「モンサントの不自然な食べ物」の感想、続き。
(注:この投稿にはネタバレがあります!)
モンサントの種子が使われているのは本国アメリカやカナダだけではない。同社はインド企業の「マヒコ」を買収し、同国での「Bt綿」販売を開始した。
ラウンドアップ耐性大豆は枯葉剤に強い大豆だが、Bt綿は殺虫毒素生成作物である。Btとは「バチルス・チューリンゲンシス」という菌のことで、蛾や蝶の幼虫の消化管を破壊する殺虫蛋白質を生成する。この菌の殺虫成分を作り出す遺伝子を組み込まれたのがBt綿で、自ら殺虫成分を生成するため害虫対策が不要になるという。
しかし病害が発生する場合もあり、農薬の使用量も減らず、農民を借金苦に追い込んだ。しかも在来種でも同様の病害が発生しているという。農民と共に闘う研究者は、挿入遺伝子の相互作用ではないかと疑う。
農村で村人らが楽器を鳴らしながら行進していくが、パレードではなくモンサントのBt綿を育てていたが借金苦で自殺した25歳の農民の葬儀だった。Bt綿を栽培している地域の農民の自殺率は突出して高いという。研究者の「来年はBt綿栽培をやめたいか?」という問いに、スクリーンに映るほとんどの農民が手を挙げていた。しかしこの地方の市場では、在来種の4倍の値段がするこのBt綿種子しか手に入らない(取材の直後発生した暴動で、この研究者も逮捕されたという)。
■ パラグアイでもラウンドアップ耐性大豆が栽培されている(実は認可より先に栽培が始まっていて、政府は認可せざるを得なかった。何者かの工作ではないかと疑われている)。
広大な農地をトラクターがラウンドアップを撒布しているが、運転する者は防護服もマスクも一切身に付けてない。雨が降ればラウンドアップが流れ出し、他の畑も汚染する。ラウンドアップが撒布されている畑の間の道を通ってトルティーヤを売りにいく子供は、皮膚に炎症を起し食欲も減退している。アヒルやガチョウが突然死んだこともある。この村ではモンサントの戦略を悟り立ち上がった農民が、仲間たちを集めてモンサント除草剤の危険性を説明していた。
かつてこの村の農民は多種類の作物を育てていたが、今や見渡すかぎりラウンドアップ耐性大豆の畑だ。たしかに工業生産的に単一品種を大量に育てたほうが収益の効率は上がるだろう。これはどこの国に行っても同じだ。米なら米を、大根なら大根に絞って、大量に栽培した方が利益が出るに決まっている。
しかし、以前朝日新聞で読んだが(切り抜きを失くしたので日付も分からず)、有機農法で多品種の作物を育てることに喜びを感じている農家を取材していた。利益を追求する手段としては弱いかもしれないが、多品種なら植える時期も収穫の時期も、育て方も異なる。単一品種だけを育てるより楽しいに決まっている。工場労働だって毎日同じ作業ばかりしていれば飽きるだろ?
