最近、キャノン、シャープ、松下、トヨタ、その他多くの企業による不正な雇用の手段が問題になっている。
企業が他社から派遣社員を受け入れて働かせる場合、定められた期間に達すれば、その派遣社員を直接雇用することを申し入れなければならない。しかし多くの企業はこの法律を無視し、表向きは他社に業務の一部を「請負」させているという体裁を取っている。
「請負」ならば直接雇用する義務はないが、実質的には社内の業務を分担させる派遣労働に他ならない。これが「偽装請負」である。しかも多くの派遣労働者は、自身がこのように不正な雇用状態にあることすら、知らないようである。
●1995年、日経連(現在の経団連)は、「新時代の日本的経営」という報告を提出した。
これは「従来の終身雇用の正社員を基幹職に絞り込み、専門・一般職は昇給、退職金、年金がなく有期雇用の非正社員にシフトする雇用改革案」だった(同誌P-36〜37)。そしてこの国の雇用状況はこの改革案通りに変貌している。総務省の統計によると、
1995年の正社員は全国で3488万人
パート・アルバイトは710万人
派遣社員・契約社員・嘱託社員などは171万人だったが、
2006年では正社員3340万人
パート・アルバイトは1121万人
派遣社員・契約社員・嘱託社員などは542万人。(同誌P-38の表より)
このように正社員が減少し、パート・アルバイトや派遣社員が増加しているのである。偽装請負で働かされている労働者は、統計上は正社員に分類されているかもしれない。
●言うまでもなくパート・アルバイトや派遣社員は、正社員と比べて著しく賃金が安い。厚生労働省の統計によると、以下のように恐るべき格差がある。
正社員・正職員の生涯賃金は2億0791万円
常用の非正社員・非正職員は1億0426万円
パート・アルバイトは4637万円(P-39の表より)
賃金が安く雇用が不安定な労働者が増加した原因は、企業が人件費を抑制しようとしてきた結果に他ならない。
「非正社員の割合が高まる理由(厚生労働省の調査)」は(複数回答)、
「新規学卒者を正社員採用するよりも即戦力の人材を確保」の40.7%を抑えて、
「労務コスト削減のため」
が80.3%でダントツである。
他にも、
「業務分担を見直し、正社員の負担を減らす必要があったため」が36.6%、
「将来の見通しが立たず正社員を採用できない」が36.6%と、経営者側の本音がうかがえる。企業は経営の安定のために不当な雇用を行うことを恥じていないのである。
●そのような企業に送り込まれる派遣労働者の待遇は劣悪で、時には詐欺的な手法で求人が行われる。
日野自動車の本社工場に派遣労働者を送り込んでいる「日研総業」は、携帯サイトの求人広告では「月収330000円以上可!」と唱っているが、実際には「残業や休日出勤を行っても24万円程度。生産調整時などは月13万円」だという。社員寮もあるが3DKの借り上げマンションに3人で住み、寮費は月3万8千円!テレビ、冷蔵庫、布団、エアコンのリース料まで給料から天引きされる(直接雇用の期間工は寮費無料、リース料など引かれない)。しかも日研総業は日野自動車に「出向」の名目で労働者を送り込んでいた。これは東京労働局から職業安定法違反の指導を受け、出向から派遣へと切り換えた。(以上P-49より)。
このような待遇に対し、日研総業の労働者は昨年10月、企業横断型労組「ガテン系連帯」を立ち上げた。(参考)
●偽装請負が問題となってから、請負労働者を受け入れていた企業が直接雇用したケースもある。
しかし請負大手の「コラボレート」の請負労働者を働かせていた松下プラズマディスプレイの場合、更新2回、2年3ヶ月が限度の期間工としての採用。(参考)
1600人の請負労働者を働かせていた日亜化学工業は、同社の総務担当によると「請負労働者も中途採用試験を受けられるようになっただけ」だという。(以上P-50)(参考)
●ところで昨年11月、政府の経済財政諮問会議に、「労働ビッグバンと再チャレンジ支援」という文書が提出され、派遣労働者を直接雇用する義務を撤廃する提案が行われた。「偽装請負」の合法化を狙うものである。(参考)
●また、偽装請負の中でも特に悪質な「個人請負」という手法がある。労働者を従業員として雇用しているのではなく、個人に対し業務の一部を請け負わせているという体裁を取る手法である。従業員でなければ残業手当も通勤手当も支払う必要はない。労災や雇用保険に加入させる必要もない。労働基準法も関係ない。そういう立場に追いやった上で正規従業員と同水準かそれ以下の報酬で酷使するのである。
