廃液を垂れ流していたため、周辺でPCBによる被害が発生した。汚染度の高い地域は住民が転居し廃屋になった。科学者が市内の排水路の魚を流してみると数分で死んだという。多くの貧しい市民が癌や神経疾患で犠牲になり、今も後遺症で苦しんでいる。成人のPCB含有量限度は2ppb(ppbは10億分の1)だが、市民の中には60ppb、200ppbといった数値が出ている人々もいる。子供たちは「僕は3ppb、いつまで生きられるかな?」が口癖になっているという。
同社はPCBが人体に与える毒性(内臓疾患、塩素挫創)を知っていたが、排出量制限による損失を惜しんで40年以上垂れ流しを続けた。まるで水俣病の原因企業チッソのようだな。社内の機密文書には「1ドルでも損失を出すわけにはいかない」という記述があったという。同社は裁判で敗訴し被害者に9億ドルの賠償金を支払うことになったが、経営者が刑事責任を問われることはなかった。アメリカでは企業の経営者が刑事責任を問われることはありえないという。これも東電幹部が刑事罰を受けていない日本の状況と同じだな。
■ 同社の主力製品である除草剤グリホサート(商品名:ラウンドアップ)の容器には、かつて「生分解性」という表示があった。自然界の中で勝手に分解していくという触れ込みだが、ニューヨークやフランスの法廷で全く虚偽であるとの判決が下り、このラベルは消えたという(生分解性は僅か2%だという。ちなみに日本でも日産化学工業株式会社が販売している)。この毒物とセットで販売されるのが遺伝子組み換え種子だ。
ラウンドアップは「非選択性除草剤」であり、アミノ酸生成を阻害し全ての植物を枯らしてしまう。日本ではゴルフ場や河川敷の除草に用いられる。雑草を枯らすため畑に撒く農薬としては適さないはずだ、作物まで枯らすからな。大豆の畑では弱い除草剤を何度も撒いて雑草を駆除している。
しかしラウンドアップに耐性を持つ微生物が土壌から発見された。この微生物の遺伝子を大豆の遺伝子に組み込んだのが「ラウンドアップ耐性(レディ)大豆」だ。これはラウンドアップの毒性に耐える遺伝子組み換え大豆であり、ラウンドアップと抱き合わせで販売される。
除草の手間が大幅に省けることになるが、しかしただでさえ危険な遺伝子組み換え作物が、ラウンドアップ耐性大豆以外の植物は枯れ果ててしまうような毒物をふりかけられて育てられるのだ。ある学者はラウンドアップに発癌性があるとは言わないが、分裂のメカニズムに異常を来たし、「癌への第一ステップを誘発する」と警告する。
また、馬鹿げたことに同社が販売する種子から育てた作物から、種子を採集して翌年植えることは契約違反となる。つまり毎年同社の新しい種子を買わなくてはならない。しかも同社の貪欲さはこれだけではない。
穀物倉庫で混入した場合、前年に収穫した作物の種子が勝手に育った場合、所有者は同じでも一方の畑にモンサント種子で一方に他の種子を植えている場合・・・などいろいろケースはあるだろうが、正規にモンサント製種子を購入せずに栽培していると決めつけられて訴えられ、多額の賠償を要求されることがある。同社にとって遺伝子組み換え種子には「特許」があり、これを無視する者は許せないのだ。
(それにしても映画の中でモンサントに訴えられた農民らが疑問視していたことだが、どうやって自社の種子を栽培している畑を見つけるのか。他人の畑に勝手に入って作物を盗んでいくのか。モンサントこそ住居侵入罪と窃盗罪で起訴されるべきでは?)
