2017年3月23日、日比谷図書文化館コンベンションホールにて「新共謀罪を粉砕しよう!3.22集会」が行われた。西村正治弁護士の特別報告、内田博文弁護士の講演に続き、昨年「アパート契約違反」という言いがかりで弾圧されたユニオン習志野の役員、白タクでっち上げ弾圧を受けた3人、裁判傍聴の際の公務執行妨害という言いがかりで弾圧された医大生ら闘う学生、冤罪で獄中42年の星野文昭さんの妻の暁子さんが発言した。
西村弁護士は、「共謀罪の対象は277件だか、日本最大の犯罪組織を取り締まる目的の刑法194条(特別公務員職権濫用)と195条(特別公務員暴行陵虐)が抜けている」と指摘。これについて法大文化連盟の武田雄飛丸委員長は、昨年9月の全学連大会に於ける私服警官による学生への集団暴行事件に言及。
全学連大会参加者を殴打し、マスクを剥がす、帽子を投げる等する公安警察。頭部や足を負傷し、出血した学生もいる。普通、警察は弾圧する際、何らかのイチャモンをつけてくるが、それすら無い。問答無用の暴力行使だ。絶対に許せない。拡散希望。https://t.co/UNZRX0CFlX
— 安倍と田中優子の爆砕を目指す法大文化連盟 (@jinmin1991) 2016年9月4日
何度も見てもすごいねこれ。この暴行犯らは何で逮捕されないの?そっか逮捕する側だからか。
このように国家権力がどんな犯罪を「共謀」しそれを実行しても「共謀罪」で裁かれることはないのだ。だから共謀罪の真の目的は犯罪を取り締まるためではなく、人民を弾圧することだ。
内田博文教授の講演は「治安維持法と共謀罪」。レジュメを元に感想を書いておく。「現代史資料 45 治安維持法」(みすず書房)も参考にする。
治安維持法は1925年(大正14年)に成立。その第一条に「国体を変革し又は私有財産制度を否認することを目的として結社を組織し 又は情を知りて之に加入したる者は十年以下の懲役又は禁錮に処す」とある。つまりは体制打倒や共産主義を掲げる党を結成すること、及びその組織に加入することを罰する法のはずだが、それに留まることはなかった。
政府はこの新法への懸念について「労働運動を阻止するようなものではない」と説明していたが、次々と改悪が行われ弾圧に利用された。というか捜査機関の暴走を追認するため「法改正」が後をついていったようなものだった。
1928年(昭和3年)3月15日、治安維持法によって共産党の活動家やシンパ数百人が検挙される大弾圧が行われた(三・一五事件)。同年の治安維持法「改正」によって「国体変革」の罪の最高刑は死刑となり、また「結社の目的遂行の為にする行為を為したる者」も処罰されることになった。
権力が三・一五事件で検挙した者の多くは共産党員ではなかったので、この法で罰せられるはずはなかったのだが、第二条の「協議罪」(其の目的たる事項の実行に関し協議を為したる者)によって追及された。しかし文書の作成や配布を手伝っただけに過ぎないシンパをこの「協議罪」で裁くことは無理があったため、党員だけでなくシンパすらも罰することが出来るような「法改正」が行われた。つまり、その団体の目的や方針をさほど理解していなくても、チラシを配る程度の手伝いをしただけで「結社の目的遂行の為にする行為を為したる者」として罰せられることになったのだ。
1932年(昭和7年)には「檄文」を配布しただけの者が「結社の目的遂行の為にする行為」として有罪判決を受けたという。同年、当時は共産党員だった田中清弦(後に獄中で転向)の内縁の妻が「田中の家事一切を担当した」「資金を田中らに渡した」ことが「日本共産党の目的遂行の為にする行為」だとして有罪判決を受けた。活動家に飯を食わせただけで有罪かよ。要するに活動家と関りを持った者全てを標的にしたのだろう。
続いて1936年(昭和11年)には「思想犯保護観察法」が成立した。「治安維持法の罪を犯したる者に対し刑の執行猶予の言渡ありたる場合又は訴追を必要とせざる為公訴を提起」されなかった者ら、及び刑期を終え出所した者や仮出獄した者に対し、保護観察審査会の決定により保護観察対象とする制度だった。出所後も、執行猶予でも、不起訴になって釈放されても、権力の束縛から自由になれない!