利益ばかりを追い求める農業は農民からこの楽しみを奪ってしまった。しかも小規模な農家がラウンドアップ耐性大豆を育てる大農場に勝てるわけがなく、農地を手放し都市部のスラムに移り住む例も多いという。現在パラグアイでは農地の4分の3を国外資本が所有しているという。
話は変わるが、ハイチはアメリカの圧力によって米の関税を引き下げたところ、アメリカ産の米が大量に市場に出回り、国内の米作は崩壊してしまったという(参考)。ハイチの貧しい農民が育てる米が、アメリカからの輸入米に価格で勝てないのだ。農作物の関税を下げるとはこういうことだ。価格は安いが毒物まみれの遺伝子組み換え食品を食わされ、国内の農業は壊滅するのだ。日本もTPP参加した途端に農家は壊滅し、「ラウンドアップ耐性コシヒカリ」など食わせられるんだ。いやTPPに参加しなくても政府が外圧に屈し市場に出回るかもね。とっくの昔に国内でモンサントその他が遺伝子組み換え稲を完成させ、あとは厚生労働省に申請するだけらしいぜ(参考)。
■ メキシコでは遺伝子組み換え作物の栽培は許可されていない。しかし北米自由貿易協定を締結したため、アメリカ産の遺伝子組み換えトウモロコシが輸入されるようになった。国産トウモロコシの約半分の価格だという。パラグアイやハイチと同様、メキシコの貧しい農民が昔ながらの方法で育てるトウモロコシも、工業的な大量生産にはコストで劣る。メキシコの人々は(我々日本人の米に対する思いと同様に)国産のトウモロコシに誇りを抱いていると思うが、消費者は安い方を選んでしまう。「TPPに参加しても外国米が売れるわけない」とほざいてる輩は、自分でスーパーで買い物したことないようなお殿様かもね。
そして大変な事態が発生した。メキシコ固有品種のトウモロコシを調査したところ、モンサントの遺伝子組み換えトウモロコシの遺伝子が混ざっているものが発見された。つまり知らぬうちに交雑してしまったのだ。メキシコは数百種類ものトウモロコシの原産地であり、古来人々の糧となっている。その遺伝子が、アメリカ帝国主義のバイオテロ企業によって汚されてしまったのだ。栽培を許可しないメキシコに対する、「モンサントの奥の手」だという疑念もある。
この映画のPR動画にも出てくるが、研究によると在来種と遺伝子組み換えされた花を交雑させた場合、化け物のような花が誕生することもあるという。トウモロコシは風で受粉するので非常に厄介だ。地元の活動家は村人たちに、妙な形のトウモロコシを見つけたら直ちにオシベを取り除けと指導する。仮にメキシコ政府が遺伝子組み換えトウモロコシの輸入を直ちに禁止したとしても、遺伝子汚染は永遠に続くのではないか?
人類は、物質を構成する最小単位である原子を分裂させることで莫大なエネルギーを発生させる技術を身につけた。生物を構成する根源である細胞の中身を操作することで、農業の生産性を向上させる技術を身につけた。しかしその結果、放射性物質と汚染された遺伝子を全地球に撒き散らし、永遠に苦しむことになってしまった。決して手をつけてはならないものに手をつけてしまったのだ。
ちなみにこの事態を発見した学者は有名な技術誌「ネイチャー」で発表したが、それと同時に身元不明の二人の人物が世界中の科学者へ向けて「ネイチャーに馬鹿げた記事が載るらしい」というメールを送信した。しかしこれらのメールはモンサント社と契約しているPR会社からの発信だった。発表した学者は遺伝子組み換え技術を支持する勢力から凄まじい攻撃を受けたという。(*注)
このようにモンサントは遺伝子組み換え種子と除草剤を売りさばくために手段を選ばない。そしてモンサントから政治資金と天下り先を提供されているアメリカの政治家と、アメリカに言いなりの各国政府は、消費者の健康など見向きもしない。異を唱える研究者は裏社会も使って黙らせようとする。こういう恐ろしい構造がよく分かる映画だ。アップリンクでいつまで上映するのか知らないが、全国で上映が企画されているので是非見てほしい。
■ もし日本がTPPに参加すれば安い輸入農作物に圧迫され国内農業は壊滅し、同時にアメリカのGMOが怒涛のように押し寄せる。TPPに参加しなくても、オスプレイ配備を容認し原発政策への内政干渉を受け入れるような政府だから、そのうちGMO輸入も栽培も受け入れてしまうのではないか?そうなれば我々の健康は長期に渡って蝕まれていく。
TPPもGMOも断固拒否しなくてはならない。国民の安全よりもアメリカ企業の利益を優先する今の政府を打倒しなくてはならない。そしてモンサントを日本から追い出すだけでなく、この環境テロ企業を打倒するまで世界で連帯しなくてはならない。
それにしてもモンサントが引きこしている問題は、モンサントの世界戦略だけに見られる問題ではないと思う。企業が政治家・行政と癒着し、司法さえも手なずける。経済優先の名のもとに労働者は搾取され、環境が破壊され、無関係な人々の命が奪われる。よくある構図だ。