ひどい例だと、近隣の畑から風に吹かれて飛んできたモンサント種子が自分の畑で勝手に育ち、モンサントから訴訟を起される例もある。カナダの農民パーシー・シュマイザー氏はその被害者になった(参考:悪魔のモンサント その1 - 東海アマのブログ。
東電は自分で撒き散らした放射性物質を自社の所有物ではないと開き直ったが、モンサントの場合撒き散らした毒物は全て自社の所有物だと脅し、農民を破産に追い込むのだ。
もっともモンサントの目的は「特許」を盾に毒物を売りつけるだけではない。前出の農民らは「モンサントは世界の食糧を支配しようとしている」と語る。既に全世界の50の種子企業を買収しているという。
■ モンサントが開発した牛成長ホルモンPOSILAC(rbGH)を乳牛に接種すると、搾乳量が20%も増加するという。しかしFDA(アメリカ食品医薬品局。日本の厚生労働省にあたる。食品の安全を監視しなければならないはずの機関)に勤務する獣医がPOSILACの危険性を発見したが、閑職に追いやられ、関連するデータへのアクセスを禁じられ、そのうち解雇された。
POSILACを接種された牛は乳腺炎にかかるケースが多くなり、しかも卵巣が40%も大きくなる。明らかに生殖機能への悪影響があるというのだ。このホルモンには「インスリン様成長因子」のIGF−1が混じっている。牛乳にはこの発がん性物質も混じるという。この危険性を隠蔽しようと躍起になっていたのはアメリカに右に倣えのカナダ政府・学会も同じで、危険性を訴えた研究者は停職処分を受けた。
とにかくモンサントとFDAそれにカナダの行政は、都合のいい条件下の動物実験を行い、それに用いたデータを開示せず、研究者には賄賂をちらつかせ、あるいは圧力を加えるなど、ありとあらゆる方法でPOSILACへの疑念を消そうとした。
しかしアメリカではホルモンの危険性が知れ渡り激しい反対運動が起こり行われ、モンサントは2008年にこの分野を売却し撤退。しかしアメリカでは未だにこのホルモンが使用されているという。(*注)
■ モンサントは政界と強いパイプを築き、新製品の承認を次々と得ている。レーガン政権下で副大統領だった父ブッシュが同社を訪問した際の映像では、彼は「許可が下りなかったら私に電話してくれ」と述べていた。「小さな政府」を志向するレーガン政権は食品の規制を下げようとしていたのだ。父ブッシュが大統領になった後の副大統領のクエールという男は1992年、「バイオ産業のために無駄な規制を廃止する」と宣言。
モンサントは政界に多額の献金を行い、政界との「人事交流」も築いている。政治家・役人の天下り先を用意するだけでなく、規制する立場のFDA(アメリカ食品医薬品局)からモンサント、モンサントからFDAという「回転ドア」もある。あの戦犯ラムズフェルドはモンサント子会社のCEOを務めていたこともあるという!これじゃ政治家はモンサントに逆らえないよな。まるで日本の電力会社・電力総連と、自民・民主のようなズブズブの関係だ。しかもモンサントの弁護士をしていて、FDAに入局した者や最高裁判事になった者もいたという。
こうした政界との強いパイプによって、FDAはモンサント製品の安全性をろくに検証することもなくお墨付きを与えている。モンサントによる安全性実験など都合のいい条件から恣意的な結論を導くばかりでまともな学者が見れば失笑ものだ。
たとえばラットの給餌実験では、あえて年老いたラットを使うという。若いラットほど(たんぱく質で肉体を形成していくので)GMOから悪影響を受けることを知っているのだろう。しかもそのラットの肝臓を調査するため解剖しても、ただ目視して「異常なし」で済ませてしまうという。ど素人でも、顕微鏡で観察したり成分を分析しなきゃ意味がないと思うぜ。
FDA内部にも「通常の品種改良と遺伝子操作は全然違う」と、規制緩和に反対する意見もあったが押しつぶされた。新潟水俣病の原因企業である昭和電工が起したトリプトファン事件(遺伝子組み換えされたサプリによって38人のアメリカ人が死亡した)についても、原因については言葉を濁すのみだった(参考)。自国企業の遺伝子組み換え技術も追及されることを恐れたのだろう。
