終戦時に中国大陸に遺棄された毒ガス兵器は、戦後60年経っても掘り起こされた際などに有毒物質が漏洩することがあり、市民に大きな被害を与えている。
日本政府は中国政府に対し、かつて遺棄した毒ガス兵器を全て処理することを約束したが、毒ガスによって被害を蒙った市民には全く見向きもしない。そのため被害者が日本政府に賠償を求める訴訟が起こされている。
(以下は傍聴記です。内容に間違っている部分があれば、ご指摘いただければ幸いです)
本日東京高裁810法廷にて、遺棄毒ガス・砲弾被害訴訟(一次訴訟)の控訴審が結審した。(第5民事部 平成15年(ネ)第5804号 損害賠償訴訟事件)
1996年提訴の一次訴訟は、2003年9月国に対し被害者や遺族13名に約2億円の損害賠償を支払うように命じる判決が下った。しかし国は控訴している。
この裁判については「化学兵器被害の解決を目指す共同行動」に詳しい経過説明がある。
本日の法廷はこれまでの控訴側・被控訴側双方の主張を確認するだけで結審、閉廷した。しかし判決日は未定である。夏淑琴さん裁判の原告団でもある南典男弁護士によると、西松建設の強制連行訴訟の最高裁判決を待っているのではないかという。
・・・法廷で小林克己裁判長は双方に、なぜか西松建設の強制連行訴訟が最高裁の弁論が再開されたことについて見解を求めた。これに対し南典男弁護士は、「この毒ガス訴訟は戦後に起きた被害についての訴訟なので、あの強制連行訴訟とは関係がない」と答えた。当然のことである。
戦時中強制連行された中国人を酷使していた西松建設を、被害者が賠償を求めた訴訟は、広島高裁で同社に賠償を命じる判決が下った。しかし同社は控訴し、先日最高裁での弁論再開が決定した。
報告集会での南弁護士の説明によると、最高裁は通常審理は行わないが、この訴訟では上告受理して審理再開するので判決が覆る危険性があるという。その審理は日中両国間の請求権放棄の問題に限られるらしい。
1972年の日中共同声明は、
「中華人民共和国政府は、日中両国国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する」
という文言がある。そのため日本政府は中国政府への戦後賠償は一切行わなかった。しかし実に馬鹿げたことだが、この宣言を日中両国間だけの関係ではなく、両国の国民個人についても賠償は放棄済みであると拡大解釈するつもりだろうか?南弁護士は朝日新聞紙上で「外交問題に直結」し、「国際的、人道的な観点」からも問題があると述べている。
しかしこの毒ガス訴訟は戦前の違法行為について賠償を求めるものではない。現在起きている問題である。戦後に起きた毒ガス被害、つまり戦後の違法行為に対する訴訟である・・・と南弁護士が力説した。現在苦しんでいる被害者を救済するために法廷が正しい判断を下すことを願う。
また明日は、チチハルの毒ガス事件(参考)が東京地裁に提訴される。
被害者である馮佳縁さん・丁樹文さんも来日し、本日は一次訴訟を傍聴し報告集会に出席した。
また、茨城県神栖市で旧日本軍の兵器から漏洩したヒ素で井戸の水が汚染され住民に被害が出た事件があったが、(参考)被害者である青塚梨奈ちゃん・琉時ちゃん・母親の美幸さん親子も傍聴と報告集会に参加した。青塚さんは補償について国・県と調停中だという。原告団の方々は二人とも元気に大きく育ったと驚いていた。
旧日本軍が遺棄した毒ガス兵器の問題は決して歴史上の話ではなく、現在の違法行為であることを認識しなくてはならない。
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