2007年10月31日

柏崎刈羽原発で発生した事故の数々

2007年7月16日午前10時13分、新潟県中越地方に中心にマグニチュード6.8の「新潟県中越沖地震」が発生し、新潟県で死者11名、負傷者1957名、住宅の全壊・一部損壊など2万8517棟(被害統計を参照のこと)、長野県で負傷者29名、住宅の一部破損318棟(被害統計を参照のこと)という甚大な災害をもたらした。
新潟県柏崎市にある刈羽原発では放射能漏れ、火災、浸水など数多くの事故が発生した。非常に遅くなったがその事故のごく一部を書き留めておく。地震発生後3ヶ月以上経っても新しい情報が次々と発表されるので継続して収集する。

■1号機の浸水(その他)
■3号機のトランス火災
■4号機の海水浸水
■6号機の水溢れ
■6号機のクレーンが破損
■6号機のタービンに傷
■7号機から放射性物質の大気放出
■7号機の水漏れ
■7号機制御棒抜けず
■7号機プールの壁から水漏れ
■主排気筒のダクトのズレ
■廃棄物を入れたドラム缶の転倒
■雨水の浸入
■水中作業台の外れ
■地下放水路にひび
■建屋の傾き、地盤沈下
■作業員がプールの水をあびる


■1号機の浸水(その他)

地震による地盤沈下のため1号機の建屋の地中の電線引き込み口に隙間が生じ、そこから消防用水が「放射線管理区域」に流れ込み地下5階まで浸水した。近くの地中に埋設されていた消防用水の配管が破裂していたのである。
災害に備えるための消防設備が、災害で使用不能となるとはナンセンスだが、それだけではなく原子炉建屋の浸水という二次災害を起こし、約2000トンの放射能に汚染された水を作り出してしまったのである。建屋自体が倒壊することは無かったが、プラント全体としての災害対策は考慮されていなかったようである。
◆柏崎刈羽1号機、原発建屋浸水2千トン 配線口にすき間 (魚拓)

*9月27日、1号機の「気水分離器」(69トン)の脚が曲がっていたことが発表された。
◆原子炉内の機器が変形 柏崎刈羽原発1号機 (魚拓)

*10月5日は地下5階の廃液タンクから微量の放射線を含む2.4トンの水があふれる事故が発生した。
◆柏崎刈羽原発、建屋内に放射性の水 (魚拓)


■3号機のトランス火災

原子炉建屋の外部にあるトランス(変圧器)が地震の影響で地絡事故を起こし、火災が発生した。この消火に2時間も要している。消火栓は使い物にならず、職員らはただ眺めているだけだった。
原因は、地盤沈下のためトランスが傾いたためだった。原子炉やタービンのための建屋は堅い地盤の上に建設するように定められているが、トランスについては厳しい設置基準は無く、このトランスは軟弱な地盤の上に造られていた。起こるべくして起こった事故だと言える。
また1号機から4号機までの消火栓の配管は地下で連結しており、これらの号機では消火栓が使用できなくなっていたと見られる。他の5基の原子炉でもトランス周辺の損傷、絶縁油の漏れなどが発生していたので、火災の可能性があった。
さらに1号機のタービン建屋では防火用のケーブル断線、炭酸ガス消火設備の配管の破断が発生した。軽油タンクでは泡消火用の火災感知器が断線した。火災に備えるための機能が奪われていたのである。
◆(魚拓)柏崎・刈羽原発は鎮火、放射能の漏出なし
◆(魚拓)原発火災、消火に2時間 「想定外」の対応に課題
◆お粗末、原発消防力 消火栓使えず職員傍観 中越沖地震 (魚拓)
◆原発変圧器、地盤沈下で出火 土の上に建設、傾く (魚拓)
◆他の原発5基も変圧器損傷 油漏れも 柏崎刈羽 (魚拓)


■4号機の海水浸水

原子力発電に於ける「冷却水」は原子炉の熱で100℃を越える水温となり、蒸発してタービンを回転させるが、これを凝縮(水に戻す)して循環させるために、「復水器」にて海水で間接的に冷却する。この海水を循環させるゴム製の配管に穴が開き、約24トンの海水が施設内に流れ込んだ。言うまでもなく設備にとって浸水は致命的な災害であり、海水の浸水は復旧をさらに困難にさせるだろう。
そもそも「復水器」への海水の供給が止まれば「冷却水」を冷やすことが出来ず、原子炉内を冷却することも出来ない。また「冷却水」の配管に穴が開く事故であったならば、最悪「空焚き」状態になり「メルトダウン」に至る。(そうなる前に自動停止すると思うが)
◆(魚拓)柏崎4号機、海水24トン放射線区域に ゴム製配管損傷


■6号機の水溢れ

6号機の「使用済み核燃料の貯蔵プール」が揺れのため微量の放射線を含む水があふれ、電源ケーブルを通す壁の穴を通って「放射線管理区域」から「非管理区域」に漏れ出し、海に流出した。

