2014年05月22日

【さわぎり事件】秘密保護法で自衛隊のいじめも隠蔽?

 (5月31日 大幅に加筆)特定秘密保護法が施行されれば、一番先にこの悪法の犠牲になるのは公務員ではないか、と思う。「特定秘密」に接している立場なら、データ管理の不注意や日常生活の些細な会話で漏洩してしまう危険性がある。組織を管理する部署に不正の告発を試みても、それが「特定秘密」に関わることなら黙殺されるだろう。マスコミにリークすれば直ちに摘発される。それどころか組織内でパワハラや不当人事を受けても、泣き寝入りを強いられるかもしれない。


 1999年11月8日、海上自衛隊の護衛艦「さわぎり」に乗務していた21歳の三等海曹が、訓練航海中の艦内で妻子を残して首吊り自殺した。彼は上官のA班長(当時二曹)などからいじめられていることを周囲に漏らしていた。「さわぎり」はこの三曹の誕生日の5日前の11月3日に出港したが、その前夜彼は電話で母に「明日から24時間やられる、24時間だからね・・・」と弱々しい声で語っていたという。
 A班長はこの三曹(便宜上Xさんと記す)らを何かにつけて罵倒し、「ゲジ2(げじに)」と呼んでいた。これは艦内で行うトランプの「クラブの2」の意味で、「一番役に立たないカード」、つまり「最も人格の低いという意味」で使われていた。またこの男は、Xさんの実家が宮崎県であることから、宮崎産の高価な焼酎「百年の孤独」を3回も貢がせたこともあった。
 Xさんが休日に官舎の砂場で息子と遊んでいたとき、部隊から電話で「30分待機」(30分以内の出港に備えるための待機指示)を命じられ、「携帯電話を持って砂場にいます」と説明したが屋内待機を強要され、解除の指示が来ないため一歩も外に出られなかったこともあった。
 彼は高校時代にボクシングや水泳に打ち込み、正義感に溢れた快活な青年だった。そして「海上自衛隊一般曹候補学生」の試験を目指し、競争率数十倍と言われる難関を突破。約1年の実習船乗務の後、海士から三等海曹に昇進した。曹になれば幹部への途が開かれ、定年まで勤務できる。そして99年3月から「さわぎり」に配属された。
 対してA班長は任期制自衛官として入隊し、9年目にして三等海曹に昇任した。任期制自衛官が昇任試験に受かって曹に上がるのは極めて困難だという。いわばA班長は叩き上げであり、昇任に有利な曹候補学生出身者を妬ましく思うのも当然だろうか。Xさんの仮通夜の席で同僚らが、「”曹学(曹候補学生)いじめ”は痛いほどわかります・・・」と口にしていたという。

 ちなみに海上自衛隊は艦船への酒の持ち込みを厳禁しているが、A班長はXさんに貢がせた「百年の孤独」を艦内に持ち込んで飲んでいた。後に法廷で証人尋問に立った彼は、これを臆することなく告白した。また彼は、Xさん以外の2人の部下に対し、規律を乱したとして丸刈りを強要していたこともあきらかになった。
 Bさん自殺後の海上自衛隊の対応について不可解な点がいくつもある。まず、Xさんが自殺したときの「さわぎり」の位置を「土佐沖」としていたが、後に「位置を明らかにすると戦術・戦法が明らかになる」という理由で「太平洋上」という漠然としたものに変更された。もし陸上に近い位置だったなら、Xさんに蘇生のためにヘリコプターで陸上に搬送することも可能だったはずだ。実際にXさんの死の翌日に母が佐世保の官舎に到着したとき、第二護衛艦群の司令というのがやってきて「私も訓練に参加していましたが、ヘリコプターで帰ってきました」と述べたという。
 同僚らは、Xさんが自殺直前にロープを持ってうろついていた、前日の夕食を食べていなかったなどの異変に気づいていたが、後に「自殺するとは思っていなかった」「普段と変わりなかった」と口を揃えている。
 またXさんが持っていた手帳には切り取られたページがあった。何者かがXさんの死後に切り取ったと思われる。Xさんは官舎からミニバイクで港に通っていたが、その鍵が遺族に渡されたのは自殺の三週間後だった。部隊にとって都合の悪い遺留品が出てくることを恐れて選別していたのだろうか・・・。
 Xさんが「さわぎり」に配属される以前の、入隊直後の教育隊での話だが、給料の口座通帳と印鑑を上官に預けさせられて勝手に引き出されていた。97年の4月から9月にかけて60万円以上も引き出されていたという。Xさんは教育隊を終えてから横須賀の術科学校に入ったが、母に「勉強よりも、『金を貸せ』と言われてみんな困っている。僕には金がないからと言って断っているけど、仕方なく貸した人もいる」と嘆いていたという。
 2000年には、Xさんが教育隊に入るより前の班長が分隊員69人から「積立金」として金を集め約31万円を着服していたことが明らかになり、この班長は執行猶予付きの有罪判決を受けた。問題は「さわぎり」のいじめだけではない。自衛隊の闇は深い。

