人材派遣会社クリスタルが「週刊東洋経済」の記事は名誉毀損であるとして巨額の損害賠償請求訴訟を起こしていたが、それを取り下げたというニュースがあった。
どんな記事だったのか興味があるので図書館でコピーしてきた。以下は「東洋経済」2003年2月8日号の特集記事「異形の帝国『クリスタル』の実像」より引用。
クリスタル（先日グッドウィルが買収）という企業は、年間売り上げが100億に満たない企業が多いこの業界の中で、売り上げが3000億円（この記事が書かれた当時の話）という突出した存在である。
言うまでもなくこの企業の事業は、実質的には「人材派遣」ではなく偽装請負である。この時点では違法だった製造業への人材派遣も行っていた。もちろん建前は「業務請負」である。「東洋経済」はこの違法な雇用形態を、他のマスコミが騒ぎ始めるより3年以上前に指摘していたのである。
ところで「株式会社クリスタル」とは約160社以上のグループ企業を取りまとめる位置の持ち株会社である。東洋経済編集部が入手した、トップから各グループ企業への大量の通達からは、「徹底した上位下達と信賞必罰」の社風が窺えるという。
そして様々な横文字の名前のグループ企業から、キャノン、リコー、富士ゼロックスなど精密業界の三強、ＮＥＣ、ソニー、シャープ、三洋電機、富士通、松下電器産業、東芝など大手電機メーカーの工場に対し業務請負を展開している。
取材を許されたいくつかの工場からは、生産の現場では正社員をほとんど採用せず、請負社員に頼っているという共通点が見られたという。また請負社員の平均年齢は20代前半で、地方出身者が多く、「7対3で女性比率が高い」。大手企業が偽装請負に依存する唯一の理由は人件費の削減であるから、このような採用状況になっているのも理解できる。
地方出身で独身寮に住む社員は、寮費を引かれると「10万円もいかないこともザラ」。生活が苦しいので「夜はスナックでアルバイトしている女性も多い」。
（＊ちなみに社会保険加入率は「業界平均はせいぜい３〜４割がいいところ」。悪質な業者が、社員を社会保険に加入させずに（つまり雇用側の半額負担から逃れ）、その分値下げをアピールして営業を行えば、「加入率の高いまじめな業者ははじき飛ばされる」という）
請負社員はこのような低賃金で、正社員が嫌うような過酷な労働を強いられる。
クリスタルグループの「ネクスター」の社員で、大手カメラメーカーのニコンの工場で働いていた上段勇士さんは、
クリーンルームで昼夜二交代制、
拘束時間は11時間、
残業時間は月70時間、
15日間連続勤務もあり
、という過酷な労働環境の中で健康を害し、逞しかった身体は10ｋｇ以上も痩せ、「簡単な公式も思い浮かばなくなった」ほど記憶力も減退し、1999年3月に自ら命を絶った。
母親の、のり子さんはネクスター（現アテスト）とニコンを相手取り損害賠償請求訴訟を起こした。現在東京高裁で係争中である。
･･･このように労働者を人間扱いしないクリスタルグループが急成長した理由は、製造業が国際間のコスト競争で揺れる中で、クリスタルがなりふりかまわず偽装請負を拡大してきたためである。
「行政が言うような完璧なものは難しいが、可能な限り告示で定める形に近づけるよう、安定雇用に努めようと努力を重ねてきたが、一人臆することなく人材を右から左へ流すだけの派遣形態を強行してきたのがクリスタルだ」
と、取材の中で業界各社が語っていたという。
ところで平成16年3月1日、つまり2004年3月1日から、労働者派遣法が「改正」され、製造業への人材派遣が可能となった。クリスタルの行っていた偽装請負が（派遣受入期間を守りさえすれば）合法となってしまったのである。
「結局怖いもの知らずで突き進んできた彼らの勝ちだったということだよ」
と、古参の業界幹部はため息をついたという。
違法行為が横行している現状に合わせて法を変えるという発想は、憲法9条改悪論にも通じるものがある。
ところで昨年、クリスタル傘下の「コラボレート」が偽装請負を指摘された影響で、このグループは製造業請負からの撤退を始めているという。しかし偽装請負はいろいろな業者と大企業が結託し、手口を変えて行われている現状は変わらない。経団連の御手洗会長は派遣受入期間の撤廃に言及しているが、これが実現すれば偽装請負は合法的なものとなるのである。
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クリスタルなんか死んでしまえ！