FDAのマリアンスキーという御用学者は「企業がデータを捏造するわけがないでしょ?」と、全く正反対のことをしゃあしゃあとほざきやがった。まるで東電と保安院だな。
こうしてモンサントはアメリカの政界・行政・司法を手なずけている。国内の遺伝子組み換え種子のほとんどはモンサント製だというが、もちろん北米市場だけで満足するわけがない。しかもアメリカ帝国主義とそれに守られた保護された企業の手段は悪辣なものだった。
あるイギリスの研究者はテレビに出演したとき、遺伝子組み換えジャガイモの安全性は確認されていない、それなのに輸入を続けているのは「ベリー、ベリー、アンフェア!」だとテレビで訴えた。しかし彼はこの発言のせいで停職処分を受けた。当時イギリスの首相だったブレアから直接、かれの勤務する研究所に電話があったという。イギリスでモンサントの種子を売りたいアメリカからの「スーパーナショナル(超国家的)」な圧力だったと言われる。(*注)
(つづく)
*注: 以下は全て「偽りの種子」(原題“Seeds Of Deception”、Jeffrey M.smith/著、野村有美子・丸田素子/訳、家の光協会)より引用。
合成ウシ成長ホルモン剤rbGH(モンサントはBSTと呼称する)は、ウシ成長ホルモンを生成するウシ遺伝子を操作し、大腸菌に入れて製造する。これを投与された乳牛は乳腺細胞が活性化し代謝全体が高まり、乳が多く出るようになる(ちなみに通常の牛乳にも天然のウシ成長ホルモンbGHが混ざっている)。
しかしカナダの研究チームによると、これを投与された牛は乳腺炎、胸部疾患の罹患率が高まり、出産障害、子宮感染症、代謝障害、消化不良、短命など様々な健康障害を起すという。またモンサントがFDAに提供したデータ(リークされた)によると、投与された牛は心臓、肝臓、腎臓、卵巣、副腎などが肥大していた。しかも内臓は肥大するが体そのものは痩せていく。食肉として処理する際に通常よりずっと少ない量しか取れない牛もいた。またホルモン注射された部分が壊死していたり盛り上がっていた牛もいた。妊娠率を調査したところ投与されていない牛は試験期間中95%だったのに対し投与された牛は52%だった。
FDAがこの合成ホルモン剤を承認する際、ラットに28日間rbGHを服用させて影響は無かったという実験結果を、安全性の根拠の一つにした。この28日間という短すぎる実験は科学者らを呆れさせた。別の実験では90日間服用させたが(常識的には約2年間の試験が必要だという)、2割から3割のラットに抗体反応が見られた。免疫システムが反応したせいと思われるという。甲状腺に嚢腫が発生したり前立腺に変化が見られたラットもいたという。
また、牛にこのホルモン剤を投与すると、「インスリン様成長因子IGF−1」というホルモンも増加する。人間の体内にも存在し、「細胞分裂を引き起こす強力な成長ホルモン」であり、かつ牛のIGF−1と人間のIGF−1は科学的に同等。これが多すぎると癌を誘発するという。
肺ガン・結腸ガン・前立腺ガン・閉経前乳ガンなどの危険性増加と、循環IGF−1濃度には「顕著な関連が見られ」、血漿IGF−1濃度を下げるのは(ガン対策のために)「試す価値のある戦略かもしれない」という研究結果もある。
rbGHを投与された牛の牛乳はこのホルモンの濃度が高くなり(FDAも認めていた)、かつ牛乳を販売する際の低温殺菌では破壊されず、しかも胃や腸でも破壊されず「完全なまま吸収される」。rbGH牛乳を許可しているのは、上記の研究結果に従えば国民のガンのリスクを高めることになる。
アメリカでは1980年代初めから、ホルモンを投与された牛は最低5日間、搾乳した牛乳の販売禁止、食肉処理する場合は15日間禁止、という規制が設けられた。この規制はモンサントのrbGH販売を妨げることになる。rbGHは二週間に1回投与するものなので、1ヶ月のうち10日間は搾乳した牛乳は捨てることになる。モンサントがFDAに提供したデータ(リークされた)によると、rbGHを投与された牛のなかには血中ホルモン濃度が通常の約1000倍に達した牛もいたという。そのためモンサントはFDAにこの禁止期間の撤廃を要求し、恥知らずなことにFDAもこれに応じた。