 事件後、海自佐世保地方総監部は組織ぐるみで隠蔽に走り、三曹に対する「いじめはなかった」とする調査資料をまとめた。しかもまるでXさんの側に非があったような内容だった。
 「『百年の孤独』についてはA班長が強要したのではなく三曹が自発的に贈ったものであり、『ゲジ2』という呼びかけについては一度だけであり悪意は無かった、『30分待機』については電話連絡網の確認のためであり隊員と連絡がついた時点で終了だった」・・・と記している(Xさんの生前の訴えや遺族の証言と全く異なる)。
 なおかつ「Xさんは見習い期間を終えても乗務員としての技能が低かったため、上官は厳しく指導せざるを得なかった。しかしXさんは、自分の技能が三等海曹という階級に見合っていないことに悩み続けていた。これが事故(自殺)の大きな原因の一つだと思う」・・・。
 Xさんの母の樋口のり子さんは、
 「(息子を)事故者と特定して、彼に非があったかのように、これでもか、これでもか、と悪口を書き連ねてあるんですよ。あまりにひどい・・・」
 と憤った。
 「あまりの無神経さ、非情さに、私たちは悲しみに打ちひしがれて、言うべき言葉も見つかりませんでした。(息子の)言葉を思い出します。『こんなことでは自衛隊はだめになる』と。本当にその通りです」

 しかも樋口さんに開示された内容は、三曹が自殺した原因を推測できる部分が隠蔽されていた。上官(加害者)の勤務評価や、三曹の心理適正検査などによって「いじめはなかった」という結論の根拠にあたる部分が白抜きで隠されていた。59ページのうち白抜きのないページは7ページだけだった。
 2001年6月7日、樋口さんは真相を糺すために裁判で闘うことを決意。長崎地裁佐世保支部に国に対し5000万円の慰謝料などを求めて提訴し、文書の開示を求めた。そして国が白抜き部分の一部を開示すると、不自然な内容が見えてきた。
 入隊時の適性検査について「情緒の安定した積極外交型の適応性の高い性格」と記されていたが、調査資料ではこの文に続いて「自己卑下が強い」という表現が付け加えられていた。「まるで本人の性格に問題があるという話に曲げられていた」と樋口さんは憤る。
 05年6月の一審判決は請求を棄却したが、樋口さん側が国に調査資料の中身を少しずつ開示させたことで「いじめはなかった」という(調査資料の)結論が揺らぎ、2008年8月に福岡高裁が上官の行為の違法性を認め国に350万円の賠償を命じ、確定判決となった。
 13年10月26日、樋口さんは東京・市ヶ谷の防衛庁で行われた殉職自衛隊員の追悼式に初めて招待された。小野寺五典防衛省は樋口さんに深々と頭を下げ続けていたという。
  「息子が亡くなってここまで来るのに14年。その間、国は情報を出さず、しぶしぶ出してもでたらめな内容を出す。国家は情報を隠す。改竄する。このことを嫌というほど味わった」
 「秘密保護法が成立したら、息子の場合のような情報すら出てこなくなるのでは。その陰で押しつぶされるのは生身の人間です」