建物の壁や床や梁には、配管や電気配線を通すための貫通部があり、隙間はモルタルなどで埋められている。しかし通常の施工では水圧に耐えうるほどの防水性は無いので、貫通部が水浸しになれば反対側に水が漏れる。コンクリート建築でも床が水浸しになれば下の階の天井から水漏れするのはこのためである。
この現場では水漏れを防ぐためのパッキンがあり、それが地震で緩んだため水漏れが起きた可能性があるとのことだが、平常時ではどの程度防水性があるものなのだろうか?配管からの水漏れなどに対しどの程度耐えうるものなのだろうか?
また、6号機以外の全ての号機でも「プール」の水が作業フロアに溢れていた。
◆(魚拓)放射能含む水漏れる、柏崎刈羽原発 中越沖地震
◆(魚拓収得失敗!)放射性物質含む水、電線ケーブル伝い漏出か 柏崎刈羽


■6号機のクレーンが破損

6号機のクレーンは両側のレールで支えられて原子炉の真上を移動できるが、そのレール上を走る車輪の車軸が両側とも折損した(7月24日に東電が発表)。地震発生時には原子炉の真上にあったので、最悪の場合落下していたと思われる。
また、8月3日には4つある車軸の継ぎ手のうち3つが破損していたことも発表された。
東電はこれらの事故について、「想定外」の力が車軸に加わったため、と発表している。
◆(キャッシュ)天井クレーンが破損 原子炉点検、大幅に遅れ 6号機
◆大型クレーンに新たな破損 柏崎刈羽原発6号機 (魚拓)
◆柏崎刈羽原発:クレーン破断は想定外の回転力…東電解析 (魚拓)


■6号機のタービンに傷

10月23日、6号機のタービン回転翼に傷があることが発表された。地震の揺れで羽根同士が接触したと見られている。

◆地震でタービンの回転翼に傷 柏崎刈羽原発 (魚拓)


■7号機から放射性物質の大気放出

7号機の主排気筒からは放射性物質が大気中に放出された。タービンの軸受け部分から漏れたという。
この原発は原子炉の熱で蒸気を作り、タービンを回転させる「沸騰水型」(BWR)である。つまり「加圧水型」(PWR)とは異なり、タービンを回転させる蒸気自体が放射性物質なので、タービンの事故は放射能漏れと直結する。

◆(魚拓)柏崎刈羽原発、放射性物質は大気中にも 中越沖地震
◆放射性物質の放出止まる 柏崎刈羽原発 (魚拓)


■7号機の水漏れ

7号機の原子炉の上に、直径約13m、高さ約8mの円筒形をした「原子炉ウェル」があり、核燃料の取り出しの際に放射能を遮蔽するため水を張る。ここから1時間当たり500ccの水漏れが発生していることが10月8日に確認された。

◆柏崎刈羽原発7号機、放射性物質含む水漏れ (魚拓)


■7号機制御棒抜けず

10月11日に東電は、炉心に挿入して核融合を抑制させるための制御棒を引き抜く作業を始めたが、7号機の1本が抜けなかった。どこかの機器に変形が生じていると見られる。
地震の影響だとすれば、抜けなくなるならまだしも緊急停止すべき場合に炉や制御棒などが揺れで変形し挿入できなくなり、暴走・・・という事態も考えられる。今回の地震発生時には全て自動挿入が完了したが。
◆制御棒1本抜けず 柏崎刈羽原発7号機 中越沖地震で (魚拓)


■7号機プールの壁から水漏れ

10月21日、7号機の「使用済み燃料プール」の、2mもの厚さがあるコンクリート製の壁にひびが走り、「微量の放射性物質を含む水」が漏れていることが発表された。常識的に考えて完全な補修は不可能であり、新たに造り直すしかないだろう。

◆燃料プールの壁にひび、水漏れ 柏崎刈羽原発 (魚拓)

*10月23日、その反対側の壁にもヒビが生じていることが発表された。
◆燃料プール水漏れ、さらにもう1カ所 柏崎刈羽原発 (魚拓)


■主排気筒のダクトのズレ

1号機から5号機までの「主排気筒」のダクト(直径約4m)が変形した。1号機のダクトには2箇所の亀裂が生じた。
◆原発の排気ダクトに亀裂 柏崎刈羽、放射能漏れなし (魚拓)


■廃棄物を入れたドラム缶の転倒

「ネジや配管の一部、手袋、焼却灰」などのゴミを貯蔵していた数百本のドラム缶が地震で転倒し、そのうち数十本のフタが開き、床が放射性物質に汚染されたという。杜撰な管理にあきれるばかりである。
◆放射性廃棄物入りドラム缶、横倒し 原発が写真公表 (魚拓)


■雨水の浸入

1号機や3号機の附属設備などの「放射線管理区域」に、雨水が約30トン浸入した。原因は消防用水やプールの水の浸入と同様で、電線や配管を引き込む貫通部からの浸水である。
それにしても放射線の「管理区域」から区域外へ、あるいは区域外から「管理区域」への水の浸入など、絶対に起こしてはならない事故ではないだろうか。
◆放射線管理区域に雨水30トン 地震ですき間 柏崎原発 (魚拓)