FDAもさすがにこのまま放置では拙いと感じたのか、rbGHを投与された牛の牛乳の全bGH(天然ウシ成長ホルモンbGH+合成ホルモンrbGH)検査を行い、投与されていない牛は3.3[ng/ml]、投与された牛は4.2[ng/ml]というデータをサイエンス誌に発表した。
大して変わりゃしねえだろ、と宣伝したかったようだが・・・実はこの実験に使われたrbGHはモンサント製ではなくアメリカン・サイアナミッド社のものだった。しかも同社は投与の例の一つとして一日10.6[mg]を示しており、実験もそれに従ったが、モンサントのrbGHは二週間ごとに500[mg] を与えることになっている。一日あたりでは約3.57倍だが、一回の投与量は約47倍だ。モンサントの推奨どおりに投与すれば、上記のようなホルモン濃度となるだろう。
またFDAがサイエンス誌に発表した論文は、低温殺菌によってbGHの9割が破壊されたという実験結果を引用し、人体に影響を与えるものではない・・・と主張している。低温殺菌とは通常15秒間72℃で加熱するものだが、引用された実験はこの温度で30分間加熱したという。ホットミルクじゃんかよ。ジャーナリストは「そんな長時間牛乳を加熱したら栄養価はなくなってしまう」「七面鳥を普通に焼くよりも120倍の時間をかけて」焼くようなものだ、と批判する。黒焦げになっちまうな。
このようにモンサントとFDAによる安全性の主張は恣意的で非科学的であり、FDAは法を捻じ曲げてモンサント製rbGHを認可した。FDAもカナダ保健省も研究者の意見を押しつぶし、排除した。
FDAの獣医師リチャード・バロウズ氏は、搾乳の試験は最低2年間行うことや、毒物学と免疫学に基づく検査を要求していたが、「承認プロセスを遅らせているから」と言い渡されて解雇された。ちなみにモンサント製rbGHの正式販売許可が出たのは1994年2月だったが、バロウズ氏解雇の4年前の1985年、既にFDAはrbGHの人体への安全性を宣言していた。
カナダ保健省の研究者だったマーガレット・ヘイドン博士によると、モンサントの役員は同省の研究者へ100万〜200万ドルを供与すると、もちかけたという。これは賄賂だよな?しかも許し難い事件も起こった。彼のオフィスは荒らされ、鍵をかけていたキャビネットからモンサントのデータを批判する資料が盗まれたという。裏社会まで使って黙らせようとしたんだな。
同省の研究者シヴ・ショプラ氏は、ある上司に「二度と人の噂にも上らぬ、ようにしてやるぞ」と脅された。そのうちrbGH関連の資料は全て「ある上級官僚」が一人で管理するようになり、誰も閲覧できなくなった。このようなアクセス制限は全く異例だった。同省の食糧管理局・ジョージ・パターソン局長は、rbGHの危険性を告発したショプラ氏を呼び出し、机をどんどん叩いて恫喝したという。
しかし1997年、ショプラ氏らによるrbGH危険性の告発は全世界に知れ渡り、ニュージーランド、オーストラリア、日本などがrbGHの輸入を禁止した。カナダ保健省も結局、国内の批判の高まりによって認可しなかった。余談だが1999年、停職処分を受けたショプラ氏を始めとする研究者が、自分たちが上司からどのように脅され嫌がらせを受け昇進を妨げられたか上院委員会に告発したが、ショプラ氏の直属上司は異動させられ、上院委員会の呼び出しに応じることはなかった。
アメリカでは現在でもrbGHが販売されているという。メイン州ポートランドのオークハスト・デアリー社は酪農家にrbGHを使用していないと署名させていた。同社製品のラベルには「人工成長ホルモン不使用」という表示がついた。
恥知らずなことに2003年モンサントはメイン州に「品質商標認識プログラム」の中止を要求し、拒否されると今度はあろうことか同年、オークハスト・デアリー社に対し「消費者を欺いている」「自社の牛乳が安全だと宣伝している」として訴訟を起した。消費者を欺いてるのはどっちだ?
