2013年05月17日

アトムの涙

 手塚治虫先生の「鉄腕アトム」に、「アトムジャングルに行く」という短編があるそうな。「寒さで凍える動物を救おうと、アトムが動物と力を合わせてジャングルに原発を造る」という話。続編「よみがえるジャングル」は、原発に地震と津波が襲ってきたがビクともせず「安全でした」という話だとさ・・・



 この短編は1977年に「漫画社」という広告企画会社(既に解散)が冊子にして刊行し、電気事業連合会を通じて全国の電力会社に納入された。東京電力福島原発PR館でも無料配布されていたという。
 これを知った編集者の才谷遼氏は1988年6月、「手塚さんがこんなことしていたら漫画界の恥だと思い」、パーティ会場に「真意をただそうと押しかけ」取材した。いつもの手塚先生は多忙のためすぐ消えてしまうが、この時は「大切な話だから」と時間を割いた。
 手塚先生は「描いた憶えないの。許可した憶えもない」と述べ、さらに「僕も原発に反対です。はっきりそう書いてください」と言って、「写真撮影用に原発反対のポーズ」をとってくれたという。そして翌年2月、手塚先生は逝去した。
 要するに「アトムジャングルに行く」と「よみがえるジャングル」は盗作だった。つーかただの盗作よりもタチが悪い。原発は安全だってゆうPR目的に使ったんだからな。手塚先生の名を汚す最低の行為だ。やっぱ原発に関わる連中って昔から、嘘つきってゆうかペテン師なんだな。原発が安全だって言ってる時点でペテンだけどよ。2013年4月17日〜18日・東京新聞「アトムの涙 手塚治虫が込めた思い」から引用。阿修羅に全文が引用されている。
◇ アトムの涙 手塚治虫が込めた思い<上>
◇ アトムの涙 手塚治虫が込めた思い<中>
◇ アトムの涙 手塚治虫が込めた思い<下>

 この冊子を刊行した「漫画社」の元社長樋口信氏は「手塚プロの許諾は受けているはず」だと釈明するが、当時マネージャーだった松谷孝征氏(手塚プロダクション社長)は「もしそうならチェックのための原稿が上がってくるはずなのに、私はそれを一度も見たことがない」と否定。
 実は当時、電力会社から手塚作品を「PRに使わせてほしい」という申し出が何度も来ていたそうだが、全て断っていたという。漫画評論家・同志社大教授の竹内オサム氏は「原作を読まず、上っ面のイメージだけで頼みにくるんでしょうね」と指摘する。その通りだろうね。
 読んでみれば分かるが手塚作品の世界と原発ビジネスが相容れるわけがない。「火の鳥」にせよ「ブラックジャック」にせよ「ブッダ」にせよ「アドルフに告ぐ」にせよ、環境破壊を続ける文明の愚かさ、私欲のため争い続ける人間の醜さを描きつつも、生命の尊さを訴える作品ではないか。反戦・反核と、近代文明への警告が貫かれているではないか(ブラックジャックには工場の廃液が引き起こした公害病をテーマにした作品もあった)。要するに、原発屋とその資金に群がる連中が、手塚作品を理解しようともせず知名度だけを利用した事件だったのだ。そういえば以前、福島第二原発PR館にジブリの店があったのが問題になって撤退した、ってことがあったな。

 手塚プロダクション資料室長・森晴路氏は鉄腕アトムについて、「科学礼賛などではなく、むしろ科学万能社会への懐疑といった深遠なテーマが流れている」と語る。しかし手塚先生はアニメ化された鉄腕アトムに対し「あれは僕のアトムじゃない」と嘆いたという。森氏は「(アニメ化されれば)協賛企業やテレビ局の意向も入れざるを得ない。作者の意図と離れていってしまうこともある」と指摘する。
 先生は1985年都内で「手塚治虫漫画40年展」を開催し、「第五福竜丸」という漫画を展示した。アメリカによるビキニ環礁水爆実験で被爆した第五福竜丸が海に浮かび、長い鎌?を持った村人らが空を飛ぶアトムに向かって「この原子力ロボットめ、死の灰を降らせるな!」と叫んでいる。アトムは「ボクは正義の味方だと思っていたのになあ」とつぶやき、涙ぐんでいる。
 福島原発事故後、ネット上では原子力で動く鉄腕アトムに対し「原発のイメージアップに加担しているのではないか」という発言が相次いだそうだが、手塚先生の長女・るみ子さんによると、そのたびにアトムのファンが反論して‟疑惑”を打ち消した。おかげで今ではそういう批判も冷静に受け止められるようになったという。「あらためて原作を読み、真意をくみ取るきっかけにしてほしい」。

 アトムも災難だよ。自分のことを理解していない原発屋に利用されたと思ったら、福島原発事故後は俺みたいなバカサヨにバッシングされ、さぞかし肩身が狭い思いとやり場のない怒りに苦しんでいるだろね。今度こそ人間の醜さに愛想つかしただろうか。それでもまだ世界を救おうと闘うのだろうか。
 萩尾望都先生は「鉄腕アトムが原発と関連付けて語られることにやるせなさを感じ」、次のような「アトム最終話」のあらすじを考えた。
 原発の事故直後、アトム、コバルトの兄弟と妹ウランが一緒に、放射性物質の除染のために福島に向かう。三人は発電所内で除染を終えた後、壊れて動かなくなる。
 『その物語を、いつか私に描かせてほしい。(福島の現状を見て)手塚先生は、きっと許して下さると思うんです』


posted by 鷹嘴 at 00:34| Comment(3) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
少し右寄りな質問ですみません
主さんはなんで原発反対なんですか?

私は原発の近くに住んでます(どこに住んでいるかまでは言いませんが)

それでも特に困ることはないですし、何も起きない平凡な一日を送っています

実際原発が止められたとして、その分の電力はどこから補えばいいのでしょうか?

私はあまり頭が良くないのでそこのところを詳しく教えてくれると嬉しいです(^-^)

Posted by 白神さん家 at 2013年05月27日 08:01
白神さん家さん、こんばんは。

今じゃ原発ほとんど動いてないけど電気は足りてますよ。新聞とかニュース見てます?

それに、原発事故が起これば、私(埼玉在住)よりあなたの方が大きな被害を蒙りますよ。
それでもいいというなら、ご勝手に。

Posted by 鷹嘴 at 2013年05月31日 01:26
記事中のニセアトム漫画、チェルノブイリ原発事故が起こった頃に、「コミックボックス」という雑誌で取り上げられていましたよ。皮肉なことにそのニセアトム漫画が作られた1977年の2月22日にチェコスロバキア(現スロバキア)でレベル4の原発事故が起きて、2年後にレベル5のスリーマイル島原発事故が起きたそうです。
Posted by ノン・フライ at 2013年06月22日 19:32
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