2007年04月17日

「ビデオ証言で学ぶ沖縄『集団自決』と教科書記述削除問題」参加しました

(問答有用より転載)4月11日、東京都千代田区神保町の岩波セミナーホールで行われた、
「ビデオ証言で学ぶ沖縄『集団自決』と教科書記述削除問題」(主催:出版労連教科書対策部)
に参加しました。入場無料、110名の参加者で会場は超満員でした。


太平洋戦争末期の沖縄戦の中で起こった、渡嘉敷島や座間味島での住民の「集団自決」について、守備隊長だった赤松嘉次氏(故人)や梅澤裕氏は、自分は命令を出していないと主張してきました。
2005年8月、赤松氏の弟の秀一氏と梅澤氏は岩波書店発行の、

#家永三郎/著「太平洋戦争」
#中野好夫・新崎盛暉/共著「沖縄問題二十年」
#大江健三郎/著「沖縄ノート」


これら3点の書籍に対し、出版差し止め、謝罪広告掲載、慰謝料支払いを求める訴訟を起こしました。これらの中の、「自決」は守備隊長から命令があった、あるいは軍の命令があったという記述は、事実と異なるというのです。

仮に守備隊長自身からの「自決命令」が無かったとしても、部隊から「自決命令」が出たという多くの証言があり、これらの書籍に於ける記述が名誉毀損に当たるとは考えられません。このような不当な要求に屈するわけにはいかないのです。
この裁判は今まで8回の口頭弁論が行われ、5月25日には大阪地裁で第8回公判が行われます。

そんな折、2006年度の高校教科書検定の結果(2008年から使用される教科書)が3月30日に公表され、沖縄戦での「集団自決」は日本軍からの命令があったとする記述に意見がつき、変更させられたことが明らかになったのです。
たとえ現場の部隊からの直接的な命令が無かろうとも、住民を絶望的な状況に追い込んで「自決」させたのは日本軍であり、天皇制を中心とした日本帝国主義です。わざわざ「命令」の記述を削除させることは歴史の歪曲につながり、「集団自決」が美談として扱われかねません。このような動きに危機感を持ち、掲題の集会に参加しました。

●まず、出版労連教科書対策部の吉田典裕事務局長が、今回の教科書検定の概要について説明し、
続いて、急遽出席が決まったという歴史教育者協議会委員長の石山久男先生(史実を守る会の呼びかけ人でもあります)が、昨今の教科書検定の変容について説明しました。石山先生は今回の検定を受けた歴史教科書も執筆したそうです。

教科書検定は2005年から意見が多く付くようになり、沖縄戦での「集団自決」については前回までは意見は無かったそうです。また文部省の対応にも変化が起こり、以前は文部省の担当者と検定内容について話し合っていましたが、最近では職員が「検定者の意見を伝えているだけです」と告げるだけで、議論することはできなくなっているそうです。
今回の検定意見について「文部省は『通説を書け』と要求していたのに、沖縄戦に限っては『通説』とは言えない梅澤氏の主張を取り入れろというのか」と批判し、このような要求が行われた理由については「軍隊は国民を守る」という幻想を押し付け、有事法制下に於ける国民を統御する体制を強化することにある、と指摘した。
ちなみに教科書に初めて「集団自決」が記述されたのは1982年で、その時は検定で削除されましたが、沖縄を中心にこれを抗議する大きな運動が起こり、以後は記述が認められるようになったそうです。
尚、今回従軍慰安婦の記述について検定意見は付きませんでした。私はこの問題に関する安倍首相などの不用意な発言が海外で大きな反発を招いたことに配慮したのではないかと勘繰っていましたが、「既に検定意見を付ける必要が無いほど、記述内容が後退している」からだそうです。


●続いて、大島和典さん(元四国放送勤務、『辺野古の闘いの記録』で2005年JCJ市民メディア賞を受賞)の解説とともに、
「金城重明証言ビデオ――渡嘉敷島における集団死について」の上映が行われました。沖縄キリスト教短期大学教授を創設し教鞭をとった金城重明さんは当時16歳、渡嘉敷島の「集団自決」の生き残りです。自決が起こった場所で金城さんがその地獄絵図の記憶を語った記録です。

「集団自決」が起こった1945年3月28日の1週間ほど前に、部隊は住民に一人に2個ずつ手榴弾を配り、「一つは敵に投げろ、もう一つは自決用」と説明したそうです。
住民は前日の夜間に軍の命令で西山陣地に集結し、さらにその北方の盆地に移動させられましたが、その時既に村長の指示で「自決」する手はずになっていたのです。
激しいアメリカ軍の砲撃の中で「命令が出たらしい」という噂が流れ、「天皇陛下万歳」の三唱が起こり、手榴弾が炸裂し「自決」が始まりました。
ところが手榴弾は複数の住民の命を同時に奪うことはできず、パニック状態に陥りそれぞれの方法で「自決」が行われました。ある住民は木片で自分の妻子を滅多打ちにし、ある住民は大きな石を家族の頭に打ち付け、それから自らの命を奪いました。金城さんも兄と一緒に、母親や妹、弟に手をかけました。アメリカ軍に捕らえられたら鼻や耳をそぎ落とされ、女性は凌辱されると思い込まされていた住民にとって、「生き残ることが恐ろしかった」のです。補助席まで用意された満員の会場は重い沈黙に包まれていました。
死にきれずに「殺してくれ」と訴える住人もいました。金城さんも同級生に手をかけましたが、手加減してしまいました。家族に対してこそ、確実に命を奪っていたのです。自分の家族を想う気持ちがそうさせたのでしょう。
その後兄と一緒に死のうと考えましたが、友人たちと一緒に斬り込んで死のうということになり、アメリカ軍の陣地に進んでいた時、生き残っている日本兵に出会いました。みんな避難していると告げられ、一気に覚めて「死ぬことはなかった」と悟ったそうです。
この映像は「沖縄平和ネットワーク 首都圏の会」からDVDとして発売予定があるそうです。