この裁判がどうなったか分からんが、現在ではアメリカの「ほとんどすべてのメーカー」の牛乳パッケージに“rBST-FREE”の表示があるという(参考)。モンサントも撤退したらしいね。
そもそもアメリカの酪農家にとって無理矢理に生産量を高めるrbGHは必要不可欠なものだったとは言えない。1986年から翌年にかけてアメリカ政府は酪農家に補償金を与えて酪農を休止させたり150万頭の乳牛を処分させていた。牛乳の価格低下を防ぐためである。得体の知れないホルモンなんぞ注射して搾乳量を増やす意味が失われる。
ホワイトハウスはrbGHを認可した理由について、「バイオテクノロジーに於けるアメリカのリーダーシップはBST採用によって高められ、逆に政府が横槍を入れれば失われる」と説明したという。まるで大飯原発を再稼動させた野田政権のようだな。原発も遺伝子組み換え技術も、経済成長や生産向上が理由ではなく、単に政治家と企業の利権のためにあるんだな。
*注: 以下も全て「偽りの種子」から引用。イギリスのローウェット研究所に勤めるアーパット・プシュタイ氏、妻のスーザン・プシュタイ氏らの研究グループは、他の研究所や大学と共同し、1995年からスコットランド農業環境漁業省の助成金を受け、GMOの試験モデルを作り安全性を確かめる作業を行っていた。
プシュタイ氏が携わったのはBtジャガイモの開発である。ジャガイモのDNAを操作し、「レクチン」という天然の殺虫剤(マツユキソウに含まれる)を生成しようとしたのだ。こうして生成するレクチンを通常の800倍にしてラットに与えても特に目立った影響は見られなかった。人間にも無害な物質である。
しかしBtジャガイモを栽培しラットに与える実験を続けるうち、異変が起こった。普通のジャガイモと栄養価が異なるだけでなく、Btジャガイモを与えられたラットの白血球の反応は鈍く感染症にかかりやすくなっていた。しかも脳、肝臓、精巣が小さく発育も劣っていた。しかも胃や腸に「著しい構造の変化と細胞の増殖」が起こった。ガンの危険性が考えられる。
ところが1998年4月、同研究所・所長のフィリップ・ジェームズ氏がプシュタイ氏に、バイオテクノロジー企業が提出した大量の資料を渡した。欧州各国首脳がブリュッセルに集まり遺伝子組み換え食品規制の採決を行うので、科学的な根拠が必要なのだという。これら大量の資料を2時間半以内に評価し「大臣」に報告せよ、という無茶な要求だった。しかもこれらの資料は、データも証拠も揃わず、研究計画も不十分な「お粗末」さだったのである。
プシュタイ氏は電話で「大臣」にありのままを伝え、認可するべきではないと述べた。しかし「大臣」は信じられないようなことを述べた。「なぜそんなことを言うんだね。ジェームス所長はとっくに認可を出しているんだよ」
実は2年前に認可が行われていた。プシュタイ氏だけでなくイギリスの全国民はこの事実を知らなかった。知らずにトマトや大豆やトウモロコシなどの遺伝子組み換え食品を食べさせられていたのだ。ジェームズ氏がプシュタイ氏に求めたのは、認可に正当性を与えるための「科学的な言質」だけだった。それを「大臣」に喋らせたいだけだった。
こうしてプシュタイ氏の内面でGMOとその行政への疑念が膨らむ中で、報道番組「ワールド・イン・アクション」のインタビューを受けた。2時間あまりのインタビューは150秒に編集されたが1998年8月10日(月曜)に放映された。プシュタイ氏は、
(自分は食べるのかと質問され)「遺伝子組み換えジャガイモ実験結果が出るまで、私自身は絶対に食べない」
「(研究者として)この分野の最前線で仕事をしていると、国民をモルモットにするのは非常にフェアでないと感じる。モルモットは研究所の中で探すべきだ」
