2013年03月11日

無実の星野さんを奪還し再審勝利へ!(2)

 (1)の続き。
 1971年11月14日渋谷闘争に於いて一人の警察官がデモ隊に殴打され死亡したが、前述のように逮捕されたうちの一人Krは「機動隊員を殴打していた集団の中にきつね色の服の男を見た」と供述した。警察・検察はこの供述を利用しつつ虚偽の供述を強い、デモ隊のリーダーだった星野文昭さんにあらぬ罪を着せた。
 第二次再審請求に於いて星野さんの当日の服装は薄青色だったことは最高裁も認めざるを得なかったが、ふざけたことに「Krは服の色を間違えて記憶していただけだ」などという屁理屈を持ち出して却下した。かつ、権力にとって唯一の拠り所であった服の色についての証言が崩れたため、苦し紛れに別の口実を考え出した。「Krは申立人(星野さん)を、後姿や声で識別できた」というのだ。

 Krは、中野駅から新宿駅、代々木八幡駅を経て神山派出所前付近まで防衛隊として申立人と行動を共にしており、たとえ、後ろ姿であっても、その姿、恰好を見間違えるとは考え難い。
 「星野が鉄パイプで機動隊員を殴りつけながら、『殺せ、殺せ』とかすれたような異様な声で叫び続けていたのが印象的だった。」と供述し、荒川19回公判においても「その際、星野の声と思う『殺せ、殺せ』というかなり甲高い声を聞いている。」旨供述し、声も申立人特定の根拠としているところ、Krは中野駅等において申立人のアジ演説等を聞いており、神山派出所前付近では、「虎部隊、前へ出ろ」「突っ込め」などという申立人の指示の声も聞いているのであって、本件発生当時までに申立人の声を既に何回も聞いていたということができ、中村巡査の殺害を指示した者が申立人であることをその声から識別できた旨のKrの供述は信用することができる。(最高裁特別抗告棄却決定 2008年7月14日)
 繰り返すがKrが星野さんと出会ったのはデモ当日が初めてであり、常に行動を共にしていたわけでもない。顔ならともかく声だけで当人を識別できるようになるには短すぎる時間ではないか?ましてやデモ隊と機動隊の怒号が飛び交う修羅場である。
 知人の声であっても、声の主を識別できない場合もあるだろう。もしも声だけで個人の識別を誤ることが無いとしたら、「オレオレ詐欺」という犯罪は成り立たない。異議申立補充書 には、厚生労働省による「声による同一性識別の危険性」という考察が引用されている(P-27〜29)。要するに人間は声だけでは人違いすることもあり、振り込め詐欺は声だけで個人を識別せざるを得ない状況を悪用しているということだ。他人の声を親族の声と思い込んでしまうケースさえも多々あるのに、その日初めて出会った人間の声なら、識別できないほうが自然だろう。

 ちなみにKrは、声だけで星野さんだと分かっていたはずだ、とういことにされてしまった経緯についても説明している。
 「要するに、そういう命令をするのはだれかという質問がくるわけですね。それに対して、実際、その日に会った人たちの中で、声を聞き分けたり、顔や姿、形を見分けたりする人間というのは、一緒に起居していた人たちだけなわけですね。それで、取調官から、そういう質問があって、だれがどういうときに、やはり演説なんかやっていたということになります。ですから、じゃなかったかという形で、ぼくは述べたわけです。それに対して。ほかのやつは、こうこうこう言ってるけど、お前はどうなんだということで、そういう形で調書に記載されていったわけですから、名前が特定されてですね。」(異議申立補充書P-22〜23 第4回公判のkr供述)
 繰り返すがKrが断言していたのは、殴打の現場できつね色の服の男を見た、ということだけだ。警察・検察は、「きつね色」の男とデモ隊のリーダーだった星野さんを同一人物にしたいため、Krにしつこく迫った。そしてそれを星野さんを有罪にするための根拠にしたのだ。

 また、当時未成年のAoの供述調書には、「星野さんが火炎瓶を投げろと言った」とあるが、これも虚偽証言を強いられたものだった。
 (弁護人)「火炎瓶を投げたと認めないと捜査が終わらない趣旨のことを先程言われましたね。もう少し詳しく言うと、どういうことなんでしょうか」
 「既成の事実がもうでき上がっていて、その中の一人の登場人物として自分を設定してしまわないと終わんないと。で、ほかの人間がもう供述し終わっていると、そういうふうなことを言われますと、自分だけとり残されると言いますかね。そのへんの心理よくわからないんですけれども、そういうことで、とにかくそこまで供述してしまわないと終わらないというそういうふうな意味なんですけど」
 (弁護人)「そうすると・・・この中村巡査の現場であなたは火炎瓶を持っていましたか」
 「持っていませんでした」
 (弁護人) 「と、投げる以上火炎びんをどうしたかという話になりますね。それはどういうふうに供述しました」
 「それで後ろから走って来た女の子にもらったというような、これ、全くの創作なんですけど、その子から火炎びんもらって、それでそれを投げたという供述をしていると思いますけど、それはかなり自分で、警察官に言われて創作したものじゃないものですからね、変な言い方ですけど、自分で創作したという記憶がはっきりしていますから」(控訴審第8回、国際労働運動2013年2月号 第438号 P-21〜22)