■水中作業台の外れ

2・3・4・6・7号機の「使用済み核燃料貯蔵プール」の、水面下約2mの部分の側壁に取り付けられていた重さ約200kgの水中作業台が地震の揺れで外れた。
4・7号機では完全に外れ、約6m下にあるラック(核燃料が格納されている)の上に落下。東電は「(核燃料の)損傷の可能性は全くなかったとは言い切れないが、プール内の水の放射能を分析した結果、燃料は破損していないと考えている」というふざけたコメントを発表した。
東電によるとこの作業台は「工具のような扱い」であり、耐震性の基準はないという。
◆核燃プールで設備落下 不具合1478件 柏崎刈羽原発 (魚拓)


■地下放水路にひび

◆柏崎刈羽原発、地下放水路にひび 中越沖地震で (魚拓)

タービンを回転させた蒸気を冷却し凝縮させるための海水の地下放水路に、「数十ヶ所、最大で長さ90メートル、幅7ミリ」のヒビが生じていた(10月4日に発表)。このヒビが進行して崩落し放水を妨げるようなことになれば、原発が運転不能になるだけでなく重大な事故発生も考えられる。


■建屋の傾き、地盤沈下

地震の影響で7号機の原子炉建屋が「100m当り最大2cm」傾いていたことが明らかになった(10月12日に発表)。
また、1号機の原子炉建屋付近にて「最大約1.5m」の、ポンプ室付近では液状化現象によって「最大1mほど」の地盤沈下が生じた。

◆柏崎刈羽原発:中越沖地震で原子炉建屋傾く 地盤沈下も (魚拓)

また、この原発の直下に断層が走っているのも周知のことである。
◆柏崎原発直下に断層21本確認 (魚拓)
地球の中心に向って真っ直ぐに伸びているのではなく、斜めに伸びているため原発の真下も通っているのである(東電は活断層ではないと主張している)。


■作業員がプールの水をあびる

1・6号機にて、この原発の「協力会社」の作業員が、地震の揺れで「プール」からあふれた水を浴びてしまった。
◆原発作業員、核燃料プールの水かぶる 中越沖地震時 (魚拓)


・・・以上、「新潟県中越沖地震」によるこの原発のトラブルのほんの一部を断片的に紹介した。今後も随時更新する。8月15日のアサヒ・コムの記事によると総件数1478件だという(当然その時点より明らかになった件数は増えている)。この原発を復旧させるには莫大な費用と時間と手間がかかるだろう。そもそも基本構造が地震の多い我が国には不向きであり、大事故を起こす可能性のあることがはっきりしたので、速やかに廃炉になることを望む。(ちなみに新潟県の泉田裕彦知事は県議会で「廃炉もあり得る」と述べている)

総件数のうち、浸水事故は付属設備を含めて264件に上るというが、言うまでもなくこの処理は作業員が手作業で行っている。「使用済み核燃料の貯蔵プール」の溢れた水を、防護服を着た作業員が拭き取り作業している模様も度々報道されている。防護服を身に着けているからといって放射能から隔離されているわけではない。
一日の被曝量を制限以下にするために、時間内で作業を済ませて退出しなければならず、また被曝量を測定する「アラームメーター」は防護服の内側にあり、被曝量が制限を越えたときの警告音が出たときは「レントゲンなら何十枚もいっぺんに写したくらいの放射線の量」を浴びているのである。
「原発がどんなものか知ってほしい」というサイトに、原発労働の恐ろしい実態が描かれている。著者の平井憲夫さんは全国各地の原発で技術者として従事し、被曝による癌のため58歳で亡くなった。

このように原発とは、現場の労働者の健康・生命と引き換えに発電を行うものである。この事故を「いい体験にしたい」などとほざいた東電の勝俣恒久社長には眼中にないことだろう。
要するに原発とは、原発を使おうと考える人間が、自分ではやりたくないことを他人に押し付けることで、維持されるのである。自分が直接手を汚すことはないから、「安全だ」と偽れるのである。これは戦争、軍隊も同じだろう。
柏崎刈羽原発の操業を再開したければ、東電の経営者や正社員が、政治家や官僚が、放射能に汚染された水を拭き取る作業や炉心から制御棒を抜き取る作業に加わるべきである。小泉や小沢が中東に自衛隊を派遣させたければ、自らが一兵卒として参加するべきである。憲法違反である自衛隊を存続させたいというのなら、自らが旧日本軍の伝統を残すあの組織に入隊するべきである。自分では無理だというのなら息子か孫に任せてみるべきである。
もちろん彼らはそんな発想は全く考えないだろう。だから我々国民は、人がやりたがらない仕事を押し付けようとする権力者を許してはならないのである。
posted by 鷹嘴 at 23:00| Comment(1) | TrackBack(2) | 原発 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
原発に火災が起きた時にヘリから写ったあの4人の作業員。
健在でしょうか?

未だに気になって仕方ありません。
Posted by jiranjiran at 2008年07月14日 11:31
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