●明星薬品に勤務していた39歳の営業マン(正社員)は、2005年4月、会社から「正社員解約退職願」と「委託契約社員契約書」という2通の契約書にサインすることを求められた。
そして翌月の給与は10万円(手取りで6万円弱)。
●「エーエスピー」という会社は「OMCカード」の新規会員獲得を受託しているが、アルバイト社員の中馬武士さんは採用から1年後に「業務委託契約」に切り替えられ、残業手当も有給休暇も与えられなくなった上に長時間労働を強いられるようになった。
中馬さんは昨年11月、4人の同僚と共に不払い残業の支払いや慰謝料を求める訴訟を起こした。 (参考)
明星薬品もエーエスピーも、東洋経済の取材を「いっさいお答えしかねる」と、拒絶している。
●「ヤクルトレディ」やバイク便もほとんどが個人請負だという。妻子を抱える40代のバイク便ライダーは、朝10時から夜10時まで走り回り、帰社して精算を済ませると午前様になることもしばしば、1ヶ月の収入は手取り20万円、ガソリン代やバイクのローンは自己負担で月6〜7万円。事故で働けなくなったりスピード違反で免許取り消しになれば契約解除。(以上P-54〜55)
●驚くべきことに東京ディズニーランドのダンサーも個人請負だという。アスファルトの上での激しいダンスはひざに負担がかかる。コスチュームや電飾のバッテリーなど装備が10kgを超えることもある。
クラシック、モダンダンスを学んだ39歳の男性ダンサーは両膝蓋靭帯炎症を発症し、1年の契約も切れた。手術も行ったがひざの痛みは消えず、走ることもできず、ダンスの仕事はあきらめている。
TDLを経営するオリエンタルランドは「ダンサーとは業務請負契約であり、雇用契約を締結しているわけではない」と主張したが、勤務の実態から「労働者性」が認められ、労災認定された。(P-57)
・・・たとえば、俺のようなビル管理会社に勤める人間が日常的に行っている業務―――空調設備のメンテナンス、照明器具・衛生器具の交換・修理、排水不良の修理―――などを、一つ一つ修理業者に依頼したらどういうことになるだろうか?恐らくは一つの作業だけで1万円以上の出費になることだろう。
だから建物のオーナーはビル管理会社と年間契約し、一括して設備管理業務を請け負わせている。
そしてビル管理会社は契約料を受け取り、そこから法人税や社会保険料、諸経費を支払い、負債を返済し、自社ビル建設のローンを支払い、貸しオフィスに入居している場合は家賃を支払い、営業や総務の社員に給料を払い、そして俺のような現場の作業員に給料を払っているのである。
もし俺のような人間がビル管理会社を介さず建物のオーナーと直接契約することができたら?恐らくは今の倍以上の収入を得ることができるだろう。(この業界でも下請けに丸投げすることもあるが、それでも請け負わせる契約料は人数分の作業員の給与よりはるかに高いことに違いはない)
バイク便のライダーも顧客から受け取る配達料金を全て自分の収入にすることが出来れば、相当な収入になるだろう。
もちろん労働者個人が顧客から直接報酬を得ることなど不可能である。顧客と契約している企業(事業主)に雇用されなければならない。しかし上記の企業は、労働者個人も事業主であるという決してありえないことを建前にして、労働者に対して負わなければならない責任から逃れている。社員の給料を削減し、いつでも解雇できる状態にするためのまやかしに過ぎないのである。全く噴飯ものである。
(つづく)


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◆厚生労働省の横暴か暴挙か・・
厚生労働省が派遣会社の許可制度見直しを決めました(3/26)。労働者派遣法改正案が未成立の現段階で、何の議論も無しに人材派遣会社を廃業へ追い込む暴挙というほかありません。この制度見直しが今秋から実施されたなら、派遣労働者は雇用を奪取され、今後2年以内に約200万人以上の「派遣切り」が現実のものとなります。そして、人材派遣会社のほぼ90%は廃業に追いやられるという非常事態を招くことになるのです。
◆人材派遣会社を潰すつもりか
◆廃業に追い込まれる人材派遣会社
◆人事総務部ブログ&リンク集
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本当に必要なのはどっちかってね。派遣先と派遣労働者