●続いて、岩波書店の「沖縄集団自決」訴訟担当の大塚茂樹さんから、この裁判の状況について説明がありました。
渡嘉敷島の自決についての「ある神話の背景」(曽野綾子/著)と、
座間味島の自決についての「母の遺したもの」(宮城晴美/著)は、
沖縄戦に於ける「集団自決」の実態を知る上で重要な資料ですが、原告側はこれらの資料を(「ある神話の背景」の著者・曽野綾子氏と同様に)軍の命令は無かったという論拠にしています。
昨年10月、関東学院大学の林博史教授が米国立公文書館で、
「集団自決」に関する報告書を発見しましたが、原告側はこれに対しても、「軍命は出されていない」という根拠に用いているそうです。

原告側の準備書面では、
「これは慶留間島での記録であり、渡嘉敷島や座間味島とは関係がない」
「正確に訳せば、『兵隊達は自決しなさいと言った』であり、軍命令とは言えない」
「だからこの記録は自決命令の根拠になるどころか、自決命令を否定するものにもなりうる」
と主張しています。
しかし兵士が住民に「自決しなさいと言った」のであれば、正式な命令の有無に関わらず、軍としてそのような方針だったと素直に解釈するべきではないでしょうか?
たしかに渡嘉敷島や座間味島の事例ではありませんが、追い詰められた日本軍の行動を示す重要な例証として捉えるべきではないでしょうか?
いずれ被告側からの反論が出るものと思われます)

また原告側は、「戦傷病者遺族等援護法による補償を受けたいために、自決命令があったと証言した」と主張しています。
しかし援護法の適用が始まったのは1957年ですが、
沖縄タイムス社が「鉄の暴風」(自決命令があったことを記しています)を発刊したのは1950年とのことです。「時系列が逆」であることに原告側は気付いていないようです。

(ところで・・・沖縄タイムス社をはじめ自決命令に言及した書籍は無数にあるのに、なぜ原告側は岩波書店だけを訴えたのでしょうか?なぜ赤松氏や梅澤氏の実名を出していない大江健三郎氏の著作を標的にしたのでしょうか?
原告団には、百人斬り訴訟の原告側弁護人を務めた稲田朋美氏(衆議院議員)や高池勝彦氏が参加しています。高池氏は「新しい歴史教科書をつくる会」の副会長であり、夏淑琴さん名誉毀損訴訟の被告側弁護人にもなっています。
この訴訟も百人斬り訴訟と同様に、本人の名誉を回復するという口実の、政治目的があるのでしょう。先日の不当な検定意見にも何かしらの人脈による、政治的圧力があったのかもしれません)


●最後に大島和典さんが再び登壇し、文部省の今回の検定意見の狙いと、裁判を闘う心構えについて提言しました。
年々日本軍の加害事実の記述が少なくなる傾向にあり、今回は「集団自決」の記述が変更させられましたが、米軍再編を円滑に進めるための手段として「とどのつまりは沖縄戦の記述を一切無くしてしまおうという狙い」があるのではないかと述べました。

岩波書店沖縄戦裁判について、一昨年公判が始まった当時、傍聴席は右翼側がほとんどだったそうですが、しかし最近の公判では支援者側も増え、半々になっているそうです。「世論を高めて裁判所を包み込む」ことが大事だということです。
そしてただ見ているだけでなく、「傍聴席で戦う心構え」が必要だと仰いました。もちろん傍聴席から大声を出したりすることは出来ません。大島さんも苦笑していましたが、裁判官や相手側弁護人の不用意な発言が出たときなど、表情など態度で意思表示することは可能ではないでしょうか?

また裁判所へ署名を届け続けることも重要だということです。
ある不当解雇裁判では、支援者は毎日署名を集めて毎日裁判所に届け、勝訴したそうですが、裁判長は「あなた方の真摯な姿勢を見て、どちらがウソを言っているのか分かった」と述べたそうです。
ある不当逮捕の裁判で再審を求めたときは、「この事件ならば5万人分の署名を持ってきてください」と言われたそうです。署名が多ければ再審を始める理由にもなり、調査も行えるそうです。
徳島ラジオ商殺人事件で再審決定にかかわった徳島地裁の秋山賢三裁判長は、再審の嘆願署名を送り続けた支援者に対し、「裁判長は孤独なのです。あなた方の署名に勇気付けられた」と語ったそうです。
このように被告本人やその家族でも弁護士でもない第三者の意見であっても、大きく結集することによって、正しい判決を導くことができたのです。これは全ての裁判に通じることでしょう。夏淑琴さん名誉毀損訴訟を支援する「史実を守る会」も、大島さんの提言をしっかり受け止め、闘っていきたいと思います。


* 岩波書店沖縄戦裁判(平成17年(ワ)第7696号事件)は、「大阪地方裁判所第9民事部合議2係」で行われています。こちらに
「仮に赤松・梅澤両氏からの自決命令が無かったとしても、自決は日本軍の強制に等しく、原告側の要求は全く無意味かつ不当なものであり、却下して下さい」
という趣旨の葉書きを送ってみます。



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posted by 鷹嘴 at 18:13| Comment(0) | TrackBack(3) | 沖縄の地上戦 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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