と述べた。放送の前日から(テレビ局が予告を流したために)プシュタイ氏はマスコミから質問攻めにあった。
この放送は大きな反響を呼び、ジェームズ氏はマスコミ対策に奔走した。プシュタイ氏によれば「これで自分が世界的に有名になれると考えたんでしょう」という。当時のイギリス首相トニー・ブレアはジェームズ氏に食品の規制を行う新たな機関の構想を立てるように要請されていた。順当に行けば自分が新機関の局長になるはずだった。プシュタイ氏の研究を自分の手柄にしようとしたんだろうな。
しかしこの俗物によるマスコミへの説明には大きな誤りがあった。ラットに疾患をもたらしたBtジャガイモは、ラットにも人間にも無害な天然のレクチン「GNA」を生成したが、彼は愚かなことに「コンカナバリンA」というレクチンが生成された、と説明したのである。「コンカナバリンA」とは「よく知られる免疫抑制剤」で、哺乳類に対し毒性がある。こんな毒物を生成するジャガイモをラットに食わせて、ラットに疾患が見られたからって、それがどうした、当たり前のことじゃねえか・・・と新聞は書きたてた。
プシュタイ氏は「この馬鹿げた語情報を流すのを」やめさせようとして(既に研究所の電話回線は切り換えられ、プシュタイ氏が直接マスコミに説明する手段は無くなっていた)、要約した文書を作成しジェームズ氏に説明した。ジェームズ氏は自分の間違いに気付き落胆していた。これが1998年8月11日(火曜)だった。
しかし翌日プシュタイ氏は、訂正のプレスリリースが行われると期待して出勤したが、研究所の空気は一変していた。「ジェームズがあんなふうに話すのをそれまで聞いたこともなかった」。プシュタイ氏は突然停職を言い渡された。彼の研究グループはコンピューターへのアクセスが禁止され、データは全て没収され、研究は即座に中止となり、グループは解散となった。
プシュタイ氏は自分の上司が一夜で態度を豹変させた原因を、次のように推測する。彼がプシュタイ氏の研究を褒め称えたことは、即ち既に販売されているGMOの試験方法を否定することになった。そのため政府から横槍が入ったのではないか、と。彼を新機関の局長に推す流れも吹っ飛んだのではないか、と。
プシュタイ氏によると「事実であるか証明はできないが」、火曜日の深夜11時台に首相官邸から研究所に2本の電話が入ったらしい。遺伝子組み換え食品を推進するブレアからの牽制だったのだろうか。
イギリスのメディアによると、当時のアメリカ大統領ビル・クリントンはブレアに対し、遺伝子組み換え食品の支持率を上げるように要請されていたという。
プシュタイ氏は停職と同時に、研究内容について一切口外するなという箝口令を言い渡された。彼と妻は、研究所とそのような契約があったのだ。これを無視すれば賠償を求められる。プシュタイ夫妻には法廷で争うような資産はなかった。
そしてローウェット研究所はプシュタイ氏の研究を否定するだけでなく、プシュタイ氏のことをボケ老人などと侮辱した。「ロンドン・タイムズ」誌は「ジャガイモに関する研究者の報告は間違いであったと研究所が認めた」と報じた。「スコティッシュ・デイリー・レコード・アンド・サンデー・メール」は「博士の奇怪な誤り」などと見出しに載せた。
しかしGMOについての論争が収まらないため、同年11月イギリス議会はジェームズ氏に対し、プシュタイ氏への反証を提出すること、上院議会で証言することを求めた。そして監査が行われた場合プシュタイ氏は「被疑者」となるため、監査結果に答える必要がある。そのためローウェット研究所はプシュタイ氏に「渋々、全てではなかったが没収したデータ」を送付した。
