【追記のお知らせ 2017年4月9日】
 記事「【5月7日】雁屋哲さんの講演+井戸川克隆さんと対談」に、「美味しんぼ『鼻血問題』に答える」から福島現地での鼻血の症状についての報告例を引用しました

2013年12月01日

【西山事件と秘密保護法】「情を通じ」なくても・・・逮捕?

 2013年11月26日、特定秘密保護法案が午前中に衆議院特別委員会で強行採決され、午後には衆議院本会議で強行採決された。自公政権は会期末の12月6日までに参議院での可決を狙っている。正念場を迎えているのに今更だが、東京新聞の記事からこの法案の本質に迫る指摘を引用する。

 この法案が成立すればマスコミの活動が大きく制約されることは言うまでもないが、10月22日森雅子担当相が記者会見で、特定秘密保護法が「不当」とする取材行為ついて「西山事件に匹敵するような行為だと考えている」と述べた。これに対し西山事件(という弾圧事件)の被害者である西山太吉氏は「沖縄密約自体が違法、違憲だ。保護されるべきものではない。森担当相は密約のことが全く分かっていない」と反論している。
 また森氏は11月8日の衆議院特別委員会で、「公務員が特定秘密の漏えいで捜査の対象となっても、取材した報道機関の捜索が行われることはない」と述べた。
 まとめれば・・・特定秘密に対する通常の取材なら問題はないが、西山事件のような取材方法ならば罰せられる・・・ということになる。これは1972年、毎日新聞の記者だった西山太吉氏が外務省の女性事務官から、沖縄返還に伴う日米密約の一部を聞き出し記事にしたことで逮捕され、有罪判決を受けた弾圧事件である。

 1969年、当時の佐藤栄作首相とアメリカのニクソン大統領が沖縄返還に合意する共同声明を発表した。1971年の返還協定では、アメリカが接収していた土地の原状回復費用はアメリカが「自発的に支払う」こと、日本政府はアメリカに資産買い取りや核兵器撤去のため3億2千万ドルを支払うこと、アメリカの海外向けラジオ放送施設の運営を今後協議すること・・・などが決められた。佐藤政権は、沖縄から核兵器を撤去し、二度と持ち込ませないと宣伝していたのである。
 しかし返還合意の直後に佐藤とニクソンが、「緊急事態の際は、核を持ち込む権利が認められる」との秘密文書を交わしていた。さらには柏木雄介大蔵財務官とジューリック財務長官特別補佐官が、基地移転費用なども日本側が負担する密約を交わす。これは「思いやり予算」の原型となったという。また吉野文六外務省アメリカ局長とスナイダー駐日公使が、アメリカが「自発的に払う」はずの原状回復費用400万ドルと、ラジオ放送施設の移転費用を日本側が肩代わりする密約を交わしていた。
 西山氏は外務省の女性事務官を通じて、原状回復費用を日本が肩代わりすることを暴き、社会党がこの事実を国会で追及した。「佐藤政権がウソをついていた。憲法にも反する秘密だ。情報操作というよりも政治的犯罪だった」(西山氏)
 しかし佐藤政権は密約を否定するとともに、漏洩したルートを突き止め、女性事務官を国家公務員法の秘密漏洩容疑で逮捕した。西山氏も事務官をそそのかしたとして逮捕されてしまった。
女性事務官は一審で有罪判決を受け、西山氏は一審無罪だったが二審で逆転有罪(懲役4月執行猶予1年)となり、最高裁で確定した。東京地検は起訴状に、「(西山氏が女性事務官と)ひそかに情を通じ(ることで、電文を持ち出させた)」という表現を用いていた。週刊誌は男女のスキャンダルとして報じ、毎日新聞の不買運動まで起こったという。いつの時代も下らない連中がいるんだな。
 しかしその後、琉球大の我部政明教授が2000年までに、アメリカの国立公文書館で、沖縄密約を裏付ける文書を発見した。密約は事実だったと判明したのである。西山氏は2005年に国に対し損害賠償を求めて提訴。吉野文六氏は西山氏が有罪判決を受けた裁判では密約の存在を否定する証言をしていたが、20006年に密約の存在を認めた。しかし一審二審とも西山氏の敗訴(2008年に最高裁で確定)。密約の存在に言及することもなかった。

 沖縄密約は、日本政府がアメリカに利便を図るため我々市民を欺き、米軍基地の固定化と核持ち込み黙認によって我々の生存を脅かす重大な犯罪行為だ。しかしこれを暴いた記者は弾圧され、密約の存在は闇へ葬られた。
 それにしてもこの西山事件にしろ、ウィキリークスのアサンジ氏や元CIA職員のスノーデン氏の件にしろ、犯罪行為を行っていた政治権力よりも、それを暴いた側が非難・中傷を浴び犯罪者として追及されるとは何と恐ろしい世の中だろうか。スノーデン氏は組織の守秘義務を破ったかもしれないが、非難されるべきはハッキングをしていたアメリカ政府ではないのか。西山氏の取材手段はアンフェアかもしれないが、非難されるべきは市民を裏切ってアメリカの利便を図った日本政府ではないのか。
 この法案では取材活動について「法令違反または著しく不当な方法によるものと認められない限りは、正当な業務とする」と定義しているが(第21条)、これは西山氏の有罪が確定した最高裁判決を「ほぼ踏襲している」。つまり「ひそかに情を通じ」た取材は正当ではないというのだ。それにしても「情を通じ」た取材だったので逮捕、というのは解せない。
 上智大学・田島泰彦教授は、
 「森担当相は、法と倫理を混同している」
 「男女関係を通じて情報を入手することは、倫理上の問題はあるが、それを直ちに違法とするのはおかしい。行政が取材の妥当性まで判断することになれば、メディアは当局が認める情報だけを伝えるだけの広報機関に成り下がる。報道の自由は骨抜きになる」
 と批判する。たしかに倫理の面まで問われれば取材なんか出来なくなるだろうな。

 二つ前のエントリーで引用したが、自民党の総務会で秘密保護法に反対した村上誠一郎元行革担当相が、
 「西山事件では記者が(沖縄返還の)密約情報を『情を通じて』つかんだとして有罪になった。だが情報そのものは正しかった。では情を通じない取材だったらどうなのか」
 と指摘している。「情を通じ」た云々は弾圧のための口実に過ぎない。政府にとって都合の悪い事実が暴露されたことが問題だったのだ。
 この法案の第24条は、特定秘密を扱う公務員などにその内容を明かせと「教唆」した者も罰すると定めている。「教唆」とは「そそのかす」ことだ。公務員に「国民には知る権利があります!」などと説得して情報を得れば、この法に違反することになるだろう。森氏の「取材した報道機関の捜索が行われることはない」という答弁は全く信用できない。
 つまるところ、政府が隠している情報を突き止め暴露すれば、どんな取材方法であったとしても、何かしらの「こじつけ」で弾圧されるのではないか。
 このようにマスコミと市民を委縮させ、公開しなければならない情報を隠蔽することが、この悪法の目的の一つだろう。
(リンク以外は10月21日及び24日の東京新聞記事より引用)

posted by 鷹嘴 at 01:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 悪法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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