(2)の続き。2012年11月23日、東京都北区・赤羽会館にて「星野再審全国集会」が行われた。この発言要旨も「国際労働運動2013年2月号 第438号」に収録されている。半年も経ってしまったが、この発言録を参考にしつつ自分のメモの中から特に印象に残った部分を書き留めておく。
会場は集会開始前にほぼ満席となった。「無実のゴビンダさんを支える会」事務局長の客野美喜子さん、法大暴処法弾圧を一審で無罪を勝ち取り控訴審を闘う恩田亮さん、千葉商科大学教授の金元重(キムウォンジュン)さん(国鉄闘争全国運動呼びかけ人)など多彩なゲストが登場。支援団体からは全国各地の星野さん救援会と「奥深山さん免訴の会」の大塚正之さん、そして星野さんのご家族の方々、星野さんと獄中結婚した暁子さんが発言し、弁護団からは鈴木達夫さん(弁護団長)、藤田城治さん、西村正治さん、岩井信さん、酒井健雄さんが発言した。また布川事件・冤罪被害者の桜井昌司さんのビデオメッセージが届けられた。
■ 客野美喜子さんは、東電OL殺人事件の冤罪被害者ゴビンダさんの闘いを語った。ゴビンダさんは再審無罪を勝ち取ったため、「無実のゴビンダさんを支える会」は解散するが、今後は新たな組織で冤罪被害者の支援を行うという。
大津幸四郎さんが撮影した「圧殺の森」は、高崎経済大学に於ける学生の闘いを記録した映画で、当時同大学の学生だった星野さんもフィルムに収まっているという(ただし自治会からの「星野さんは将来の活動を担う人だから大学側に分からないようにして欲しい」という要望があったため真正面から顔を撮ることはしなかったとのこと)。
在日韓国人二世の金元重(キムウォンジュン)さんは自分の受けた仕打ちと現在の星野さんの境遇を重ね合わせ涙声になりながら熱く語った。金さんは韓国に留学中の1975年に、韓国中央情報部によって朝鮮民主主義人民共和国のスパイだとして不法拘禁され拷問を受けた。そして懲役7年の冤罪判決を受け、82年に出所し日本に戻った。しかし2011年4月にソウル高裁に再審請求し、11月に再審開始決定し2012年4月に無罪が確定した。事件から36年経って無罪を勝ち取ったのである。
暁子さんは徳島刑務所での星野さんに対する不当な扱いを訴えた。かつてこの刑務所では受刑者が看守と目が合っただけでも懲罰を受けたというが、所長が交代し、星野さんが抗議書を出して、少しはマシになったという。しかし星野カレンダー差し入れも拒否されるという不当な制限は改善されていない。
「奥深山さんの免訴を実現する会」の大塚正之さんは、星野さんと同様に渋谷闘争で逮捕・起訴された奥深山さんの近況を語った。奥深山さんは長期間の勾留によって統合失調症を患い、1981年に公判手続き停止となった。現在の奥深山さんの病状はあまり良くないという。2002年に検察が裁判開始申し立てを行い、裁判所は二人の精神科医を使って裁判再開を狙ってきたが、弁護団・医師・「免訴の会」の粘り強い戦いによって阻止している(参考)。 (周知のことだが奥深山さんの裁判が停止しているため、共犯者として指名手配され日本中どこに行っても手配写真が貼ってある大坂正明さんの時効が成立しないという)
■ 西村正治弁護士は、星野さんが服役している徳島刑務所の行状を弾劾した。外部交通(面会、手紙)については友人だけでなく暁子さんの面会も回数を制限している。弁護士が面会したことによって「回数オーバーになった」として暁子さんの面会を拒否したのである。しかも暁子さんが星野さんに宛てた手紙は黒塗りされてしまった。この不当な処置に対し弁護団は2011年11月14日、「面会・手紙国賠訴訟」を提訴した。
また2012年2月徳島刑務所包囲デモが行われた後、これまで星野さんへの面会を認められていた「取り戻す会」の事務局員や地元の支援者が、「デモの首謀者」と名指しされ、面会も手紙も差し入れも一切拒否されている。徳島弁護士会の「勧告書」(暁子さんが送付)も、西村弁護士が送った国賠裁判の訴訟資料も、国が裁判所に提出した準備書面も、星野さんに渡されていない。2012年10月、弁護団が徳島刑務所に対し抗議すると共に、記者会見を開き徳島刑務所の不当な仕打ちを暴露したところ、地元の徳島新聞や朝日新聞に報道されたという。
岩井信弁護士は星野さんの、車のフロントガラスが光ったという記憶の実証結果を説明し、棄却決定の愚かさを指摘した。Krの証言が詳しすぎる件について「巌島鑑定」(参考)は、記憶に基づくものではなく誘導されたものだと指摘したが、棄却決定は「捜査官による誘導もそれが不当なものでない限り、有効な記憶喚起の方法になる」などと倒錯した開き直りをした。開き直っている。誘導された供述であるから本人の記憶に基づくものではないと指摘されて、誘導だから詳しくて当然だと開き直っているのだ。