アメリカの銃規制が進まないどころか逆行しているのは、議員の当落を左右する全米ライフル協会の存在が大きいだろう。同国政府がオスプレイ配備を急ぐのは、オスプレイ開発に関わった数千の企業を票田としているからだろう。日本の公共事業や原発も同じだ。以前坂本龍一氏が「報道ステーション」に出演したとき、オスプレイを巡るアメリカの状況を「まるで日本の原発問題のようだ」と語っていたが、全く同感である。チッソ水俣工場が多くの人々の命を奪いながらメチル水銀を垂れ流し操業を続けたのも同じだ。
政治家や大企業は潤うだろうが、圧倒的多数の下請孫請け労働者は搾取され使い捨てにされる。一部の層だけに利益がもたらされるだけだ。この構図がある限り世の中は変わらない。
■ しかし別の面からも、これはモンサントだけの問題ではないと思う。
モンサントのように農業と食の安全を脅かし、環境を破壊しながら大量生産を続けるのはモンサントだけではない。遺伝子組み換え技術を開発している企業はモンサント社だけではない。農薬はラウンドアップだけではない。
近代の農業が化学肥料と農薬に頼るのは常識だ。小規模な農家の経営を圧迫し廃業に追い込むのは、ラウンドアップ耐性大豆を栽培する大規模農場だけではない。自国の農業に打撃を与える輸入品はGMOだけではない。環境を破壊しているのはモンサントだけではない。
各国政府やモンサントのような大企業が目指しているものは、農業・畜産業の大規模化と大量生産であり、いわば工業化だ。大豆なら大豆、トウモロコシならトウモロコシの単一品種に絞らせ、生産性を向上させる。自動車や家電製品を大量生産するのと同じ感覚だ。
そして大量生産された食糧、工業製品を、大量消費・大量廃棄させようとする。そのために世界中で同じサービスが行えるように仕向けていく。飲食業や小売業の大規模化が進み、小規模な店舗は消え、地域性が失われる。
世界中どこに行っても聞いた事のあるようなファストフード店やコンビニや大規模ショッピングセンターが並び、自販機でペットボトルの飲料を変える。どこに行っても同じサービスを受けられる。同じ物が食える。地球を真っ平らにして均等にならし、どこを見ても同じ形にしようとしている。
たしかに、世界中どこに行ってもセブンイレブンやマクドナルドがあれば便利だよな。しかしこれほど味気ないものはないぜ。土地に行ったら土地のもの食いたいだろ。そのうち個人経営の飲食店がなくなっちまうぞ。そもそも大企業にとって消費者一人一人の好みなんか問題ではない。最も多くの消費者をひきつけるというか、最も多くの消費者を妥協させられる形態を探し、押し付けるのだ。
しかし俺たち「(環境破壊)先進国」の消費者は、権力者や大企業に導かれるままにこういう傾向を受け入れてきた。何でも売っているから、中小の小売店に行かずに大規模小売店に車で買い物に行く。いつでも営業しているから、わざわざ値段の高いコンビニで買い物をする。昼飯は牛丼屋のローテーションだ。ペットボトルの飲料は手放せない。飲み会はいつも大手チェーンの居酒屋だ。刺身も焼き鳥もなんでもあるからな。
このような消費者の要求に合わせるため、飲食業や小売業はいつでも品揃えを充実させておく。コンビニに行って弁当もオニギリも売り切れだったら、もうそのコンビニには行かねえだろ。こうして型遅れの売れ残り製品を廃棄するように、売れ残りの食品を大量に廃棄していく。もちろん廃棄ロスは計算に入っているだろう。農業の大規模化・工業化の目的は、単純に生産高を向上させるためではなく、大量消費・大量廃棄の産業構造を維持し拡大するためにあると言える。食品を捨てるためにやっているようなもんだ。
こういう構造のなかで企業は競争に勝つために、品質よりも大量生産とコスト低減を重視するだろう。国産品よりも安価な輸入品を求めるだろう。GMOさえも受け入れる理由が成り立つ。そして非正規雇用労働者や「(環境破壊)途上国」の農民を搾取しながら大量生産を続けることになる。こうして「途上国」の市民は「先進国」の経済のために犠牲になる。「先進国」の消費者は徐々に健康を蝕まれる。世界中の農地が農薬と化学肥料で荒廃し、地球環境は破壊されていく。こういう馬鹿げた文明を受け入れているのは我々消費者だ。
何度も言うが、かつて水俣病被害者の緒方正人さんは「チッソはもう一人の自分」だと喝破した。同様にモンサントも「もう一人の自分」ではないだろうか。『“豊かさ”に駆り立てられ』た我々は、被害者でもあり加害者でもある。こういう構造に身を委ねている愚かさをことをいいかげん悟り、立ち止まらなければならない。
■ ところで、「モンサント〜」を観た同じ渋谷アップリンクで「マヤ 天の心、地の心」 を観た。
スペインの侵略によって滅ぼされたマヤ文明の末裔たちが、新自由主義からの侵略と闘う物語である。マヤ人たちはかつてグアテマラ内戦で20万人以上が虐殺された。メキシコのラカンドン密林は鉱山開発の伐採のため消滅の危機に瀕し、マヤ人たちの生活を脅かしている。またマヤ人たちの有史以前からの主食であるトウモロコシはモンサントの遺伝子組み換えトウモロコシの輸入によって、価格が暴落している。貧しい農民たちが育てるトウモロコシよりも、工業化による大量生産品のほうが低価格なのだ!