 以上、13年12月5日・東京新聞「国の隠蔽、もう嫌 自殺元自衛官の母が懸念」、08年8月25日毎日新聞夕刊「自衛官自殺 国に350万円賠償命令」、「護衛艦さわぎり艦内での隊員自殺事件についての調査委員会報告書に関する質問主意書 平成12年7月5日(福島瑞穂議員による参議院での質問書)、及び「悩める自衛官 自殺者急増の内幕」(三宅勝久/著 共栄書房)より引用。

◇ (魚拓)自衛官自殺、上官の言動は違法 高裁、国敗訴の判決
◇ 21歳自衛隊員の死の真相と秘密保護法 - 虹色オリハルコン(東京新聞の記事が全文引用されている)
◇ さわぎり (護衛艦) – Wikipedia -- さわぎり事件

 弊ブログでも自衛隊に蔓延るいじめについての週刊誌の記事を引用したことがある。俺はもちろん自衛隊の内部事情など知らないが・・・何となくこの組織の雰囲気を想像できるんだよね。学校の運動部や、(建設会社、自動車整備工場、飲食店など職人修行が必要な)ガテン系の職場のような・・・いわゆる「体育会系」の世界ではないかと。
 俺みたいな鈍い奴、不器用な奴、気の利かない奴は、何かといえば先輩から怒鳴られ、小突かれ、いびられる(一方で気の利く奴は好かれる)。こういう、世渡り下手な奴はそれだけで損をする不条理な世界だ。後輩に指導するときは怒鳴ったりせず丁寧に説明したほうが指導の効果があると思うが。怒鳴らなきゃ指導出来ないというのはある意味「甘え」じゃねえか?
 まあ人間だからたまには言葉が荒くなるのも仕方ないかも。厳しく指導せざるを得ない義務感に駆られているのかも。そういうことを一切否定するつもりはないが・・・怒鳴ったり小突いたりしながら指導していると嗜虐心をくすぐられ、いじめに発展してしまうんだろう。
 特に、敵を殺傷することを目的とし異常な訓練を行う軍隊という組織では、しごきや暴力が当然のように行われる。「フルメタルジャケット」観れば分かるだろ。こうして人間性をそぎ落とし、殺人マシーンへと変化させる。
 そもそも軍隊とは旧日本軍が示すように、残虐行為を厭わず、欲望を抑えられずに犯罪を重ねる組織だ。本能の赴くまま敵を殺すように訓練を行い、かつ敵兵+敵国の民衆は悪い奴らだと、自分たちより一段劣った連中だと思い込ませ敵愾心を煽り、罪悪感に囚われず殺傷を重ねるように仕向けているのだから当然だ。それどころか時には司令官が独断専行する。都合の悪いことは平気で改竄・隠蔽する。戦果も捏造する。言わば「甘え」が支配する組織だ。こうして己の位置を高め、増大しようとするのが軍隊の本質だろう。「国防」など笑わせてくれる。だから軍隊でいじめが起こるのは当然だ。これが、この世から軍隊というものが一切無くなってほしい、と俺が思う理由の一つだ。
 まずは自衛隊で今後いじめ、恐喝、横領などが決して行われないように厳しく風紀を改め、外部からの監視・調査も可能とし、全ての情報を保存し、場合によっては開示するように制度を改めなくてはならない。

 特定秘密保護法が施行されれば、自衛隊の全ての不正・犯罪行為が隠蔽される。樋口さんが懸念するように悪質ないじめが行われても資料が表に出ることはないだろう。さらには、自民党政権は憲法を身勝手に解釈して集団的自衛権なるものを行使しようとしているが・・・これはつまりアメリカの侵略戦争をアウトソーシングしようということだ。戦地で自衛隊がかつての日本軍のような戦争犯罪を行っても、あるいは隊員が戦闘行為以外の不審死を遂げても、それらは「特定秘密」に指定され表に出ることはない。だからこの悪法は絶対に廃止に追い込まなければならない。
posted by 鷹嘴 at 23:55| Comment(0) | TrackBack(1) | 日本軍(1950〜) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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Tracked: 2014-05-23 10:22