「東洋経済」(1月13日号)「雇用破壊 もう安住の職場はどこにもない!」という特集からの引用。
前回は非正社員への不当な扱いについて引用したが、正社員に対しても厳しい仕打ちが行われようとしている。「ホワイトカラー・エグゼンプション」という残業代ゼロ円法案である。
もちろん労働者の自由な時間に出社し自由な時間まで働くことで成果を上げられるのなら、企業にとっても労働者にとっても好都合であろう。しかしこれが実行されれば際限ない長時間労働が強いられる可能性がある。
総務省の「労働力調査」によると、週60時間以上働いている労働者の割合は、
20代後半で23%
30代前半で26%
40代前半で25%
と、なっている。単純計算で月曜から土曜まで、一日10時間働いていることになる。月曜から金曜まで8時間働けば40時間であるから、週20時間、1ヶ月で80時間以上の残業を行っていることになる。これは過労死認定の目安とされる労働時間(月平均80時間の残業)を超えている。
ここでもし「ホワイトカラー・エグゼンプション」が導入されれば、サービス残業を告発する法的根拠が消えてしまうのである。(以上P-42)
際限なき長時間労働の果てに待ち受ける結末について、二つの事例が挙げられている。
●「すかいらーく」系列のファミレスの店長だった中島富雄さんは、過労が招いた脳梗塞で亡くなった(享年48)。朝8時に出社し明け方に帰宅することもあった。毎日の出退勤時間は地区長宅にファックスで知らせていたが、「店長は管理監督者」とされ、残業手当は一切支給されなかった。亡くなる直前の月の残業時間は180時間。妻に「このままでは会社に殺される」とつぶやいていた。
●Jフォン(現・ソフトバンク)に勤めていた小出尭さんは、出向先の東海デジタルフォンで激務に追われ睡眠時間は毎日3〜4時間ほどだった。残業は自己申告制で、「とても全ては申告できない」と妻にこぼしていた。この時鬱病になり8年間苦しみ、さらに不慣れで負担の大きい保守センターに配置転換されてしまった。娘に「お父さんを殺してくれ」と告げた翌日、自宅で命を絶った(享年56)。遺族は会社に対し損害賠償訴訟を起こしている。(以上P-42〜43)
この二人の運命は、「ホワイトカラー・エグゼンプション」が導入された後の我々労働者の運命かもしれない。
周知の通りこの悪法は参院選への影響を恐れる自民党によって今国会には提出されない見込みだが、経団連の御手洗冨士夫会長などは今国会提出を願っている。
仮に年収800万円以上の労働者に適用することで成立しても、「いったん導入したら日本経団連が主張する400万円まで下がり続ける」と警戒されている。結局は全労働者に対して適用するのが最終目標であろう。
非正社員に対しては不法な雇用形態で搾取し、正社員に対しては残業手当を与えずに長時間労働を強いる・・・これが政財界による、「労働関連法改正」という名の労働者圧迫方針の両輪である。
さて、この特集記事では各界からの見解を掲載しているが、その中で人材派遣会社「ザ・アール」の社長・奥谷禮子氏の発言が目を引く。抜粋して引用(P-44)。
「・・・(労働関連法改正が)さらなる長時間労働、過労死を招くという反発がありますが、だいたい経営者は、過労死するまで働けなんて言いませんからね。過労死を含めて、これは自己管理だと私は思います。ボクシングの選手と一緒。ベストコンディションでどう戦うかは、全部自分で管理して挑むわけでしょう。自分でつらいなら、休みたいと自己主張すればいいのに、そんなことは言えない、とヘンな自己規制をしてしまって、周囲に促されないと休みも取れない。揚げ句、会社が悪い、上司が悪いと他人のせい。
ハッキリ言って、何でもお上に決めてもらわないとできないという、今までの風土がおかしい。たとえば、祝日もいっさいなくすべきです。24時間365日を自主的に判断して、まとめて働いたらまとめて休むというように、個別に決めていく社会に変わっていくべきだと思いますよ。同様に労働基準監督署も不要です。個別企業の労使が契約で決めていけばいいこと。『残業が多すぎる、不当だ』と思えば、労働者が訴えれば民法で済むことじゃないですか。労使間でパッと解決できるような裁判所をつくればいいわけですよ。
もちろん経営側も、代休は取らせるのが当然という風土に変えなければならない。うちの会社はやってます。だから、なんでこんなくだらないことをいちいち議論しなければいけないかと思っているわけです」
・・・あまりの暴言にあきれ果てるばかりである。脳梗塞で亡くなった中島富雄さんや自殺した小出尭さんは、早く家に帰りたくても帰れず、休みたくても休めない立場に追い込まれていたことが分からないのだろうか?
