2016年07月27日

【5月7日】雁屋哲さんの講演+井戸川克隆さんと対談

 2016年5月7日、さいたま市与野本町コミュニティセンターにて【『鼻血は出る』福島の真実と風評】という集会が行われた。人気漫画「美味しんぼ」原作者・雁屋哲さんの講演と、前双葉町町長・井戸川克隆さんと雁屋さんの対談である。かなり広い会場だったがほぼ満員になった。毎度の如く非常に遅くなってしまったが、お二人の発言を書き留めておく。
 (追記予定あり)


 「美味しんぼ」とは言わずと知れた超人気漫画。1983年から小学館ビックコミックスピリッツにて連載。変人の新聞記者・山岡士郎や、その父でこれまた超変人の海原雄山らが繰り広げる、食文化をテーマとした作品。海原雄山はおっそろしい雷親父だが、反骨精神も逞しいようだ。政治家に面と向かって財界との癒着を厳しく批判し、逆上したその政治家から芸術家としての活動の場から締め出してやると恫喝されても、「好きなようにしろ」と啖呵を切るシーンが印象に残っている。原作者の雁屋哲さんも政治勢力や企業の圧力に屈することはない人のようだ。天皇制を批判する「日本人と天皇」は何度も読み返した。
 2014年4月、その「美味しんぼ」で福島県民の鼻血被害が取り上げられると(海原らと福島各地を取材していた山岡が鼻血を出す姿が描かれた)、激しいバッシングが起こったことは記憶に新しい(※追記1)。鼻血の噂はウソだ!鼻血が出たとしても原発事故の影響ではない!風評被害だ!などと・・・。
 しかし森まさこら自民党の政治家も「美味しんぼへの」バッシングに加わっていたが、そもそも民主党政権時代、森まさこや山谷えり子ら自民党議員も福島県民の鼻血被害に言及していたことを忘れたのだろうか?
◇ 放射能メモ国会での「鼻血」に関する質疑
◇ 第180回国会 憲法審査会 第4号  平成二十四年四月二十五日(水曜日)
◇ 参議院会議録情報 第180回国会 東日本大震災復興特別委員会 第8号 平成二十四年六月十四日(木曜日)
◇ 2014-05-16 「美味しんぼ問題」で過去に鼻血について国会質問していた森大臣「科学的事実と不安をごっちゃにしている」と釈明 IWJ Independent Web Journal

 実際、俺の知り合いの福島県在住の活動家や、被災者支援のために長期間放射線量の高い地域に滞在し体調不良を訴えていた活動家も、鼻血問題については「聞いたことはある」と言う程度。だから俺も半信半疑だったが、当事者二人が公の場で自らの症状を訴えているのだ。もう論点は存在しない。(※追記2)
 (ただし、福島でもこの症状はかなり少ないのではないか、と思う。だから雁屋さんや井戸川さんのようなごく少数の声を上げた人々が、ウソを言っているとバッシングされるのだろう)
 「美味しんぼ」への激しいバッシングの後、雁屋さんはしばらく沈黙を守っていたが、15年2月「美味しんぼ『鼻血問題』に答える」を出版した(会場でも販売されていたがすぐに完売!)。しかしこの本に対する反論は数少ないそうだ。具体的な事実と論考を示しても黙殺されるのはよくある現象だな(ちなみに雁屋哲さんのブログも反応が少ないという)。講演はこの著書をベースにして行われた。
 集会開始直前、独特の風格のある年配の男性がおぼつかない足取りで壇上に上がった。大丈夫かなと思ったが、何かのメディアで見たようなお顔だ。雁屋さんか!(足の障害で歩行が困難だという)。主催者の挨拶の後、雁屋さんの講演が始まり、福島県各地を訪れて撮影した写真をパワーポイントで映しながら福島の現状を語った。