 この冤罪事件について理解するには、当日星野さんがどういう立場でデモに参加していたのか忘れてはならない。当時、沖縄米軍基地を固定化せんとする返還協定批准反対闘争が燃え上がり、事件のあった1971年11月14日は権力によって集会・デモが禁止されていた。しかし闘う学生労働者はこの、「行動を始めたら直ぐにも妨害、弾圧、襲撃が四方、八方から予想」される状況を破って渋谷に集結しようとしていた。星野さんはこのときの状況を第二次再審請求の陳述書の中で語っている(国際労働運動2013年2月号 第438号 P-18〜19)。
 星野さんは「最短のコースを最短の時間で、妨害、弾圧、襲撃をはねのけ、デモ隊を守りきって渋谷に到達する」ためのリーダーの立場だった。それが星野さんの任務だった。「個別的で派生的なそれ以外のこと一切に意識が向かう余地」など無かった。
 当日、小田急線代々木八幡駅を降りたデモ隊は真っ直ぐに渋谷に向かった。警察官が死亡した事件が起きたのは渋谷区「神山町一一番一〇号近藤忠治方前路上」である(控訴審判決)。渋谷駅ハチ公口を降り、109の右側の緩い坂を登り、東急の右側の細い道に入ってしばらく進んだところに「神山町東」交差点があるが、その約10m先だ。米屋の前あたりだ(神山町11-10という住所表示がある)。交差点の手前右側にはアップリンクがあり、向かいに統一協会がある。


 交差点から渋谷方面に向かって写した
 星野さんはデモ参加者と機動隊の衝突発生を認識しつつも隊列を引き連れ東急本店に達したが、このとき警察官によって写真を撮られている。その写真に写る星野さんの手には白い紙が巻かれた鉄パイプがあるが、何の損傷も無いという(参考)。機動隊員を激しく殴りつけていたというのなら何らかの損傷が見受けられるはずだ。

 機動隊員殴打場所の10mほど渋谷寄りにある交差点を(渋谷に向かって)左に曲がればNHK放送センターに至る。星野さんがこの交差点に立ちNHK方向を見ると、NHKの近くに機動隊が集結しているのを発見した。
 「この機動隊が私たちに攻撃してくるのは時間の問題だと思った」
 「NHK方向の機動隊の動きと、代々木八幡方向のデモ隊の結集を交互に見る、そのギリギリの極度に緊張した連続だった。決断が迫られた」
 そして星野さんはデモ隊が揃ったことを見極め、「行くぞ」と声をかけて進みだした。この瞬間星野さんはNHK方向の道に「車のフロントが光っている光景を見ている」。
 弁護団は2009年と2012年の11月14日、星野さんが立っていた交差点を訪れ、星野さんが語るようにNHK方向の車のフロントガラスが太陽光を反射して光ることを確認した。この検証によって、星野さんは殴打場所(交差点の10mほど代々木八幡側)ではなくNHK方面が見渡せる交差点で立ち止まっていたことが明らかになった。即ち星野さんは殴打に加わっていなかったことがはっきりしたのだ。


 国際労働運動438号掲載の写真と同じ向きで写してみた。キリンの自販機が目印

 このように弁護団は星野さんが殴打に加わっていないことを示したが、極めて困難な作業だったと察する。「無い」ことの証明だからな。本来、警察・検察が殴打実行者を特定したいのなら、確かな物証を探すべきではなかったか?「ある」と主張するなら「ある」ことを証明しなければならないはずだ。絶対に確実な物証が発見されなければ容疑者を罰することは出来ないはずだ。それが出来ないからこそ権力は、未成年の学生たちを脅し、虚偽の供述を行わせて星野さんを陥れたのだ。
 権力にとっては、デモ隊のリーダーであり三里塚闘争で指名手配を受けていた星野さんを殴打実行者に仕立て上げることによって運動に打撃を与える狙いもあったのだろうか。あるいは誰が実行者か手がかりのつかない状況で、権力にとって星野さんとは氏名を把握できている活動家であったから、安易にターゲットにしたのだろうか。反原発運動への弾圧を見ていてもそのように感じる。

 (つづく)

posted by 鷹嘴 at 01:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 冤罪事件 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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