グアテマラ・サンマルコス村の金鉱は外国企業が買収し、他国では禁止されているシアン化合物を使った精製が行われ、 既に住民に健康被害が出ている。若い活動家たちは住民たちを集めて「団結して闘おう」と呼びかけていた。マスクで顔半分を覆ったゲリラ戦士たちは断固として闘う決意を表していた・・・。
マヤの神話によると人間はトウモロコシから作られたというが、白人たちは「人間は、動物や物体と別物だと考えている」。だから企業の利益のために躊躇なく森林を伐採し動植物を死滅させ、生命の根源たる遺伝子に手を加えるのだろうか?(それは日本人も同じだが)
「先進国」企業の利益のために「途上国」の貧しい人々が犠牲になる構図は世界中に見られる。原発も同じだ。この映画も是非観てほしい。
*注: これも「偽りの種子」(原題“Seeds Of Deception”、Jeffrey M.smith/著、野村有美子・丸田素子/訳、家の光協会)より引用。
メキシコには数百ものトウモロコシ固有品種が存在する。1998年メキシコ政府は、GMO(Genetically Modified Organism)を国内で栽培することを禁じた。メキシコ原産のトウモロコシが、GMOトウモロコシの花粉によって遺伝子汚染されることを防ぐための当然の処置である。しかし上述のように北米自由貿易協定によってアメリカからトウモロコシ(約3割がGMO)が輸入されていた。しかも(違法だが)作付けも行われていた。
カリフォルニア大学バークリー校の微生物学者イグナシオ・チャペラ氏と博士課程の学生ディヴィッド・クィスト氏が、メキシコシティから遠く離れたオアハカという山間部で、固有品種のトウモロコシの遺伝子を調査したところ、調査対象のうち6%が遺伝子組み換えトウモロコシに汚染されていた!このような山間部で汚染が発見されたということは、相当な規模で広がっていると考えられるという。
しかも汚染されたトウモロコシからは「カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)プロモーター」が断片になって8個発見された・・・。
遺伝情報が発現する際、「RNA(リボ核酸)ポリメラーゼ」という酵素(触媒として機能する)が、DNA(デオキシリボ核酸)の塩基配列を転写して伝令RNAを合成する。この酵素は、転写領域の少し手前の塩基配列でDNAに結合してから転写領域を移動していく。この酵素結合領域は「プロモーター」と呼ばれる。
たとえば殺虫成分を生成する遺伝子を組み込むなら、それを発現させるためのプロモーターを一緒に組み込む必要がある。「カリフラワーモザイクウイルス」とは、カリフラワーにモザイク病を起すウイルスだが、これがプロモーターとしてよく使われているという。
CaMVプロモーターが、何らかの原因で「ホットスポット」(遺伝子内の突然変異などを起しやすい場所)を作り出し、断片化して遺伝子内にデタラメに撒き散らされたのではないか、という・・・。正直なところ書き写しているだけで理解できていないが、組み換えを行われた遺伝子は自分の複製を正確に作ることはできず、それどころか滅茶苦茶に壊していく、ということだろうか。
これが突発的な異常ではなく遺伝子組み換えによる必然だと証明されれば、「植物種に対するインパクトは計り知れないもの」があり、「GMOは安全で正確に作られており、その効果も予測可能」という主張は覆され、「遺伝子組み換え食品の命もそこまで」だ。遺伝子組み換え技術は生産性が高く安全な食品を作り出すどころか、実際は遺伝子をランダムに壊してどんな化け物を生むかもしれないリスクが潜む、ということになるのだ。
もっともチャペラ氏もこの調査をまとめた論文の中で「CaMVプロモーター断片を突き止めた検査手順は、まだ確立されたとは言えない方法に基づいており、解釈の仕方は定まっていない」としている。ホットスポット説も立証できなかった。