 2011年以降、雁屋さんは「全県味巡り」の一環で東北各県を訪ね、震災の被害を目の当たりにした。福島では至る所で「フレコンパック」を目にした。JR富岡駅の跡地も、民家の前にも、フレコンパックが高く積み上げられていた。「しゃへい」と書かれた黒い袋の山は、文字通り放射線を遮蔽するための壁で、その奥には放射線量の高い廃棄物が置かれているという。
 雁屋さんは13年5月には福島第一原発を取材する機会を得たが、取材を終えて帰宅した後、重い疲労感を感じた。「誰かに背骨を引っ張られているような、地面に引きずり込まれるような」感覚があり、数日後には鼻がムズムズすると思ったら突然「鼻血がダラーと出て」、ティッシュを一箱使ってしまった。これが何度も続いた。同行したカメラマンも同じ症状が出た。井戸川克隆さんも疲労感と鼻血に苦しんでいる。
 雁屋さんは、これらの症状は「内部被曝」の影響であろうと語る。(弊ブログの過去ログも参照にどうぞ)。肥田舜太郎さんが指摘しているように、多くの原発労働者や原発事故の被害者、核保有国の核実験に立ち会った兵士らが苦しんでいる体調不良・倦怠感の原因だ。
 雁屋さんは福島に線量計を持参したが、風向きによって数値が変化したという。放射能を帯びた微粒子が風で飛んでくるのだろう。雁屋さんは、こうした微粒子が鼻の粘膜に張り付き、微量な放射線が細胞を破壊し、鼻血の原因になるのではないかと推測する。長時間の低線量被曝が人体を蝕む「ペトカウ効果」だ。


 東電福島原発事故は発生から5年経った今も収束には程遠い。メルトスルーした1、2、3号機は「水をかけていても(温度の)バランスがとれていて下がらない」状態であり、毎日大量の汚染水が発生している。こうして放射能汚染が拡大しているが、日本政府は低線量被曝の健康被害を否定し、避難者の帰還を促している。しかし(現時点の科学では安全なのか危険なのか)「まだハッキリ分からないものは、危険だ」と判断するべきではないか。
 福島県民には「安全だから住めよ」という圧力が加わっているが、「避難指示解除準備区域」の基準は年間被曝量が20m Sv以下だ。帰還できる状態ではない。一方では、栃木県の野草「コシアグラ」からも高い線量が測定されている(参考)。東日本の大地は広く深く汚染されている。
 元々雁屋さんは、福島の農業を応援しようという立場で、福島各地の農家を取材していた。ある農家は、水田に様々な対策を講じ、収穫後に全袋検査を行い、1kgあたりわずか11ベクレルという結果が出た(国の基準は100ベクレル以下)。しかしその農家の男性は、農作業のときに恐怖感があると語る。土に触れなければ農業は出来ない。しかしその土が汚染されている。収穫した米が基準値以下でも、農作業の際の被曝は避けられない。これを聞いた雁屋さんは考えを変えた。今では福島の野菜は買わないようにしている、という。しかし雁屋さんは今後も福島の人々と共に闘っていく決意を述べた。


 続いて、井戸川克隆さんと雁屋さんの対談【帰還政策と逃げる勇気】が行われた。
 井戸川さんは今でも1日半に1回または2日に1回の間隔で鼻血が出るという。井戸川さんが壇上に置いたビニールに包まれた大きな白い紙の塊は、井戸川さんの鼻血をふき取ったティッシュだった。今頃になって「井戸川さん、やっぱり俺も鼻血出たよ」と告げる町民もいるという。
 まず井戸川さんは、福島では現地対策委員会が作られるはずだったが結局は作られなかったこと、「避難指示解除準備区域」の20mSv以下という基準も地元住民抜きで決められたことを指摘し、「熊本大地震の対応を見ていても感じるが、被災地のことは被災地の自治体が決めるべきだ」、(自民党が企てる)「緊急事態法などいらない」、「法を行政(被災地の現状を理解しない対応)に合わせようとしている。逆なんだ」、「私たちは棄民なんだ」と訴えた。
 (知り合いの活動家によると、東京の人間が福島の現実を理解しようとせず、物事を勝手に進めていく・・・という構図は、反原発の市民運動にも見られる、という)

 雁屋さんは「除染なんて、除染になっていない」「水田に山から持ってきた土を埋めるだけ」「儲かっているのはゼネコンと下請け、ヤクザだ」「フレコンパックのすぐそばに人が住んでいる」と指摘。井戸川さんはこういう現状を踏まえて「一旦、人を離れさせるべきだ」と述べた。
 雁屋さんによるとチェルノブイリでは、倦怠感があり「動くのもいやだ」という15歳くらいの子どもがいる。「低線量被曝で赤血球が傷つき、脳の酸素供給に支障が出ているのではないか」・・・という。
 山下俊一はチェルノブイリを訪問したこともあるそうだが、井戸川さんが「あの山下俊一も(福島原発の)事故前にはまともな論文を書いていた。放射能でやられたのかも?」と語ると場内から笑いが起こった。しかし井戸川さんは「皆さん笑っていますが、他人事ではないですよ。ここも東海原発から250km以内です。皆さん、避難する場所は確保していますか?私たちみたいになりますよ!」と警告すると場内が静まり返った。
 また井戸川さんが「オーストラリアは医療被曝が世界一少ない」と述べると、オーストラリアと日本の二重生活をしている雁屋さんが「オーストラリアは、ウランを採掘して売りまくっている。アボリジニを被爆させている」と、別の面から批判した。