プシュタイ氏は自分のかつての研究結果を第三者による調査委員会に報告。これを受けて調査委員会は1999年2月に、「Btジャガイモを与えたラットは、与えていないラットと比べて、臓器の重量やリンパ球の免疫反応減少率において顕著な差異を示している」「免疫機能に明らかな影響が見られ、これだけでもプシュタイ博士の主張は正しいと証明できる」と公表。さらに調査委員会はGMOの一時販売停止を要求した。
しかも別の報告書ではモンサント社がローウェット研究所に14万ポンドを寄付していたことが暴露された。下院科学技術委員会はプシュタイ氏に証拠を提示させるため彼を召集することを決定。これによってローウェット研究所とプシュタイ氏の契約は無効になり、箝口令も無効になった。
メディア論争は激しくなり、国民世論もGMO拒否へと傾いた。同年4月にはイギリスの食品最大手ユニリーバ社が、ヨーロッパで売られている自社製品から遺伝子組み換え原料を排除すると発表。スーパーマーケットの大手チェーンやネスレ、マクドナルドなど著名企業がこれに続き、最終的に主要な小売店のなかでGMOを扱う企業はなくなってしまった。
しかしバイオ企業と癒着したイギリス政府や関連団体による反論・攻撃は続いた。プシュタイ氏や彼を支持する同僚の自宅や、ローウェット研究所で以前プシュタイ氏が使っていた研究室に強盗が入り、多くの資料が盗難される事件も起こった。プシュタイ氏の研究論文を発表しようとした「ランセット」誌は、王立協会などから激しい圧力がかかった。編集長のリチャード・ホートン博士は、電話で「不道徳だ」「でたらめだと分かっていていながら発表するつもりか」「編集者としての立場がどうなるかしらねえぞ」などと脅迫されたという。
ホートン博士はこの脅迫電話をかけてきた人物の名を伏せたが、「ガーディアン」誌の調査によるとこの男は、王立協会の前副会長兼生物学事務局長であり医学科学院の会長であるピーター・ラックマンという男だという。このチンピラは巨大製薬会社の科学推進委員会や、クローン技術を開発する企業の顧問などを務めていたそうな。
同じ科学に携わる立場でありながら、プシュタイ氏のように真実のみに忠実な研究者とは全く別物の、資本家の手先だな。だからこそ出世したんだろう。いわゆる御用学者は出世できるが、水俣病を追及した医師や、原発の危険性を訴える研究者が冷遇され続けるのと同じ構造だ。
プシュタイ氏は、ラットに疾患が現れたときも解決可能だと思い、停職処分を受けたときもこの技術の可能性を信じていた。彼は「遺伝子操作技術の徹底した信奉者」だった。しかし事件が明らかになるにつれ、「金と政治と名声がからんでくると、科学的研究は非科学的なビジネスに成り下がってしまう」ことに気付いた。彼は「完璧な科学的調査のために献身」する科学者であり、「自分以外の人々もみなそうであろうと」思っていたが、実際のところ彼のように真実のみを語る科学者は少数派だったのだ。
「期せずして有名になった」プシュタイ氏のもとには多くの研究者から、遺伝子組み換え食品の危険性を訴える事実が送られてくるが、この「偽りの種子」に掲載されたものもあれば、出版の段階ではまだ伏せたままのものもあるという。
2012年11月03日
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【モンサントの不自然な食べ物】是非観てほしい!(1)より
Excerpt: 【モンサントの不自然な食べ物】是非観てほしい!(1) 不条理日記様ブログより 【モンサントの不自然な食べ物】是非観てほしい!(1)を読ませました。 モンサントの不自然な食べ物1
Weblog: わたしんちのトンデモ医学論と雑多な話
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