手当支給命じた二審判決支持 在外被爆者訴訟で最高裁
2007年02月06日11時14分
ブラジルに移住した被爆者3人(1人は死亡)が広島県を相手に、被爆者援護法に基づく健康管理手当の未受給分計約290万円の支払いを求めた訴訟の上告審判決が6日、あった。提訴前5年以上の分について、県が地方自治法上の時効を主張して支払わなかったことの是非が争われたが、最高裁第三小法廷(藤田宙靖(とき・やす)裁判長)は、在外被爆者に手当を支払わないという国の通達は違法と述べ、「通達に従い違法な事務処理をしていた県が時効を主張するのは信義則に反し許されない」との初判断を示して県の上告を棄却した。県に請求全額の支払いを命じた二審判決が確定した。
被爆者援護法やそれに先立つ同種の法律は、手当受給の要件として、被爆者が日本に住んでいることは求めていない。ところが旧厚生省は74年の「402号通達」で、被爆者が外国に出ると手当を受けられなくなると定めた。
通達は03年に廃止されたが、それまで被爆者は手当を受けられなかった。その間の未払い分について、地方自治法上の時効(5年)を主張すること自体が許されるかが問題になった。
第三小法廷はまず、通達について、「何ら法令上の根拠がない違法な通達だった」と最高裁として初めて指摘。そのうえで、県が時効を主張することは「違法な通達を定めて受給権者の権利行使を困難にしていた行政自身が、権利不行使を理由に支払い義務を免れようとするに等しい」と厳しく批判。「本件では行政が時効を主張できる特段の事情もない」とした。
訴えていたのは、いずれもブラジル・サンパウロ州在住の細川照男さん(79)、堀岡貢さん(77)と向井昭治さん(昨年12月、79歳で死去)。
判決によると、3人は一時帰国して94〜95年に手当を受け始めたが、ブラジルに戻ったため手当を打ち切られた。3人は02年に提訴。03年に402号通達が廃止され、在外被爆者も手当を受けられるようになったのを受け、広島県は提訴時から5年さかのぼった未払い分については支給したが、5年を過ぎた97年以前の未払い分は支払わなかった。
これに対し二審・広島高裁は「402号通達は正当な法律の解釈を誤っており、国家補償的配慮から認められた被爆者の権利を否定してきた。5年の消滅時効を適用することは奪われた権利を回復する道を閉ざす」と述べて3人を逆転勝訴させ、県が上告していた。
同じ論点をめぐっては、在韓被爆者が帰国後の未払い手当の支払いを求めた訴訟で、先月、福岡高裁が「時効により請求権なし」とする原告逆転敗訴判決を言い渡すなど、下級審で判断が割れていた。
判決もう少し早ければ 在外被爆者最高裁判決
2007年02月06日11時40分
勝訴判決を聞くことなく、原告の一人は亡くなった。健康上の不安を抱えながら、日本を遠く離れた地で年老いる被爆者たち。皆が生きているうちに、援助を実現してほしい――。痛切な願いは、日本政府に届くのか。
最高裁判決を目前に控えた3日、サンパウロ市内の墓地に、在ブラジル原爆被爆者協会の森田隆会長(82)らの姿があった。真夏の日差しが照りつける中、一つの墓碑を探し当てると、大きな声を掛けた。
「あんたの同志が、みんな来てくれたぞ。裁判、勝てるんだぞ」
原告の一人で、協会副会長を務めた向井昭治さんの墓だ。昨年12月、79歳で亡くなった。
「判決がもうちょっと早かったらね」「高裁で敗れた県が、上告さえしなかったら」
ともに裁判を闘ってきた原告や遺族は、墓碑に手を合わせながら、涙ぐみ、声をつまらせた。
原告の一人、細川照男さん(79)は、生前の言葉を思い出す。「今の日本には、血の通う政治も裁判もないのかな」。そういって、表情を曇らせていた。
「日本人として、祖国相手に裁判をすることには複雑な思いがあったようです」。向井さんの妻幸子さん(77)は振り返る。それでも、対策を訴えるには、ほかの手段はなかった。