 続いて質疑応答が行われた。関東各地の被曝についての質問に対して雁屋さんは、放射性微粒子は風に飛ばされる。千葉県など各地に線量の高い地域があると、また原発についての子どもの副読本には、原発の危険性が全く書いていないと指摘。
 東京では金町浄水場の周囲の土手の線量が高い。しかし、「東京の水が安全かどうか、という問題ではなく、日本人全部の問題、自分の問題だ」と指摘。全くその通りだ。
 井戸川さんは福島の住民帰還について、住民に対する帰還の同意/合意の確認は全く行われず、行政が勝手に決めているだけ。やたら効果の無い除染をやっている。だから福島県は人体実験の場と化している。離れるしかない。そもそも、人間にヨウ素剤を飲ませて避難させることがおかしい。人間ではなく、原発を追い出すべきだ!と訴えた。
 雁屋さんは「汚染水はコントロールされているなどと嘘をつく安倍のような政治家を許してはならない」と語り、場内から「安倍を倒そう!ガンバロー」コールが起こった!充実した集会だった。


 その晩、集会の模様をツイッターに書き込んだところ・・・日頃はあまり反応が来ない俺のアカウントに、鼻血の事実を否定するメンションが何件もついた。

 議論を求めるような態度ではなく、真っ向から否定する内容だった。俺のアカウント以外の場所でも、似たようなツイートがあった。それらのアカウントの中には、脱原発の立場を標榜するアカウントもあった。

 どうやら「鼻血」というキーワードに過敏に反応する向きが多いようだ。当然だろう。前述の知人の活動家が訴えていた倦怠感のような症状なら、個人的な体調不良あるいは精神的なストレスだと片づけることが出来る。しかし鼻血のような第三者の目にはっきりと映る症状を訴えているなら黙殺できない。だから奴らは躍起になって、東電福島原発事故との関連性を否定するのだろう。「鼻血?原発事故と関係ないのでは?」では済まないのだ。激しく攻撃し潰そうとするのだ。
 これは被曝の問題に限らず、よくある手口ではないか。たとえ鼻血という一つの症状が否定されても、原発事故の影響全てが否定されたわけではない。些末な問題だ・・・などと悠長に構えていられない。奴らの手口を見逃してはならない。
 奴らは、原発事故の様々な影響のうち、まずは鼻血の症状のような目立つ問題から一つずつ否定する。さらには甲状腺がん多発も原発との因果関係を否定する。内部被曝の影響も否定する(肥田舜太郎さんを罵倒するアカウントもあった)。こうして原発に対する世論を和らげていく。最終的には原発事故の影響全ての否定、住民の完全帰還、そして現存する原発全ての再稼働と新増設だ。
 もちろん上掲のような自称”脱原発派”は現段階ではそこまで考えていないだろう。しかしSEALDSという疑似市民運動の後見人?が憲法九条第二項の改悪を唱え始め本性を現したのと同様に、連中の主張は徐々に変質し、政府の再稼働政策を受け入れ、抗う人民に敵対するだろう。
 あからさまなネトウヨの妨害も煩わしいが、脱原発を唱えつつ、戦争法反対を唱えつつ、徐々に政府の意向に沿った方向に誘導しようとする連中もまた厄介だ。そういうわけで我々人民は完全に退路を断たれたようなものだ(笑) 全ての原発を廃止させるため、全ての原発被害者を救済するため、自分自身の命を原発から守るため、こういう連中の妨害を粉砕し、日帝・米帝と大資本を打倒するため、非和解に闘わなくてはならない。