さらに1941年(昭和16年)、またしても治安維持法が「改正」された。検察官と司法警察官に強制処分権を与え、捜査段階の自白調書に証拠能力を与え、指定弁護人制度を設け、控訴審を省略した。拷問して虚偽の自白に導けばそのまま確定判決か。
しかも予防拘禁制度が設けられた。治安維持法で服役して刑期を終えても「罪を犯すの虞あること顕著なるとき」は、そのまま獄に留め置くことを可能とする制度だった。転向しなければ刑期を終えても釈放されないのだ!まるで古代国家のような野蛮さだな。
いくらなんでも今後の日本でこんなことはあり得ない・・・と思うだろうが、どうかな。こんなことを言い出す奴もいるようだよ↓
若狭勝氏が、9月にも立ち上げるという「小池新党」
— 盛田隆二📎 (@product1954) 2017年8月24日
東京五輪に向けて『事前拘禁』を公約に掲げるのだろうか?剣呑だ
若狭氏「共謀罪の次は、テロを実行する恐れがある人物を緊急的に身柄拘束できる制度。令状がなくても逮捕できる『テロ未然防止法』を作り『事前拘禁』を制度として導入すべきだ」 pic.twitter.com/FEMRVm0F4m
さぞかし、デモに参加したりツイッターで政府批判すれば「テロリスト予備軍」として監獄入りだろうな。
しかも、「結社を支援する目的の結社」や「結社の組織を準備するための結社」も罰せられることになった・・・。従来通り「国体を変革することを目的として結社を組織」する、その組織の指導者を務める、従事する、その組織に加入する、「目的遂行の為にする行為」が罰せられるだけでなく、そういった結社を支援するための結社を組織すること、そういった結社を準備するための結社を組織することも罰せられることになった。しかもそのような目的の集団も作っても、それに係わっただけでも罰せられるという。
つまり、治安維持法に違反する団体Aだけでなく、団体Aを支援する団体Bも、団体Aを立ち上げるため・あるいは再建するための団体Cも摘発できることになった。それどころか、これら団体に関することで何人かで集まっただけでも摘発される。権力がそのように判断すれば(そういう言いがかりを付ければ)摘発が可能なのだ。
これはいくらでも悪用が可能だ。どんな些細なことでも権力に目を付けられれば最後だ。実際に横浜事件は単なるいいがかりから始まった。編集者らの単なる宴会が、共産党の再建の謀議をしていた、という嫌疑を付けられたのだ。こうして治安維持法は終戦後の1945年10月に廃止されるまで暴威を振るった。
それにしても・・・治安維持法の骨子は「国体を変革する目的の組織」を摘発するものだった。共謀罪は「テロ」など犯罪行為の相談(準備行為を伴ったものだと言うが、恐らく単なる散歩でもアウト)を摘発するものだ。仲間を集めて団体を作ることを罰する法と、話し合いを罰する法。ほぼ同じ物だと考えていいだろう。
「国体を変革する」ための行為が実行されなくても、「テロ」行為を実行しなくても罰せられる。要するに双方とも「思想」を、いや政府を批判すること自体を咎めるものだ。そういう団体を一網打尽にする目的だ(ちなみに条文の中に「自首した者は刑を減軽又は免除」とあるだろ。これぞ権力が好む組織破壊の手口だ)。
「テロ」を防止する意図などさらさら無いだろう。目的は人民を「転向」させ、脅えさせ、口をふさぐことだ。治安維持法が「改正」を重ねて牙をむいたように、共謀罪も今後「改正」が重ねられ労働者人民を圧迫するのだろうか。こんな悪法は直ちに廃止に追い込まなくてはならない。
(つづく)