この論文は権威ある技術誌「ネイチャー」誌に掲載されることになったが、チャペラ氏は事前にメキシコ政府に掲載されることを通告していた。対応の準備の時間を与えてやろうという「好意」からだった(ただしメキシコ政府には内密にしておくように頼んでいた。ネイチャー誌には、内容が事前に公表された場合、掲載を取りやめる決まりがあった)。しかしこの配慮が、彼への脅迫と嫌がらせを招くことになる。
2001年9月チャペラ氏は、メキシコ政府関係ビルの一室で、政府のバイオテクノロジー担当トップであるフェルナンド・オルティス・モナステリオ氏と向き合っていた。彼はチャペラ氏の研究がネイチャー誌に掲載されることを阻止しようと企んでいた。彼はチャペラ氏をこき下ろすとともに、その研究によってメキシコが打撃を受け、大問題になっている、「あなたのおかげで問題が起きた。このテクノロジーがわが国にやってくる日を待ち望んでいたのに、障害が現れた。それがあなただ」などとまくし立てた。
メキシコ政府はGMOの栽培を禁止していたが、政府内にはバイオテクノロジーの普及を目指し遺伝子汚染への懸念を沈静化しようとする筋もいた。モナステリオ氏はそういう人物だった。政府の中にも温度差があるのは珍しくないよな。
暗い廊下を歩いて入ったこの部屋の出入り口は、モナステリオ氏の部下によって塞がれていた。ビルの周囲はゴミ捨て場だった。彼はチャペラ氏に心理的な圧力を加えようとしていた。チャペラ氏は「まさか銃を出して私を打つつもりじゃないでしょうね」と冗談を言ってみたが、相手は態度を変えず、自分の言葉にゾッとしてしまった。
モナステリオ氏は強行に論文発表の撤回を迫ったが、チャペラ氏の意志は固い。そこで、モンサント社の科学者を交えて共同研究を行い、遺伝子汚染の発見は誤りだったとネイチャー誌に発表しよう、そうすりゃ「あなたの最初の研究結果はどのみちネイチャーに載りますよ」・・・などと馬鹿げた提案をした。
チャペラ氏はこれも拒否し、なおかつ「事前に内容が公表されればネイチャー誌は掲載を取りやめるだろうが、そんなことでくじけて論文発表をあきらめると思ったら大間違いだ」と言い放った。
仕方なくモナステリオ氏はチャペラ氏を解放したが、何を考えたかチャペラ氏を自分の自家用車に乗せた。車内では娘さんはどこの学校に行っているのかと問い、チャペラ氏が車を降りた際に「これであなたのお子さんの通う学校が分かった」などと呟いたという。「あの言葉にはものすごいショックを受けました。しばらくはショック状態から立ち直れなかったほどです」。政府の高官がこのような卑劣な脅迫を行ったのだ。
その翌日モナステリオ氏は環境保護団体などを集めてミーティングを行い、チャペラ氏らの研究内容を伝えたため、この情報はメディアに公開された。しかしネイチャー誌は掲載予定を変更しなかった。発行日の数日前にはメキシコ農務大臣補佐官ビクトール・ビラロボス氏からチャペラ氏へ抗議のFAXが届いたが、その語調はモナステリオ氏が掲載をやめるよう迫ったときとそっくりで、「あの種の研究を行う資格があるのは政府だけだ」「農業および経済分野における損害の全責任はチャペラ氏にある」などと記されていた。
チャペラ氏らの論文は予定通り「ネイチャー」誌2001年11月29日号に掲載された。しかし上述のようにモンサントの工作によって、「アグバイオワールド」(バイオテクノロジー擁護団体)のニュースレター(メーリングリストか?)にこの論文を非難する二通のメールが送信され、これを受け取った世界中の多くの科学者がチャペラ氏らの研究を非難する署名を行った(ちなみにこの事件より前からモンサントはこうした工作を行っていたという。「グリーンピースは自分の利益のためにGMOへの恐怖を煽っている」などというメールのIPアドレスからドメイン名を割り出したところ、モンサントからの発信だったという、お粗末な手口もあった)。