■ 酒井健雄弁護士は、Krらデモ参加者の(強制された)供述の無意味さとそれを疑うことなく採用した裁判所を厳しく批判した。棄却決定は「不当でない誘導であれば正確な記憶が蘇ってくる、あるいは長時間調べると記憶は詳細に戻ってくる」などとトンデモない主張をしているが、酒井弁護士は「本当に無茶苦茶な、心理学など知らないという決定」だと批判する。心理学の無視というか人間という生物のあり方を根本から捻じ曲げているのではないか。例えば街で喧嘩を目撃してから数か月後、喧嘩をしていた者らの人数や武器や人相や服装を、正確に記憶しているわけがない。長時間尋問しても全く無意味だ。「取調べで鮮明な記憶が戻ってくるわけがない」。そういう取調べを受けた者が何かを語ったとすれば、それは大脳に記憶されていた情報でなく誘導によって形成されたフィクションだ。
人間の記憶は時間が経てば全く違ったものになっていく。身に憶えのない容疑で逮捕され連日自白を迫られると、取調官がまくし立てる容疑こそが事実ではないかと思ってしまう。近頃の話だが冤罪で逮捕され法廷で無罪を勝ち取った某政治家の秘書も、夜中に独房で「俺の記憶は違うんじゃないか」と考え込むことがあったという。
また酒井弁護士は「浮気がバレたとき、奥さんの鬼のような形相は憶えているが、奥さんのヘアスタイルや服は憶えていない」と例示する。Krらデモ参加者は、デモ隊や機動隊の怒号や喧騒は鮮明な印象が残っただろうが、そのデモ隊の中の誰それはどんな服だったか、何を叫んでいたか、どんな武器を持ってどんな動きをしていたか、思い出せと言われても憶えているわけがない。警察と検察はこういう無茶なことを要求し、虚偽の供述調書をこしらえた。でなければ警察官死亡事件に対する復讐を遂げられなかったのだ。
■ 藤田城治弁護士は、検察が保管している証拠を全て開示するように訴える重要性を語った。ゴビンダさんの場合、弁護団の再審請求によって体液のついたガーゼが出てきたが、DNAはゴビンダさんとは違うものだった。検察はこの証拠品を保管していたが、再審請求を行わなければ提出されなかった。
ゴビンダさんは一貫して無実を訴えていたが、同様に再審で無罪となった布川事件の二人の冤罪被害者は捜査段階で自白を強制された。呆れたことに今でも法律のテキストには、布川事件が「自白で有罪となった」例として出てくるという。
前述のようにkr証言によると、機動隊員を殴打していた集団の中にきつね色の上着の男性がいたということだが、「反戦」のヘルメットを被っていたきつね色の男性が写った写真がある(週刊朝日のカメラマンが撮影)。この男性は「反戦」と書かれたヘルメットを被っていた。しかし当日の星野さんは「中核」と書かれたヘルメットを被っていたのである(参考)。
これも前述だが、事故現場を通過後東急本店前に至った星野さんを警察官が撮影した写真があるが、星野さんが持った鉄パイプには白い紙が巻かれていて損傷は見当たらない(参考)。弁護団はこの写真のネガを入手し解析・分析し、損傷が無いことを明らかにするため証拠開示を求めたが、裁判所は「証拠開示の必要性は無い」と拒否し、再審請求を棄却したのである。
弁護団は写真だけでなく、目撃者の供述調書など、弁護団には存在を知らされていない物も含めた全ての証拠開示を求めている。ゆえに「全証拠開示運動」が必要なのだ。
星野さんのご家族と弁護団、及び「星野文昭さんを取り戻そう全国再審連絡会議」は、星野さん冤罪事件に関わる「全証拠開示を求める署名」を募っているのでぜひ署名されたし!
ちなみに渋谷闘争を報じたテレビニュースを録画したビデオテープが裁判所に保管されていたはずだが、裁判所はなぜか警視庁に預け、警視庁はそれを紛失したと開き直っている。テレビニュースといえども重要な証拠品になり得る。よっぽど裁判所や警察にとって都合の悪い映像が映っていたのだろうか。それとも本当に紛失したのだろうか。そもそも裁判所が保管していたものを、警視庁に預けていいのだろうか・・・。弁護団はこの不手際(あるいは隠蔽?)にも、国家賠償訴訟を闘っている(参考)。
ところで藤田弁護士が指摘するように東電OL殺人事件・冤罪被害者ゴビンダさんも、足利事件・冤罪被害者菅家利和さんも、DNA鑑定結果という動かぬ証拠が出てきたため再審で無罪を勝ち取った。しかしここで投稿したように、容疑を一貫して否認するも関係者供述によって有罪となった大崎事件・冤罪被害者原口アヤ子さん、福井女子中学生殺人事件・冤罪被害者前川彰司さんについては、第三者のDNAのような決定的な証拠は無かった。そのため原口アヤ子さんの再審請求は棄却され、前川さんの再審開始決定も検察の異議申し立てによって取り消された。星野さん再審請求も同様に棄却されている。検察がどのような証拠を隠しているか分からないが、それこそ絶対に請求人の行為ではないことを示す証拠を持ち出さなければ納得しないのだろうか。もっともそんな作業など本来不要なはずだ。「再審制度においても『疑わしいときは被告人の利益に』という刑事裁判の鉄則が適用される」という白鳥決定に従い、直ちに再審開始され無罪判決が下されなければならない。
言うまでもなく今後決して冤罪事件を起こさせないために、全証拠開示と取調べ可視化を訴えなければならない(Krらが虚偽供述を迫られたような不当捜査を防ぐために)。しかし最近数々の冤罪事件が明らかになり刑事司法制度の改革が求められているにも関わらず、政府は逆コースに向かおうとしている(別記)。
2013年05月08日
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