※追記1 この集会の後、「美味しんぼ『鼻血問題』に答える」(遊幻舎)を書店で購入した。以下は全て同書から引用。
 2014年4月の「ビッグコミックスピリッツ」第22・23号合併号に「美味しんぼ 福島の真実編」第22話が掲載された当時、雁屋さんはシドニーに滞在していた。スピリッツ編集部に嫌がらせの電話が殺到していることを知った雁屋さんは、自分のブログ上にて、スピリッツ編集部ではなくブログのメールフォームで意見を送るように呼びかけた。しかし編集部への嫌がらせは止まなかった。この雁屋さんのブログ上での声明が余計火を付けたらしい。
 編集部には20回線あるが、それが朝10時の業務開始から夜7時、時には夜10時まで続いた。それもまともな抗議などではなく、「いきなり怒鳴る。喚く。電話を受けた編集者が返事をすると、その返事が気に入らないと喚く。返事をしないとなぜ返事をしないと怒鳴る。それが1時間にわたって続くのです」。編集者はこうした電話の応対に追われ、通常業務にも支障を来すようになった。言論封殺は決して政権の手のみで行われるのではないんだな。よくあるケースだ。
 雁屋さんは編集長に「そんな電話はすぐ切ってしまえばいいのに」と言ったが、出版社の立場としては、読者を名乗っての電話には丁寧に応対しなくてはならないという。嫌がらせ電話をしてきた連中も企業のこういう立場を肌で知っているようだ。
 このため雁屋さんはブログを更新すると編集部に迷惑がかかると判断し、しばらく更新をストップした。


※追記2 2012年11月に、岡山大学・熊本学園大学・広島大学の研究者による合同プロジェクト班が、双葉町民の健康状態についての疫学調査を行い、2013年9月6日にその結果が発表された。
 この調査が福島県双葉町、宮城県丸森町筆甫地区、滋賀県長浜市木之本町の3地区を対象として行われ、木之本町と比較して双葉町と丸森町では「体がだるい、頭痛、めまい、目のかすみ、鼻血、吐き気、疲れやすい」などの症状が多く、「鼻血に関して両地区とも高いオッズ比を示した」という。

 また伊達市保原小学校の「健康だより」(2011年)には、次のような記述があった。
 「この一学期間に、保健室で気になったことが二つあります。一つ目は、鼻血を出す子が多かったこと。二つ目は、学校感染症(インフルエンザを始め、溶連菌感染症・リンゴ病など)が夏休み直前まであったことです。放射能との因果関係はあるのかどうかわかりませんが、とても心配です」
  (参考)

 一方、広河隆一氏はチェルノブイリ原発事故による住民の健康被害を調査している。1990年、IAEA(国際原子力機関)がチェルノブイリ現地に調査団を派遣したが、その報告内容は健康被害の不安を打ち消すものだった。広河氏はこれに疑問を感じ、1993年から96年にかけて広河事務所とチェルノブイリ子ども基金の共同で、現地NGOの協力を得てチェルノブイリ原発から数十キロの地域の住民2万5664人を対象として調査を行った。それによると、「避難民の5人に1人が鼻血が出ると答えた」という。(P-48~50)

posted by 鷹嘴 at 23:00| Comment(1) | TrackBack(0) | 原発 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
調べてみた。

成人の鼻血の原因を調べると
自律神経失調症が上位に来ます。

逆に自律神経失調症から症状を調べても
鼻血は挙がってきません。

自律神経失調症の要因はストレス・疲れ・寝不足です。

ストレス・疲れ・寝不足で
自律神経失調症に掛かり
その一症状として鼻血が出た。

と考えるのが妥当でしょう。

念のため、鼻血の根拠としている
「ペトカウ効果」も調べました。

雁屋氏のブログによると氏の確認した最大線量は1.1μSv/h
ペトカウ効果の実験はSv/hに換算して
γ線で0.6 mSv/h〜600 mSv/h
(β線の割合が高いと数値はそれ以上になります)

低線量被曝と言っても「ペトカウ効果」の実験した
放射線量は観測値よりかなり大きい。

さらに「ペトカウ効果」の実験では
放射線により直接破壊されているのではなく,
放射線により発生したスーパーオキシドアニオン(・O2-)が
りん脂質中の不飽和脂肪鎖を切断していること,
そしてそのスーパーオキシドアニオン(・O2-)を除去し,
放射線の影響を最小限に抑えるためのシステムが
生体には備わっていることがすでに確かめられている

つまり「ペトカウ効果」では
鼻血という症状を説明できないことがわかりました。

もともとペトカウ氏も低線量放射線が
人体に多大な影響を与えるなんてことは何一つ言っていない
ということです。

以下参考ページ
http://preudhomme.blog108.fc2.com/blog-entry-158.html
Posted by aku at 2016年11月26日 23:04
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