原告の一人、堀岡貢さん(77)は爆心地から2.5キロの勤務先で被爆した。ガラスの破片が刺さった傷跡が、胸や顔に今も残る。炭鉱勤めの後、61年にブラジルに移住した。養鶏や果物栽培を転々とした。生活は苦しかった。「海外の被爆者がどんなに大変だったか、日本の政治家は分かっていない」と思う。
「本当に待ちに待った。国のやることは遅すぎた。捨て置かれた人々が救われるよう、一刻も早く、各国の被爆者にこの判決の恩恵が波及しなければいけない」。森田会長は言葉に力を込めた。
・・・そして当然この↓判決も、最高裁で覆るんだろうな。
在外被爆者手当 時効適用 受給認めず 福岡高裁判決 原告が逆転敗訴
被爆者援護法に基づき健康管理手当を支給された韓国人被爆者の故・崔季〓(チェゲチョル)さん(2004年に78歳で死去、遺族が訴訟継承)が、出国を理由に支給を打ち切られたのは違法として、未払い分の手当など約960万円の支払いを国と長崎市に求めた訴訟の控訴審判決が22日、福岡高裁であった。牧弘二裁判長は、争点となった地方自治法上の請求権の時効(5年)について「原告の受給権は既に消滅している」と判断。市に請求の一部(約82万8000円)の支払いを命じた一審・長崎地裁判決を取り消し、原告全面敗訴の逆転判決を言い渡した。原告側は上告する方針。
同種の訴訟では、昨年2月の広島高裁判決が時効適用を認めておらず、高裁段階で判断が割れる結果となった。
判決理由で牧裁判長は、手当の支給を国内居住者に限定した1974年の旧厚生省局長通達(402号通達)について「日本語を話すことができない在外被爆者が異議を唱えるのは困難だった」と原告側の立場に理解を示す一方で、「(原告は)法制度上、司法的救済を求めることができたのに、しなかった」と判断。「被告側の時効適用の主張は、信義則違反、権利の乱用とはいえない」と結論づけた。
判決によると、長崎市で被爆した崔さんは、1980年5月に治療のため同市を訪れ、手当の支給を申請。1カ月分を受給後、韓国に帰国したため支給を打ち切られていた。
2005年12月の一審判決は、402号通達が「日本の法制度に理解の乏しい在外被爆者にとっては重大な障害だった」と指摘。「時効の適用を主張することは信義則上、許されない」として、支給期間を「最長3年間」と定めた当時の制度に基づき、残る2年11カ月分について市に支払いを命じた。慰謝料などの請求は棄却した。
■判決骨子
▽約82万円の健康管理手当支払いを長崎市に命じた一審長崎地裁判決を取り消す
▽原告の請求は棄却
▽原告側には3年分の未払いの手当の受給権があるが、時効(5年)で権利は消滅した
■在外被爆者への健康管理手当支給
厚労省によると被爆者手帳を持つ海外居住者は30数カ国・計約4000人。被爆者援護法に基づく健康管理手当(現在は月額3万3800円)の支給は国内居住者に限られていたが、海外での手当受給を認めた大阪高裁判決(2002年12月)が確定。翌年3月の政省令改正に伴い、在外被爆者にも支給が認められるようになった。
ただ、過去の未払い分支給を求める被爆者と、請求権の時効(5年)を理由に拒む国や地方自治体との訴訟が各地で継続中。06年2月、広島高裁も時効主張を退ける被爆者勝訴の判決を出したが、被告の広島県が上告している。
■現実をまったく見ず 崔季〓さん側代理人の龍田紘一朗弁護士の話
訴訟の争点は1審が認めた時効適用の信義則違反を維持するかどうかだった。高裁判決は1審と逆の判断を下しており在外被爆者の現実をまったく見ていない。
■援護行政適切に行う 厚生労働省健康局の話
これまでの主張がおおむね認められたものと認識している。今後とも、被爆者援護行政を適切に行っていきたい。
■市の主張認められた 長崎市の伊藤一長市長の話
現時点では判決の具体的内容が確認できていないが、本市の主張が認められたものと判断する。
=2007/01/23付 西日本新聞朝刊=
2007年01月22日23時37分


*こちらだと同じウインドウで移動します。