これらの怪メールは、チャペラ氏らの研究結果の二つの結論を両方とも非難していた。一つは固有品種のトウモロコシの遺伝子を汚染しているという件、もう一つは遺伝情報を発現させる「プロモーター」がバラバラになってデタラメにばらかまれている件だ。後者については上述のように論文の中でも検査手順や解釈が定まっていないとし、ホットスポット説も立証できていない。怪メールを受け取った科学者らは、十分な根拠もないのにホットスポット説を広めようとしているとして、論文の信憑性自体を疑った。俗に言えば炎上したわけだ。
こういう激しいプレッシャーのなかで、2002年4月ネイチャー誌はこの後者の部分の撤回を発表した。もちろん「プロモーター」に関する部分については十分な根拠がないというだけで、遺伝子汚染については支持を表明した。
しかし世界中のメディアは何を勘違いしたのか(というか理解力がゼロだったのか)、愚かなことにチャペラ氏らの論文は全て間違いだったと報じてしまった。「ロンドン・タイムス」誌は「遺伝子組み換えトウモロコシが固有品種を汚染したという論文には誤りがあり、掲載したネイチャー誌が過ちを認めた」と報じたという。マスコミはなぜマスゴミと言われるのかよく分かる事件だ。
それにしても、発端はモンサントによるネット工作だが、これにマスコミが追従し世論がコントロールされてしまうとは恐ろしいことだ。改めてネットというのは諸刃の剣だと感じる。貴重な情報がもたらされることもあるが、デマの流布もバッシングもネットを通じて拡大するのだ。ネットやマスコミを通じた第三者によるバッシングはいつまでもどこまでもついて回る。裏社会を使った脅しよりはるかに簡単かつ効果的かもしれない。
重大な事実を世に知らしめたにも関わらず世界中の御用学者・バイオ企業・マスゴミからバッシングの嵐を受けたチャペラ氏は、在籍するカリフォルニア大学バークリー校からも不当な扱いを受けた。テニュア(終身在職権)を与えるかどうかの決定を1年以上引き延ばされた末に、学部学科からの圧倒的な支持があるにも関わらず与えられなかった。その間、世界中からチャペラ氏を大学に残すなという手紙が舞い込んだという。
ところでネイチャー誌がチャペラ氏らの論文の部分撤回を発表してから二週間後の2002年4月18日、メキシコ政府はオアハカと隣のプエブラ州で、遺伝子組み換えトウモロコシが固有品種を汚染していると発表した。検査した区画の95%で遺伝子組み換えDNAが発見され、平均して10〜15%の植物が、ある地域では35%が汚染されていた。
担当職員は「当初の報告(?)よりはるかにひどい」「そのスピードは予想以上である。これは世界でも最悪のケースと言ってよい。なぜなら遺伝子組み換え物質による汚染が、トウモロコシという主要な穀物の原産地で起きたからだ。これは事実であり、疑いの余地はない」と語ったという。
このニュースはメキシコとヨーロッパで大きく伝えられたが、隣国のアメリカとカナダのメディアはこれを「事実上無視」した。マスゴミもネットも、ニュースによっては全然反応しないことってあるよな。当然この時期もチャペラ氏へのバッシングは続いていたはずだ。
ところでチャペラ氏らの論文の「プロモーター」に関する説に反論した科学者たちも、それを実験して確かめることはないという。チャペラ氏によると、「科学者の間には『ある種の質問をしたり、ある種の結果を出すこと』に対する事実上の禁止令」があるという。「いったい誰が反科学的なのでしょう?」
洋の東西を問わず、国策や大企業を疑うことや、それらの利益に反することはタブーとされているようだな。こんな世の中だから「100msv以下の被曝は影響ない」などとほざく詐欺師がのざばるんだ。
2012年11月13日
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