この会社では、自分が休みたい時自由に休めるのだろうか?この会社の重役や社長の側近は、自分が休みたい時に休ませてもらえるのだろうか?社員から勤務に対する不満を訴えられた時、社長は素直に聞き入れるのだろうか?恐らくは一喝して退けるだろう。
このような経営者の下で働いている社員が実に気の毒である。少なくとも「労働基準監督署は不要」などと公言するこの社長には経営者たる資格はないだろう。しかし残業代ゼロ円法案成立や派遣労働者の直接雇用義務の撤廃を望んでいる、日本経団連会長・御手洗冨士夫を始めとする多くの財界人の本音を、この社長が無意識に代弁したのかもしれない。
・・・そのような財界人が計画して導いたわけではないだろうが、近年の労働環境の悪化によって、国民生活への悪影響がデータに現れている。
★日本の「貧困率」は、
メキシコ、アメリカ、トルコ、アイルランドに次いで5位。
(OECD調べ)
★主要国の中での「時間当たり最低賃金」は、
日本は610円〜719円、
アメリカが円換算で617円。
ただしアメリカは868円程度に引き上げられる計画があり、そうなれば日本は主要国の中で最下位に転落する。(労働政策研究・研修機構「データブック国際労働比較2006」を基に編集部が作成)
また、
★1週間あたりの労働時間が50時間の労働者の割合は、
25%を超える日本が主要国の中でトップである。
(ILOの資料により連合が作成、以上P-39)
様々に手口を変えて行われている偽装請負への有効な対策が取られず、派遣労働者の直接雇用義務が撤廃され、残業代ゼロ円法案が成立すれば、この傾向は一層進むであろう。政財界は「国際競争力の強化」という名目でこの国を崩壊させようとしているのである。
(追加)
「過労死は自己管理の問題」奥谷氏発言が波紋
2007年02月07日20時38分
過労死するのは本人の自己管理の問題――。労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)の分科会委員、奥谷禮子氏(人材派遣会社社長)の週刊誌インタビューなどでの発言をめぐって、7日の衆院予算委員会で論議があった。民主党の川内博史議員が「あまりの暴言だ」と指摘。柳沢厚労相も「まったく私どもの考え方ではない」と防戦に追われた。
奥谷氏は、一定条件を満たした会社員を労働時間規制から外す「ホワイトカラー・エグゼンプション」(WE)の積極推進論者。労働時間規制をなくせば過労死が増えるとの反対論に対し、経済誌「週刊東洋経済」1月13日号で、「経営者は、過労死するまで働けなんていいません。過労死を含めて、これは自己管理だと私は思います」などと反論。また「祝日もいっさいなくすべきだ」「労働基準監督署も不要」とした。労政審分科会でも「労働者を甘やかしすぎ」などと発言している。
奥谷氏は朝日新聞の取材に対し、「発言の一部分だけをとらえた質問は遺憾だ。倒産しても、会社は社員を守ってくれない。早くから自律的な意識をもつべきで、労働者への激励のつもりで発言した」と話した。
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